畑でブルーベリーを摘んでいる時、向こうから収穫かごが近づいてくる。そのかごはブルーベリーが満杯になると、次の作業場所まで勝手に走っていく──。近代化された農作業において、こんな光景がアメリカやオーストラリアでは今や日常になりつつある。Burro(本社:米ペンシルバニア州フィラデルフィア)は人の手に依存した農作業を独自開発したロボットで自動化するスタートアップだ。このロボットは自動走行するだけでなく、農薬を正確に撒いたり、雑草の処理をしてくれたりもするという。同社の創業者でCEOのCharlie Andersen氏に話を聞いた。

目次
まるで「R2-D2」のように農作業をアシスト
Burroの自動走行ロボットが賢い理由
農業への愛着と、子ども心に感じた課題感
日本の農業機械メーカーとの協業に期待

まるで「R2-D2」のように農作業をアシスト

―Burroはどのような課題を解決するスタートアップなのでしょうか。

 私達は、「ロボットの力で農作業の生産性を上げる」ことをミッションに、自動で走る荷台型のロボットを開発するスタートアップです。基本モデルの「Burro」は畑の中を自律的に走りながら、野菜や果物、農機具などを人の代わりに運びます。見た目は異なりますが、イメージとしては映画『スター・ウォーズ』に登場する「R2-D2」のような、人をアシストする存在ですね。

 加えて、温室の内外での運搬作業に特化した「Burro Verde」、大量・重量物の運搬や牽引に対応する「Burro Grande」など、用途に応じたモデルを展開しています。それぞれが農作業の中での「繰り返し作業」を代替することで、大きな省力化を実現しています。

 例えば、果物の収穫作業。通常は4〜8人がかりで行うところにロボットを1台導入するだけで、1人当たりの収穫効率が20〜30%もアップするんです。人手不足が深刻化する農業の現場にとって、こうした効率化はとても大きな意味を持っています。

image : Burro

 通常、畑で荷物を運ぶには、2〜3万ドルもするようなトラクターを使ってトレーラーを牽引しますが、Burroは自動で走るので、そうした高価な機械を使う必要がありません。しかも、人が見回りをしないといけないような盗難対策も、Burroが代わりに巡回してくれるので、そこでもコストや手間が削減できます。さらに、運搬だけじゃなく、雑草の間引きや農薬散布といった作業もロボットに任せられるよう、他社製品と組み合わせた、機能特化型の製品も充実させています。

 今は主に、野菜や果物を育てている農家の方々に使っていただいていて、これまでに500台ほどのロボットを販売してきました。導入が進んでいるのは、アメリカを中心に、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、そして南米のいくつかの国々です。

 中でも、ベリー系の果物などを育ているオーストラリアの農業大手「Costa」は、当社のロボットを70台近く導入してくださっています。また、アメリカで最大級の苗木生産者「Altman Plants」では、約10台のロボットを日常的に走らせていて、1四半期だけで4,000〜5,000キロも移動したという話も聞いています。こうした導入実績が、農作業の現場でしっかりと価値を出している証拠だと思っています。

Charlie Andersen
Founder & CEO
米アマースト大学で地質学と政治学の学士号、ハーバードビジネススクールでMBAを取得。金融サービス会社Harris Williamsで勤務した後、2014年から農業機器メーカーのNew Holland Agricultureで農業再生プロジェクトなどに4年弱携わる。2017年11月にBurroを創業、CEOに就任。

―農作業の効率化は、農業従事者にとってやはり重要なテーマなのでしょうか。

 間違いなく重要です。農家の高齢化はどんどん進んでいますし、特に私たちがフォーカスしている野菜や果物の分野では、自動化のニーズが非常に高いんです。

 というのも、アメリカの農業全体の売上を見てみると、約3分の2はトウモロコシ、⼩⻨、⼤⾖といった大規模作物が占めています。でも、これらの作物に関わる労働力は全体のわずか7%程度しかないんです。つまり、そうした作物はすでに機械化が進んでいて、それほど人手を必要としない。

 一方で、野菜や果物、苗木といった作物は、収益性が高いにもかかわらず、作業の多くがまだ人力に頼っている。だからこそ、この分野の自動化は急務なんです。

image : Burro

Burroの自動走行ロボットが賢い理由

―Burroのロボットが人間のアシストで自動走行できる理由はどこにあるのでしょうか。

 私たちのロボットには、計24個のセンサー、12個のカメラ、3Dレーザー、GPSといった、自動運転に必要な機能がすべて備わっています。中でも注目してほしいのが、1台のロボットが1時間当たり2〜3テラバイトもの情報を処理できるソフトウエアです。

 このソフトウェアのおかげで、ロボットは「今、自分はどこにいるのか」「A地点からB地点にどう進めばよいか」といったことを、自分自身で正確に判断できるんです。例えば、スペイン語を話す農業従事者が「C地点まで行ってくれ」とロボットに話しかければ、ちゃんとC地点までたどり着く。そして、「あそこの草を刈ってくれ」と頼めば、そのまま草刈りを始めてくれる。まさに、現場の“相棒”として働いてくれる存在です。

 このソフトウエアは、ペンシルバニア大学で博士号を取得した優秀なチームが開発したもので、誰でも簡単に扱えるように、当社がユーザーインターフェースを再設計しました。テクノロジーを現場で“使える形”に落とし込むことに、私たちはとてもこだわっているんです。

農業への愛着と、子ども心に感じた課題感

―創業のきっかけについて教えてください。

 きっかけは、やはり自分の原点にある「農業」です。私の家族は代々農業を営んでいて、私は子どもの頃からトラクターやブルドーザーを動かすのが大好きでした。運転席に座ってタッチスクリーンを押す、それだけでワクワクした気持ちになったのを覚えています。

 でも一方で、農作業ってすごく非効率な部分も多いんです。トラクターを降りて雑草を抜いたり、農薬を撒いたり、人の手が必要な作業が延々と続く。そうした課題感は、子どもの頃からずっと心のどこかにありました。

 大学卒業後にMBAを取得して、同級生たちの多くは銀行やコンサルに進んでいきましたが、私は迷わず農業の道を選びました。就職先はCNH Industrial傘下のNew Holland Agriculture、農業機械をつくる老舗メーカーです。

 ところが、入社してすぐに気づきました。当時から業界では「農業のデジタル化が必要だ」と声高に言われていたのに、現場の意思決定はとても保守的だったのです。まさに、クレイトン・クリステンセンが『イノベーションのジレンマ』(優良企業が新興企業に市場を奪われる理由とメカニズムを解き明かした経営書)で書いたような光景でした。New Hollandは利益率の高い大型トラクターに注力していて、小型の自動走行ロボットのような「次の時代の技術」には慎重だったんです。

 私はずっと、「農業機械はいずれ自動走行になり、人の掛け声ひとつで動くようになる」と信じていました。でも、その未来を会社の中で実現するのは難しいと感じて、2017年に退職し、Burroを創業したのです。

 共同創業者と2人、暖房もない納屋で文字通り手作りのロボット開発を始めました。そこから少しずつ仲間が増え、今では社員60人規模のチームに。アメリカやオーストラリアなどで、500台以上のBurroが日々、畑を走り回っています。

―ご自身の見立てが正しかったということですね。

 そう言っていただけるのは嬉しいですが、もちろん私もすべてを最初から見通していたわけではありません。実は、創業当初は「1台のロボットに草刈りも農薬散布も全部詰め込めばいい」と考えていたんです。でも、実際に現場で試してみると、それぞれの作業に求められる構造や動きがまったく違う。結果として今は、作業の目的ごとに異なる専用ロボットを設計するスタイルに落ち着いています。とはいえ、これで終わりではありません。今後は生成AIの力を活用して、ロボットがよりダイナミックに、より正確に、状況を判断しながら農作業に取り組めるようになると考えています。

image : Burro

日本の農業機械メーカーとの協業に期待

―日本市場に進出する考えはありますか。

 もちろんあります。当社には、日本市場に強いネットワークを持つTranslink Capitalや、Toyota Venturesが出資してくれています。彼らとの関係性もあり、日本にはぜひ進出したいと考えています。とはいえ、現時点ではまだ日本の農業の実態について十分な知見があるとは言えませんし、為替の変動も含めて慎重に検討すべき点が多いと感じています。

 ただ、日本は明らかにBurroが目指すべきマーケットです。労働力の高齢化が進み、人件費も高い。加えて、農業の機械化が非常に進んでいる国でもあります。現地のニーズや制度、農家の声をしっかり理解したうえで、日本でもBurroが役立てる未来を実現したいと思っています。

―日本企業との協業を考えた時、どのような業界に関心がありますか。

 まず真っ先に挙げたいのは、農業機械メーカーですね。たとえばクボタやヤンマー、日立建機といった企業は、小型機械の分野で世界でも非常に高いシェアを持っています。こうした企業の販売ネットワークに、私たちBurroのロボットを組み込んでいくというのは、非常に現実的な選択肢だと思っています。

 それから、代理店を通じた販売モデルも有力だと考えています。日本には独自の規制や商習慣といった参入障壁があると思いますので、それらを理解し、現地で信頼されている企業と一緒に取り組んでいくことが不可欠です。日本市場で成功するためには、“協業”が鍵になると考えています。



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