オープンソースのパスワード管理サービスを提供するBitwarden(本社:米カリフォルニア州)は「誰もハッキングされない世界を目指し、パスワードの安全な使い方を支援する」ことをミッションに掲げ、2016年にKyle Spearrin氏(現CTO)によって設立されたスタートアップ。パスワードの使い回しなどセキュリティへの懸念に対応するため、推測されにくい強力なパスワードを自動的に生成し、それらをすべて暗号化された保管庫に保存するパスワード管理サービスを開発した。

透明性の高いオープンソースかつ無料でも利用できることから、ユーザーのコミュニティによる口コミで利用者が増え、毎年2倍以上の成長を遂げている。「Bitwardenのミッションを聞いて、このエキサイティングなチームに加わった」と話す同社CEOのMichael Crandell氏に、Bitwardenのミッション、製品の特徴、他社との違い、長期的ビジョンなど話を聞いた。

オンラインを安全に ミッションは「誰もハッキングされない世界を」

――ご自身の今までの経歴とBitwardenチームに加わった経緯を教えて下さい。

 私がソフトウェアの仕事を始めたのは1980年代で、IBMのPCが発売された直後でした。プログラマー、コーダー、ソフトウェア開発者になるために学んでいて、その直後に起業する機会を得て、スタートアップを創業しました。その後、インターネットベースのFaxを開発したeFaxという会社にて、ソフトウェアの責任者兼エグゼクティブ・ヴァイスプレジデントを経て、複数のプロバイダー向けのクラウドコンピューティング管理のサービスを提供するRightScaleを共同創業し、CEOに就きました。

 Bitwardenは、現CTOのKyle Spearrinが2016年に設立した会社です。Kyleに出会った時、Bitwardenのミッションと目指しているところを尋ねたところ、彼は「誰もハッキングされない世界を目指し、パスワードの安全な使い方を支援することです」と答えました。Kyleは、市場に出回っているどの製品よりも優れた製品を作ることを目標に掲げていました。

 それを聞いたとき、私はこの会社に入らなければならないと思ったのです。とてもエキサイティングなミッションであり、世界に変化をもたらす可能性を秘めていると感じたのです。

Michael Crandell
Bitwarden
CEO
Stanford University卒。主にソフトウェア関連の仕事に従事する。eFAX.comのExecutive Vice President、自然言語検索のコンバージョン向上サービスのCelobrosのCEOを経て、マルチクラウド管理及び最適化ソリューションを提供するRightScaleを創業し、11年半にわたり同社を牽引。2018年に同社をFlexeraに売却。2019年、BitwardenのCEOに就任。

――パスワード管理が解決しようとしている核心的な問題は何でしょうか?

 核心的な問題は、パスワード管理をしていない私たちの多くが、パスワードに関連するセキュリティに対して非常に安易なアプローチをとっていることです。ペットの名前、自分の名前、自分の子供の名前など、非常にシンプルなパスワードを選んでいます。つまり、推測しやすいパスワード、ハッカーの世界ではクラックしやすいパスワードを選んでいるのです。

 また、覚えやすいという理由で、あらゆるところで同じパスワードを使い回しています。そこで、パスワード管理が、簡単に解読できない強力なパスワードと、ユニークなパスワードの作成を支援するツールを提供します。つまり、利用するウェブサービスごとにパスワードが異なるのです。

 万が一、1つのウェブサービスがハッキングされたとしても、他のパスワードは一切分からないようになっています。推測されにくい、非常に強力でユニークなパスワードを作り、それを安全なデジタル保管庫に保存し、ウェブサイトを訪れたときに自動的に入力することができます。

 つまり、高いセキュリティとより高い利便性を兼ね備えているのです。通常、利便性が高ければセキュリティは低くなると言われていますが、Bitwardenのパスワード管理は、安全性も高く、かつ非常に使いやすくなっています。

Image:Bitwarden

最大の特徴はオープンソースであること ユーザーのコミュニティの強さも魅力

――Bitwardenの製品の特徴および他社との違いを教えて下さい。

 Bitwardenが他社製品と違う特徴は主に3つあります。

 1つ目はオープンソースであることです。これが他社と最も大きな違いであり、オープンソースは使用するユーザーが増えるほど、コミュニティによるチェック機能が働くので、より安全なソフトウェアになりやすいのです。セキュリティ製品にとって、これはとても重要なことです。なぜなら、多くの専門家やソフトウェアエンジニア、開発者が、そのコードが100%安全であることを確認するために目を光らせているからです。もし問題があれば、直ちに私たちに報告してくれます。

 2つ目は、世界中の誰もが使えるように、個人向けに完全な無料版を提供していることです。誰もハッキングされない世界を実現するために、50を超える言語に対応しており、デバイス数やパスワード数が制限なく利用できる永久無償バージョンを提供しています。無料版を気に入ってくれたら、有料版であるプレミアムにアップグレードしていただければいいのです。当社は個人利用や家族向けプラン、企業向けプランなど、5種類のサービスを提供しています。

 法人向けのサービスにも注力しています。中小企業向けのTeamプランと、大企業向けのEnterpriseプランと2種類提供しています。法人向けは基本有料サービスですが、無料トライアルで製品をお試しいただくことができます。企業はクラウドで運用することも、自社のデータセンターでセルフホスティングを運用することもできますので、その自由さが好評を得ています。

 3つ目はEnd to Endで暗号化されていることです。他社製品はあなたのデータ保管庫に保存されているURLを追跡することができますが、Bitwardenはすべてのデータがデバイスから送信される前に完全に暗号化され、本人だけがデータにアクセスできるようにします。私たちはあなたの保管庫にある情報を見たくても見ることはできません。

Image:Bitwarden

――現在のユーザー数は全世界で何名ほどいらっしゃいますか?

 数百万人の個人ユーザーと、数万人のビジネスユーザーがいます。

 私たちは日本語を含む50超の言語に対応していますが、ユーザーのコミュニティの助けを借りて自国の言語に翻訳することが多いんです。

 私たちの製品は口コミで広まってきました。私たちが日本でビジネスを展開する前から、何人かのユーザーがBitwardenについて日本語のビデオを制作しています。YouTubeでは、コミュニティのメンバーが日本語でBitwardenの使い方を説明している、とても楽しいビデオを見ることができます。オープンソースのパワフルな点は、世界中に活気のある強力なコミュニティがあることです。

――日本では既に提携先がありますが、新たなパートナーシップは探されていらっしゃいますか?

 私たちは主に、Bitwardenのコミュニティに参加することに興味がある人を探しています。個人ユーザーはもちろん、GitHubでのオープンソース体験に参加したいエンジニアや開発者、中小企業やエンタープライズレベルの顧客など様々です。ディストリビューション・パートナーになることに興味がある企業がいらっしゃるなら、私たちはいつでも喜んで話を聞きます。

Image:Bitwarden

1億ドルの資金調達 製品の拡大などあらゆる投資を加速

――2022年9月のシリーズBではPSGをリード投資家に、Battery Venturesなどから1億ドルの資金調達を完了しました。資金の用途を教えて下さい。

 私たちは素晴らしいユーザーコミュニティと顧客に支えられ、ここ3年間で非常に速いペースで成長しており、毎年2倍以上の成長を遂げています。当社は資金力があり、他社が縮小している中で成長していますので、パスワード管理に関連する他の分野でも将来的にイノベーションを起こすことを期待しています。

 そして、事業をさらに拡大し、オンラインの世界を安全に過ごせる場所に保てるよう支援するという使命のもと、PSGという適切な投資パートナーを見つけました。

 この資金をもとに、市場投入、製品開発、技術革新など、あらゆる面で投資を加速させる予定です。パスワード・マネージャーにさらに機能を追加し、他の新製品も開発するため、エンジニアリング・チームと製品開発チームを拡大する予定です。

 また、マーケティングやセールス面でもチームを増やし、さまざまなマーケティングキャンペーンを通じてBitwardenの認知度を高めるための投資を増やしていきたいと思っています。

――最後に長期的なビジョンを教えて下さい。

 私たちのミッションは、誰もハッキングされない世界を目指しながら、企業と個人の両方が安全かつ便利にデータを保存し、アクセスできるようにすることです。

 私たちのメインの製品はパスワード管理ですが、”Bitwarden Send”というパスポート番号や政府発行のID番号、パスワードなどの機密データの保存・共有を安全に行うために、暗号化された情報を素早く転送できるソリューションも2年程前から提供しています。パスワード管理以外にも、このような機密情報へのアクセスや共有を支援する方法は、今後ますます増えていくでしょう。

 私たちのビジョンは、誰もがオンラインで安全に過ごし、より速く安全にビジネスができるように、私たちの製品を拡大し続けることです。



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