目次
・なぜほとんどのデータが「使えない」のか
・創業の種は15年前の起業経験
・日本市場は重要な位置付け
なぜほとんどのデータが「使えない」のか
―大企業のデータの90%以上が、そのままの形で分析したり、意思決定には利用できたりしない「非構造化データ」であり、こうした非構造化データを利用できる形にするのがArteria AIの特徴です。そもそも、なぜ大企業のデータの多くは、利用できない形になっているのでしょうか。
コロナ禍以降、大企業はDXを進めていますが、それ以前はDXを前提としたデータの集計をしていなかったからでしょう。90%以上という数字に関しては、私たちだけでなく、Deloitteも同様の調査結果*を出しています。
企業が日々の業務で作成する報告書や契約書、メール、プレゼン資料、顧客とのやり取りなどはデータの宝庫ですが、これらは統一化されておらず、意思決定において使える状態にはありません。実態としては、(全体のうち)1%にも満たないデータしか役に立っていないです。
Arteria AIは、独自のソフトウエアを開発し、大企業の現場において業務で発生するさまざまな文章データ(契約書などの法的文章やメール、Slackなど)をリアルタイムで集め、使える形に修正しています。われわれの競合は、データを「後処理」することに注力していますが、われわれは「リアルタイム変換」にこだわっています。リアルタイムにデータを使用可能な状態に持っていく方が、後で加工するよりも、圧倒的にスピードが早いですし、中長期的にDXを推進しやすくなります。
また、Arteria AIはコスト削減にも役立ちます。通常、文章管理には多くの人が関わっていて、スピード感に欠けるのですが、Arteria AIを導入することで、時間と金銭的コストを従来の50%ほど削減できます。
さらに、Arteria AIは、規制当局が求める基準もクリアしています。すべてのドキュメント作成や承認の過程を記録していますので、監査対応もスムーズです。
*Deloitte “Dark analytics, Illuminating opportunities hidden within unstructured data”
image : Arteria AI HP
―Arteria AIを導入する大企業の中で、特に利用が進んでいる部署はあるのでしょうか。
われわれの主な顧客は金融機関やヘッジファンド、保険会社などです。具体的には、Goldman SachsやCitibankといった企業に利用していただいています。
これらの大規模な組織においては、1つの意思決定をするにしても、50〜200人ほどの利害関係者が絡んでいます。そうなると、議論がどうしてもブラックボックスの中で行われてしまい、透明性を担保できないのです。
先ほどお話ししたように、Arteria AIのソフトウエアを使えば、リスク部門であれ、営業部門であれ、意思決定者は常に情報の流れを追うことができます。情報が「見える化」すれば、正しい意思決定を行える確率も高まりますし、リスクを回避することにもつながるのです。
創業の種は15年前の起業経験
―日本の大企業においても、データの利活用とそれをもとにしたDXは事業戦略上、極めて重要な課題になっています。
コロナ禍でDXが加速したことは大きいでしょうね。24時間、世界のどこにいてもクラウド上の情報にアクセスすることができるようになった時、データの流れを把握することは、マネジメントにとって非常に重要な課題になっています。
Arteria AIはロンドンやニューヨークにも拠点を開設するなど、急速に成長しています。売上高においても、毎年3桁台の成長率を達成しているなど、事業は急拡大しています。
―創業のきっかけは?
私は元々、大手法律事務所のパートナーを務めていました。Arteria AIを創業するきっかけは、2009年に設立したATD Legal Services Professional Corporationという、M&Aなどの独禁法審査を行う会社での経験です。
当時から、M&Aの審査を行う中で、データの非構造化という問題には気づいていました。同社をDeloitteに売却した後も、同様の問題に対してArteria AIの創業者であるJonathan Wongと共に長年取り組み、優れたテクノロジストである彼の協力を得て、非構造化データをAIでリアルタイム処理する現在のソリューションを作ったのです。
実は、Wongと非構造化データの解析に取り組みはじめた当初は、データに対して感情分析や初期のクエリ(検索)機能しか使えなかったのです。それが、Arteria AIの現在の姿のように、AIが人間が記憶できる以上に広範な情報源を活用し、膨大なデータセットに対して傾向や繰り返しの要素を見つけ出すことができるようになっています。
日本市場は重要な位置付け
―資金調達ラウンドのシリーズBでは、GGV Capital(現Notable Capital)をリード投資家として、3,000万米ドル調達しましたね。
われわれがシリーズBラウンドを実施した2023年10月は、VC投資市場が大きく縮小した時期でした。このような時期に大型の資金調達ができたのは、ひとえにわれわれのソリューションが優れていると判断されたからでしょう。
また、われわれのクライアントが他のスタートアップと異なり、アプローチの難しい大企業や金融機関であることも、投資家の安心材料となったのではないでしょうか。
―日本市場をどのように見ていますか。また、進出の可能性は?
私たちは一貫して日本市場は非常に重要であり、われわれにとって強力なマクロ市場になると言及しています。アジアの中で最も安定した市場の1つであることに間違いはありません。ぜひ、参入したいですね。
―具体的に、どのような業界との協業を考えていますか。
金融業界や、テクノロジー系企業、コンサルティングファームなどが考えられます。例えば、CitibankはArteria AIをグローバルに導入していますし、オーストラリアのコンサル企業のThe Commercial Advisory Partnership (TCAP) とも提携を結び、現地の企業にArteria AIのソリューションが使われています。
―パートナーシップの形態として理想とするのは、流通パートナーでしょうか。
実際に日本の大企業と協業できる形態を模索しています。また、R&Dや共同開発にも関心があります。私たちの技術が彼らのどのようなニーズに合致するのか、探していきたいです。