まるで動物のように4足歩行で産業施設内を歩き回り、人間の代わりに保守点検作業を行うロボット「ANYmal(エニマル)」を開発したANYbotics(本社:スイス・チューリヒ)。チューリッヒ工科大学からスピンアウトしたスタートアップで、2009年から研究開発してきた四足歩行ロボット技術を事業化した。ロボットは熱温度を読み取るカメラなどを備え、発電所や化学プラント、石油関連施設などを有する企業の生産性向上、捜索・救助作業の支援などに貢献している。共同創業者でCEOのPeter Fankhauser氏に、事業概要を聞いた。

目次
チューリッヒ工科大学で基礎のロボット研究
「防爆」性能も備えた4足歩行ロボット
鉱業、化学、石油・ガス業界から引き合い
ドローン企業との提携や、設備の清掃機能も視野

チューリッヒ工科大学で基礎のロボット研究

―専門領域とANYbotics創業の経緯についてお聞かせください。

 私はチューリッヒ工科大学で機械工学を学び、ロボティクス分野で15年以上の経験を積んで博士号を取得しました。現在、ANYboticsは自律式4足歩行ロボットによる産業現場の点検システムを提供しています。この技術は、10年以上前から大学で行っていた基礎研究から始まりました。その研究の目的は、「階段を登るなど、複雑な場所でロボットは活動できるか?」という問いに答えることでした。

 研究中のロボットに関するビデオや記事を公開したところ、重工業系の施設運営者から注目を集めました。彼らは人員が不足しており、危険な作業も伴うため、階段や狭い場所を移動できるロボットを求めていたのです。そこで、私たちは大学で研究した技術を活用し、こうした問題を解決するため、2016年にANYboticsを設立しました。2019年から商用化を行い、防水や防爆などの各種認証を取得したロボットをさまざまな産業現場に送り出しています。

 当社は「自律型ロボットの労働力を創出する」というビジョンを掲げています。将来、企業は人間だけでなくロボットも雇用し、仕事を遂行させると私たちは信じています。現在の従業員数は165人です。

Peter Fankhauser
Co-Founder & CEO
2007年からチューリッヒ工科大学で科学・機械工学を専攻、その後、ロボット制御に取り組む。2017年には同大学でロボティクスの博士号を取得。その過程で航空機器検査のSkybotix、半身麻痺者のためのロボット外骨格を開発するInstitute for Human and Machine Cognitionでインターンシップを経験し、2016年にANYboticsを創業。2020年から現職。

「防爆」性能も備えた4足歩行ロボット

―どのようなプロダクトを提供されているか、詳しく教えてください。

 最初の製品である「ANYmal」は、4足歩行の自律型検査ロボットで、施設内のさまざまなデータを収集できるように設計されています。

 ANYmalは12時間連続で稼働し、1日300回以上データを収集できます。各種センサーを搭載し、視覚データ、計器の読み取り、レバーの位置の確認、漏れや亀裂のチェック、熱の検出、異常な振動の音響の検知、ガス検知のためのデータを収集するのです。収集したデータは分析・可視化し、施設の管理者が安全かつ生産的な運営ができるよう支援します。さらに、石油・ガス業界向けに特化した「ANYmal X」という機種もあります。外見はANYmalと似ていますが、防爆認証「Ex-proof」を受けており、より危険で過酷な環境での使用に対応します。

 ビジネスモデルには2つのアプローチがあります。一つは顧客がロボットを購入し、ソフトウェアをサービスとして利用するモデル。もう一つはロボットとソフトウェア両方をサービスとして利用する「Robot as a Service」のモデルです。ソフトウェアについては、顧客がデータ基盤を何も持っていない場合と、デジタルツインやデータ運用のプラットフォームを持っている場合で提供形態が異なります。前者の場合は、データの管理や閲覧ができる基本的なダッシュボードを提供し、すぐにデータの収集・活用を始められるようサポートしています。後者の場合は、顧客が持つデジタルツインなどのデータ基盤に、ロボットが収集した情報を統合できるAPIを提供しています。

image: ANYbotics 「ANYmal」

image: ANYbotics 「ANYmal X」

―Boston Dynamicsも4足歩行のロボットを提供していますが、どのような違いがありますか。

 私たちはBoston Dynamicsと非常に良い関係を築いており、新しい市場の開拓や新技術の確立と普及に共同で取り組んでいます。Boston Dynamicsは非常に優れたロボットを開発しており、ダンス、捜索救助、検査など、多岐にわたる活動が可能です。一方で、私たちは産業オペレーター向けに特化した使い道に焦点を当てています。

 ANYmalは非常に頑丈で、完全な防水・防塵仕様であり、危険な環境での作業に対応する認証を受けています。ANYmal自体のメンテナンスについては、実際に必要な作業は非常に少ないです。お客様が行う必要があるのは、使用により摩耗するシューズのパーツを取り替えること、汚れた環境で使用した場合は自転車のように清掃することくらいです。また、私たちは自動化、デジタルツインの統合、検査知能の面でより多くの機能を提供しているのも特徴です。

image: ANYbotics

鉱業、化学、石油・ガス業界から引き合い

―顧客の導入事例について教えてください。

 当社の顧客は、主に大手の産業オペレーターです。特に金属産業や鉱業、石油・ガス、化学分野で多くの業務を行っています。代表的な顧客には、PETRONASやShell、W. R. Grace & Co.などがあります。これらの企業の施設では毎日数十万ドルを生産し、少しでも運転が停止すると大きな損失となります。私たちは、データを活用して顧客のメンテナンスサイクルを最適化し、問題をより早く、より迅速に特定することで支援しています。

 例えば、W. R. Grace & Co.では、サーモグラフィを用いたロボットの導入で年間35万ドルものコスト削減に成功しました。このように、多くのお客様が6カ月から12カ月で投資回収を達成し、追加のロボットを導入しています。当社のロボットを10台以上導入している例もありますよ。

―事業の成長についてはいかがでしょうか。

 私たちは欧州に本社を置いていますが、グローバルに展開しており、米国にもオフィスを構えています。また、ブラジル、カナダ、UAE、マレーシア、シンガポール、台湾、そして日本など、世界各地のパートナーを通じて製品を提供しています。

 スタートは非常に小規模でしたが、現在は非常に良い成長軌道に乗っています。これは、当社のプロダクトの信頼性が認められ、購入数が増えているからです。現在、私たちは150台以上のロボットを出荷しており、その数は日々増加しています。

image: ANYbotics HP

ドローン企業との提携や、設備の清掃機能も視野

―今後1〜2年の目標を教えてください。

 新しいロボットの詳細な仕様はお伝えできませんが、多くの機能や検査ツールを追加していきます。また、検査だけでなく、レバーを操作したり、キャビネットを開けたり、サンプルを取るなどの機器操作も行っています。

 私たちはAIを頭脳とした多様なタイプのロボットを新たな労働力として提供しようとしています。例えば、壁を登ったり、パイプ内を移動したり、施設を清掃したりするロボットなどです。また自社だけでなく、ドローンを得意とする企業ともパートナーシップを組んでできることを増やしています。AI、自動化、移動能力などにおいて多くの技術を活用してその領域を広げようとしているのです。

―パートナーとはどのような関係が望ましいですか。また将来展望や日本市場についてのお考えも共有ください。

 私たちは、ロボットやドローンなどの技術に精通し、新しい技術を恐れず、すでにお客様と密接な関係を築いているパートナーを広く求めています。現在、日本バイナリー社を含め、グローバルに15社ほどのパートナーがいますが、これらの企業は大規模な産業施設を扱い、既存のチャネルを通じてお客様のニーズを深く理解しています。

 ロボティクスとAIは本当に素晴らしい組み合わせだと思います。AIによってロボットは自ら歩き方を学びます。私たちはロボットをプログラミングしているわけではなく、ロボットが迅速に学習する仕組みを使っているのです。AIを活用するロボットは、AIをクラウドの中だけでなく、現実世界に適用することができます。これは非常にエキサイティングです。

 私見ですが、日本企業は革新に対して非常にオープンで、ロボットが大好きだという印象を抱いています。当社は、産業現場での作業の自動化を図りたい企業にとって非常に魅力的な製品を提供しています。従業員が他の活動に集中できるような支援ツールをお探しであればぜひお声がけください。

Robotic Inspection in Train Maintenance with ANYmal from ANYbotics on Vimeo.



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