AIとハチの巣を組み合わせたハイテク巣箱を開発し、同社の機械学習アルゴリズムによって数百種類のシナリオ分析を可能とする。養蜂家との出会いにより、ミツバチの世界に足を踏み入れることになった、共同創業者でCEOのOmer Davidi氏にBeeHeroを立ち上げた経緯、同社の受粉における取り組み、今後のビジョンなど話を聞いた。
テック畑から養蜂の世界へ ミツバチを救い、受粉の課題に取り組む
――BeeHeroを立ち上げたきっかけを教えて下さい。
私は農家でも養蜂家でもなく、技術系のバックグラウンドの持ち主です。長い間、サイバーセキュリティに関わっていまして、イスラエルのサイバーセンターで数年間、興味深いプロジェクトにも携わりました。
その後、エネルギーリサイクル、水産養殖、小売り関係と、3つの会社を起業し、5年前、BeeHeroの共同創業者であるItai Kanotに出会いました。彼は2代目の商業養蜂家で、彼の家族はイスラエルで大規模なミツバチファームを所有していることから、彼らの農場を案内してもらったのです。技術畑の人間がミツバチの巣の中に入る経験はとても貴重でした。
こうして、私はミツバチの世界を知ることになったのです。私は非常に興味をそそられ、もっと知りたくなりました。そしてBeeHeroを共に始め、ミツバチの問題だけでなく、農作物の受粉という課題にも取り組むことになったのです。
――農作物の受粉の課題とは、具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか。
ミツバチは蜂蜜をつくるだけでなく、作物の多くはミツバチによる受粉に依存しています。ミツバチの死亡数の増加は、果物、野菜、ナッツなど食用作物の75%の生産を脅かし、作物の収穫量が減るだけではありません。消費者の食品価格が上がり、農業の利益が減る可能性もあります。
ミツバチのコロニーが死滅すると、受粉が不十分になり、人口増加に伴う食料問題に深刻な影響を及ぼします。大きな被害が出ているのに、その問題を解決できるような会社がなかったため、私は、テクノロジーで変えることができるか、何が起こっているかをより良く理解するためにテクノロジーを使えるかどうかを考える必要があったのです。
創業後、最初の1年半は、ガレージで数人がかりで、テクノロジーで変わるかどうかを見極めるためのPoC、実証実験をしていました。養蜂家が理解できない技術に投資するのは難しいので、低コストのIoTセンサーに焦点を当てようと思いました。
今日の商業養蜂家の平均年齢は、おそらく70歳以上でしょう。高齢者の方でも使えるように、また次の世代がこの業界から離れないためにも、非常にシンプルで、低コストなものを開発したかったのです。新しい世代をこの業界に引き付けることは、私たちが消費する食物の受粉に十分な量のミツバチを確保するために、非常に重要だと思います。
Image: BeeHero
――イスラエルで事業を始め、現在はカリフォルニアに本社を置いていますね。
はい。まずイスラエルでスタートしました。実際に効果を上げられるという確信を得るには、何度かサイクルを見る必要があったからです。幸いなことにイスラエルは、養蜂が1シーズンしかできないような寒い地域とは異なり、1年で3シーズンのサイクルが可能な天候なのです。
より良いミツバチの巣を作る手助けをし、その半分を受粉に使うと収穫量が増えるというサイクルの概念実証ができた後、私たちはより大きな市場機会に焦点を当てることにしました。というのも、イスラエルはとても小さな国だからです。
そこで私たちは基本的に、共同創業者のうち2人がイスラエルに拠点を置き、研究開発センターをイスラエルで拡張しながら、米国カリフォルニアで事業部を立ち上げました。そして現在、50人強の従業員をイスラエルと米国に分散して抱えています。
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センサーでミツバチの状態を追跡 データ収集・分析で早期の問題解決
――御社の提供するハイテクミツバチ巣箱について教えて下さい。
私たちが開発したのは、小さなセンサーで、既存の巣箱の中に入れるだけの低コストの装置です。つまり、基本的には巣箱の蓋を取り、コロニーの真ん中のフレームにユニットを差し込むだけなのです。このユニットは、ミツバチのコロニーの活動を妨げるようなものではありません。非常に小型で、巣箱の中からデータを収集します。
巣箱の中から温度、湿度、音などを測定します。そして、庭や屋外に設置したゲートウェイユニットが巣箱からデータを取得し、クラウドにアップロードします。データを収集・分析することにより巣箱の中で何が起こっているか、理解に役立つパターンの特定ができるのです。
例えば、女王バチが卵を産めなくなったり、死んでしまったり、コロニーから出て行ってしまったりすると、ミツバチにはある種のストレスが生じます。ミツバチは何らかのストレスを感じるとそれが行動に表れます。その結果、異なるパターンが生まれデータから抽出される様々な特徴を見ることができます。
ハチの巣で十分な量のエサが行き渡っているどうか、飢餓状態ではないかなどを特定することができます。水不足や風通しの悪さ、あるいは病気の蔓延などの兆候も把握することができます。このように、センサーを使って遠隔でさまざまなことを追跡・特定できるので、養蜂家が早期に問題に対処して解決することができます。
問題を早期に発見すれば、99%のケースが解決でき、早期発見とリモートセンシングにより、巣箱を開けることなく、被害状況を確認することができるのです。
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日本の種子生産にも注目 持続可能な農業の構築を目指す
――2022年12月、Convent Capitalをリードインベスターに、シリーズBラウンドで4200万ドルを調達しました。このラウンドには、アメリカの大手食品会社General Mills、アメリカ有数のアクセラレーター・VCであるPlug and Play、そして日系保険会社のCVCであるMS&AD Venturesも参加しています。資金の使い道を教えて下さい。
これまで私が出会った投資家のほとんどは、農業の領域では物事は早く進まないと言っていました。確かにそれは事実ですし、古い体質の産業に新しい技術を導入することは非常にチャレンジングなことです。ですので、私たちはこの業界を理解している投資家に焦点を当てました。
私たちの投資家には、農業組織向けの世界的な金融機関であるRabobankや、世界的な食品メーカーGeneral Millsなどがいます。農業をよく理解している投資家は、適切なドアを開け、適切な人たちと関わる手助けをしてくれます。
調達した資金は、より多くのプロダクトを作り、より多くのお客様に導入してもらい、ビジネスを拡大していくために使う予定です。
巨大な化学メーカーと協力し、さまざまな農薬や製品がミツバチや花粉媒介者に与える影響も測定しています。また、ミツバチの遺伝子系統を特定するために、米農務省(USDA)とも協力しています。私たちは研究開発に多くの資源を投入し、革新と前進を続けています。
リソースを追加して、こうした研究開発の取り組みやデータプラットフォームの強化のために投入する予定です。また、アメリカ国内のサクランボ、リンゴ、ブルーベリー、ヒマワリなどにも当社の技術を展開していますし、さらに、他の地域への拡大も視野に入れています。
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――日本市場への進出は視野に入れていますか。入れている場合、どのような企業とパートナーシップを結びたいですか
日本では種子生産、種苗業界が非常に発展しています。世界の種子生産のトップ10の企業にも、日本企業が名を連ねます。当社は既に南アフリカで、ニンジンの種子やタマネギの種子に注力している企業とのコラボレーションを行っています。日本市場においても、多くのチャンスがあると思っています。
――長期的なビジョンを教えて下さい。
当社はハチの巣の問題を解決し、精度の高い受粉を支援することから事業を始めました。さまざまな状況の巣箱からデータを収集し、膨大な量のデータベースを構築してきました。現在、私たちはパートナーと協力して、より持続可能な農業の仕組みを構築しようとしています。
ミツバチは農作物の受粉に必要不可欠です。しかし、同時にミツバチの福祉も確保する必要があります。受粉サービスを提供してくれるミツバチを、化学物質で殺したりしないようにしなければなりません。ミツバチが死んでも誰も得をしません。
より持続可能な農業の環境を作るという目標を達成するために、養蜂農家とそのバイヤーをサポートするために、私たちが持っているデータを活用できるようにしたいです。
これが私たちの目指すべきビジョンであり、私たちの進むべき道です。受粉の持続可能なプロセスを確保し将来の子供たちのために持続可能な農業を構築していくべきだと思っています。