目次
・相乗りビジネスに一番必要だったもの
・長距離移動のみ、ライドシェアとの違い
・BlaBlaCarが作ったのは「信頼」と「安全性」
・BlaBlaCar誕生の背景に秘めた思い
・日本市場は魅力的、気がかりは規制の壁
相乗りビジネスに一番必要だったもの
―現在のサービスとビジネスモデルについて教えていただけますか。
基本的にはカープール(相乗り)のマッチングです。ドライバーが都市間を運転する際に車の空席を誰かと共有し、乗客がその車の座席を予約できるようにしています。これは私たちが15年近く前に始めたことで、今でも会社の主要なビジネスとビジネスモデルとなっています。
例えば、誰かがどこかに車を運転する予定で空席が2席ある場合、プラットフォームにアクセスしてプロフィールを作成し、サインアップします。目的地が同じ乗客は、オンラインで決済し、その座席を予約することができます。
このシステムがうまく機能している理由は、私たちが信頼できるコミュニティを構築してきたからです。車の座席を予約する時、それはランダムな人ではありません。プロフィールを見ることができ、私たちはIDチェックを行います。他の人からの多くの評価があり、「このドライバーは親切だ」「時間を守る」「安全だ」「良い人だ」「面白い」など、さまざまなことが分かります。
私たちは、信頼をどのように作り出すかを最適化してきました。乗客が他人の車を予約する際の障壁をなくし、ドライバーが乗客を受け入れる際の障壁をなくすことです。これが私たちの活動の核心部分です。
ビジネスモデルは典型的なマーケットプレイスモデルです。私たちは取引の15〜25%を手数料としていただきます。たとえば、ドライバーが20ユーロで座席を提供する場合、乗客は24ユーロを支払います。その差額が手数料になります。
現在、私たちはこのサービスをかなりグローバルに展開しています。フランスだけでなく、ヨーロッパのほぼ全域でサービスを提供しています。スペイン、ドイツ、ポーランド、イタリアなどです。そしてヨーロッパ以外の市場でも提供しており、それらが大きな市場になりつつあります。ブラジル、メキシコ、トルコ、インドです。特にインドは今後数年で私たちにとって最大の市場になる予定で、非常に強い成長を示しています。
なお、カープールだけでなく、ほかの交通手段も集約しています。同じプラットフォーム上で、長距離バスや列車も検索して予約できるようにしています。
image : BlaBlaCar
長距離移動のみ、ライドシェアとの違い
―相乗りのドライバーは一般の方々で、バスや列車など他の交通機関とも協力しているということですね。
カープールサービスは、プロのドライバーではなく一般の人々によって運営される純粋なコミュニティです。タクシー会社とのパートナーシップはありません。
一方で、バスや列車に関しては、それぞれの運営会社と協力関係にあります。例えば、ブラジルでは全国に300から400ほどの異なるバス会社があり、それらの情報を一つにまとめています。私たちの役割は、これらすべての情報をオンラインのアプリ上で利用可能にし、ユーザーがバスを予約できるようにすることです。そのために、各社を私たちのプラットフォームに接続し、オンラインで利用可能にするための技術とソフトウェアを開発しています。
―ライドシェアサービスには複数の競合他社があると思いますが、御社のサービスの強みは何ですか?
ライドシェア市場には、2つの異なる分野があります。1つは、配車サービスで、これはプロのドライバーが仕事として行う都市内の短距離移動です。通常、パリやニューヨーク、東京といった都市で、10〜20km程度の距離を移動する際に利用されます。この分野では、Uberのような大手企業が多数存在します。
一方で、私たちのサービスは消費者対消費者のマーケットプレイスです。ドライバーはプロではなく、学生や教師、看護師といった一般の人々です。彼らは、例えばパリとリヨン間や、デュッセルドルフとミュンヘン間のように、通常300km程度の長距離移動の際に乗客を乗せます。これらの移動は、主に週末や休暇時期に行われます。
つまり、ドライバーたちはもともとその移動をする予定があり、乗客を乗せるために特別に運転するのではなく、自分の旅の中で空いている座席に2〜3人の乗客を乗せる形になります。また、私たちのサービスは短距離ではなく、長距離移動を対象としており、この特殊なユースケースにおいて、私たちはほぼ独自のポジションにいます。そのため、直接的な競合はあまり存在しないのです。
―乗客側にとって、手頃な料金なのでしょうか。乗客にとってのコスト効率はいかがですか。
このモデルの良い点は、非常に手頃な価格であることです。カープールにおいてドライバー側は過度な利益を追求していません。ただ移動のコストを共有しているだけなのです。というのも、多くの国ではカープールの料金に制限が設けられています。
フランスでは、1キロメートルあたり50〜60セントほどです。10km運転すると、5〜6ユーロのコストがかかります。一方、パリのタクシーでは同じ距離でも30〜50ユーロほどかかります。300キロメートルほどの距離を移動する場合でも、20〜25ユーロ程度の支払いで済みます。非常に安価であるため、乗客にとって大きな魅力となっています。
image : BlaBlaCar
BlaBlaCarが作ったのは「信頼」と「安全性」
―消費者対消費者のサービスですが、セキュリティや安全性はどのように確保していますか?
はい。先ほど説明したように、そこが私たちの事業の核心部分です。カープールにおいて、私たちは輸送ネットワークを提供しているわけではなく、人々の移動先を決めているわけでもありません。私たちは信頼と安全性を作っているのです。
乗客とドライバーに関する情報を収集し、それを元に信頼性を高めています。もちろん、電話番号の確認や携帯番号の認証は行いますし、写真の掲載や車両の情報も提供しています。しかし、それだけではありません。現在は、ID確認を実施し、一部の地域では車のナンバープレートの確認も始めています。また、オンライン決済を導入しているため、ドライバーの銀行口座の確認も行っています。
重要なのは、乗車ごとにドライバーや乗客、運転の様子についてレビューを促していることです。現時点で、私たちは何億件ものレビューを持っており、場合によっては100件以上の評価を持つドライバーも多くいます。
つまり、私たちが行っているのは、厳密な検証と適切な情報収集、そして写真やコメントなど公に見える情報と、ピアツーピアの評価の組み合わせです。このようにコミュニティに関する情報を蓄積することで、利用者同士の関与が深まり、より良いマッチングが実現するのです。
さらに、非常に強力なカスタマーサービスチームもあります。疑問がある場合や車内で不快に感じた場合に迅速に人々に報告してもらえる体制を構築しています。例えば、乗客が不快に感じたり、誰かが不適切な行動をしたと感じたりした場合、すぐに確認します。そして、不適切な人をプラットフォームから排除することもできます。
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―ビジネスの成長を示す指標や、今後の目標について教えてください。
今年は、世界中で約1億人の乗客が私たちのプラットフォームを利用しました。これが現在の規模です。2023年の売上はおよそ2億5000万ユーロに達し、会社は黒字化しています。従業員数は世界中で800人に上ります。
将来に向けて最もエキサイティングなのは、ヨーロッパ以外の市場、特にブラジル、メキシコ、インドでの事業拡大です。これらの市場ではまだ強い利用成長が見られ、潜在的な可能性を十分に引き出せていないと感じています。今後の課題は、これらの市場で成長を続けつつ、収益を生み出すことです。
もう一つの注力分野は、バスと列車のネットワーク拡大です。フランスとブラジルではうまくいっていますが、インドやトルコなど、まだ多くの市場には展開していません。今後もより多くのバスを集約し、ネットワークを拡大していきたいと考えています。
私たちのビジョンは、マルチモーダルプラットフォームを構築することです。ユーザーがどこかへ移動したいとき、私たちのプラットフォームが陸上交通のすべての選択肢を提供し、長距離バス、列車、そしてカープールなど、時間、価格、場所の面で最適なものを選び、より情報に基づいた決定ができるようにすることを目指しています。
image : BlaBlaCar
BlaBlaCar誕生の背景に秘めた思い
―BlaBlaCar創業の経緯を教えてください。
私のキャリアはシリコンバレーのスタートアップでエンジニアとしてスタートしました。当時はテレコムとドットコムのブームの真っ只中でしたが、正直なところ、スタートアップやベンチャーキャピタル(VC)については何も知りませんでした。アメリカ、特にカリフォルニアに移ってから、それらについて学ぶことになりました。
その後、ロンドンに移りVCで働きました。依然としてスタートアップのエコシステムの中に身を置き、今度は金融面から携わることになったのです。シリコンバレーでの経験から、VCがエコシステムの血液や酸素のような存在だと再認識しました。企業の初期段階に投資する投資家コミュニティがなければ、スタートアップは生まれません。シリコンバレーの成功は、スタートアップ、投資家、エンジェル投資家、大企業など、完全なエコシステムが存在するからなのです。
2006年から2007年頃にヨーロッパに戻った時、そのヨーロッパのエコシステムはとても小さく、ほとんど存在しませんでした。私の夢は、そのエコシステムの一部となり、形成を手伝うことでした。そこで、テクノロジーの資金調達面を理解するために働き始めました。同時にMBAを取得する中で、BlaBlacarの共同創業者となるFrédéric Mazzellaと出会いました。
BlaBlaCarのアイデアを思いついたのはその頃です。自動車が十分に活用されていないことに気づき、中古車のeBayのようなものを作ろうと考えたのが始まりでした。そして2010年から今日まで、私はBlaBlaCarに全力を注いできました。
image : BlaBlaCar
日本市場は魅力的、気がかりは規制の壁
―日本企業とパートナーシップを組むことに興味はありますか。もしそうなら、どのような関係が望ましいですか。
日本は興味深い市場です。国の規模、人口の規模、また日本の列車が比較的高価であることを考えると、カープールの潜在性があると感じています。しかし、私たちは日本の規制について詳しく知りません。規制に基づいてどのように日本で事業を展開できるかを見極める必要があります。
ユーザー体験のデザインという点でも、日本のウェブサイトやアプリは、ヨーロッパのアプリとは非常に異なる期待を持たれると思います。そのため、日本市場に参入するには、より挑戦的なハードルがあると思います。
日本市場において、私たちにとって最も重要なパートナーシップは、最初は協力関係というよりも、むしろ政府や行政との関係が先になると思います。この国にどのようなニーズがあるのか、そして私たちが実際に事業を展開できる規制の枠組みはどのようなものかを理解することが重要です。
―御社の長期ビジョンをお聞かせください。
遠い将来の話になりますが、私はカープールをドアツードアの体験にすることを強く推進したいと考えています。カープールは都市間の移動だけでなく、列車やバスのない農村部や遠隔地で特に有用です。そうした地域では、車が非常に重要な移動手段になります。
コミュニティが大きくなるほど、ドライバーに少しの迂回をお願いして、乗客を目的地により近い場所で降ろしてもらうことが容易になります。これにより、真のドアツードアの体験を提供できるようになるのです。私はこれをカープールの究極の目標だと考えています。これを大規模に実現できれば、人々はもはや自分の車を使う必要がなくなり、同じ車を共有し続けることができるでしょう。
私たちが車を使う最大の理由は、その便利さにあります。車の利便性の一つは、好きな時に出発でき、好きな場所に行けるという点です。この利便性を完全に再現することは難しいかもしれませんが、少なくとも「好きな場所に行ける」という部分は実現できると考えています。
image : BlaBlaCar