地図や位置情報を用いて、データの可視化や各種分析、機械学習に応用できるプラットフォームを提供するCARTO(本社・米ニューヨーク州)。特別な知識を必要とせず、クラウド、オンプレミスに関わらず位置情報に関連したアプリケーション開発や分析基盤の構築を支援する。導入事例は、マーケティングやサプライチェーン管理、災害対応など幅広い。同社のCEOであるLuis Sanz氏に、ビジネスの概要や今後の展望を聞いた。

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きっかけは絶滅危惧種の追跡 ビッグデータとIoT分野の発展とともに急成長

 スペイン出身のSanz氏は、サラゴサ大学で電気工学の修士号を取得した後、AccentureのコンサルタントやEricssonのエンジニアとしてキャリアを重ねる。2008年にニューヨークに渡り、コロンビア大学でMBAを取得。卒業後、ソーシャルメディアを活用するマーケティングテック企業Olapicを創業する。Olapicをナスダック上場企業であるMonotypeに売却したのち、2019年にCARTOにジョインする。

「Olapicを売却したあと、スペインに戻るつもりでしたが、CARTOに参画する機会に恵まれました。ビッグデータとIoTという、ここ数年でさまざまなことが起き、急成長している分野の企業だったからです。私たちは皆、携帯電話を持っていて自分の位置を記録しています。パンデミックの状況でもこれらの情報によってウイルスの拡散状況を把握することが重要でしたね。このように多くの応用が可能な分野です」

 CARTOは2012年に、絶滅危惧種の追跡に関するコンサルティング業務を担う2人の科学者によって設立された。大量のデータを使って地理・空間を分析する必要があり、そのためのソフトウェアを開発したところ、同じような課題のニーズを捉えたのだ。

Luis Sanz
CARTO
CEO
スペイン出身。Zaragoza大学で電気工学の修士号を取得した後、2003〜2006年にAccenture、2006〜2008年にEricssonで勤務。2008年に米ニューヨークに渡り、コロンビア大学でMBAを専攻。卒業後の2010年にソーシャルメディアを活用するマーケティングテック企業Olapicを創業。Olapicを売却した後、2019年にCARTOのCEOに就任する。

 現在CARTOでは、企業が位置情報を使ってビジネスを分析する支援を行うプラットフォームを提供している。例えば、小売業であれば、新しい店舗を開くのに最適な場所を分析できる。消費財メーカーなら、サプライチェーンの最適化オペレーション、通信会社であれば、どのようなネットワークを計画すればいいかなど、位置情報にまつわるさまざまな課題を解決するのだ。日本のコカ・コーラでも、約770万台にも及ぶ自動販売機の配置最適化に活用しているという。

 CARTOで扱う位置情報のソースは、顧客企業自身が得るファーストパーティデータと、第三者が集めたサードパーティデータがある。ファーストパーティデータは、小売事業者なら店舗の場所や売上、Eコマースを展開しているなら顧客の住所などもあるだろう。サードパーティデータは、人口や交通量、天候などの統計データだ。

「新しいビジネスを始める、あるいはビジネスを拡大するために最適な場所を判断したいとします。そのためには近隣の人口統計を把握する必要があります。食品のトラフィックデータは、ビジネスを始めようと考えている通りを何人の人が利用しているかを理解するために使われます。店舗の開業、道路や橋などのインフラ整備、洪水やハリケーンの被害数なども分析に利用されます。これらの情報を位置に重ねることでさまざまな分析ができるのです」

Image: CARTO

クラウドネイティブ、SQLで地理情報を扱える手軽さが特徴

 ビジネスモデルは、SaaSとしてのプラットフォームの利用料と、オンプレミス向けのライセンス販売だ。Sanz氏は、正確な顧客数や売上は公表できないと前置きした上で、報道関係や金融、通信、小売など世界中で1000以上の顧客にサービスを提供してきたと説明する。特にパンデミックの影響で多くの事業者がビジネスを転換する必要があり、CARTOは急成長したという。

 CARTOが優れている点は、クラウドネイティブな設計になっていることだ。例えば、顧客が持つデータがAWSやGoogle、Azure、Snowflake、Databricksなどのクラウドプロバイダーに保管されていたとしても、そのデータをどこかに移動することなくCARTOでの分析ができる。プライバシーや情報統制、コンプライアンスに配慮しながら、高度な分析をシンプルな価格モデルで提供しているのだ。

 もうひとつ優れているのが、競合他社と違ってGIS(Geographic Information System 地理情報システム)を扱うための専門知識が不要なことだ。SQL操作ができるデータアナリストやデータサイエンティストであれば、すぐにCARTOを利用できる。

 2021年12月にシリーズCラウンドで6100万ドル(約74億円)を調達した。調達資金をもって、製品開発とチームの成長を継続していく。2022年には、AWSやGoogle、Azure、Snowflake、Databricksなど、多くの顧客を持つクラウドプラットフォーマーとの協業を強化しながら新規顧客を獲得していく計画を立てている。

「最近立ち上げて、現在進化させている拡張機能に『CARTO for React』があります。これは、フロントエンドのフレームワークであるReactに対応したものです。地理空間の分析結果は多くの場合、地図を表示します。それだけでなく、分析のためのインタラクティブなアプリケーションも必要です。例えば、機械学習モデルを構築し、入力を少し調整するだけで、最適な出力ができるような仕組みを提供したいのです」

 これまで1000社以上の顧客が実施した分析結果はそれぞれ違うものの、分析手法自体は似通っているものがあるとし、「CARTO for React」は、これらをより使いやすくするインタラクティブなアプリケーションを作る基盤となるのだ。

企業だけでなく、公共も含めた活動で社会に貢献していく

 CARTOの顧客はアメリカが50%、ヨーロッパが45%程度で、日本は4%ほど。日本においては、Pacific Spatial Solutions株式会社とリセールの提携をしており、前述のコカ・コーラやNTTデータ、JR東日本、東京都なども顧客として名を連ねている。Sanz氏は、日本でのビジネスを拡大していくために、クラウドプラットフォーム、データウェアハウスなどの専門知識を持ったパートナーとの連携を求めていると語る。

 国内でも実証実験が始まったMaaSやスマートシティ分野にも地理情報は重視される。CARTOは世界中の多くの都市で、自治体も関連したプロジェクトを推進している。Sanz氏は「MaaSやスマートシティの実現は、テクノロジー以外に、官民一体となった協力体制が重要です。自治体の全面協力なしには実現できないでしょう」と強調する。

Image: CARTO

 これからも多くの分野で需要が高まることが予測されるCARTOのプラットフォーム。同社のビジョンは、空間分析へのアクセスを民主化すること。そのために、世界的に使われているSQLによる空間分析へのアクセスを提供している。あらゆる空間でのインサイトが求められる中、Sanz氏はその長期的な展望をこう見据える。

「人類が抱えている2つの大きな問題について考えてみましょう。1つが不平等で、これは多くの場合、地理的に局所化されています。もう1つは気候変動です。これらの問題には、地理や専門分野が非常に重要な役割を果たします。問題の原因を理解するだけでなく、緩和策を講じる上でも役立ちます」

「例えば、悪天候によって洪水が発生したとします。すると、道路が使えなくなり、市民が買い物に行けないといった状況に陥ることがあります。そのような状況を理解して対処することは非常に重要です。当社は現在、民間企業や大企業との協力に重点を置いていますが、公共部門でもいくつかの活動を展開しています。これらの活動によって、社会により多くの大きな影響を与えることができると思っています」

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