NFTを使ったマネタイズの仕組みを考える
近頃、バズワードと化している「メタバース」や「NFT」のキーワード。旧FacebookはMetaへ社名変更し、Microsoft(マイクロソフト)は約7.8兆円で米ゲーム会社のActivision Blizzard(アクティビジョン・ブリザード)を買収するなど、メタバースを巡る動きは加速している。代替不可能なトークンであるNFTはデジタルコンテンツの真贋性の保証に活用できることから、NFTアート作品の高額取引が相次ぐなど、人気は過熱する一方だ。
一方で、デジタルコンテンツは持っていても、それをNFTにしたりメタバースで展開したりするための開発リソースを持たない事業会社やクリエイターにとって、参入障壁が高いものがある。
岩崎氏は「新型コロナの流行を経て、音楽やファッションといったコンテンツのデジタル化がより一層進みました。しかしコンテンツを持っているからといって、バーチャル上でも成功できるかどうかというと、話は別です。そこで私はNFTを使って誰でもマネタイズできる手法を作れないか考えるようになったのです」と説明する。
岩崎氏の経歴はユニークだ。弁護士になった後、留学先のスタンフォード大学で環境科学を学んだことをきっかけに、水資源を最適化する技術によって農作物の収穫量を向上させる設備開発のmOasis(モアシス)を共同創業した。同社は後に事業売却。また、放射性廃棄物の管理を手掛けるキュリオン社で、ロボットを使って東京電力福島第一原発の原子力廃棄物除去に関わったこともある。
Anifie創業のきっかけは、異なるハードウェアでも動く、ロボット共通のミドルウェアを作りたいと思ったからだった。だが、ちょうどその頃、シリコンバレーではメタバースが盛り上がりを見せ始めており、この世界で共通基盤づくりを目指す事業へとピボットした。
Anifieの強みは、こうした岩崎氏の多彩な経歴から生まれた、ホワイトレーベル型で作りあげるオリジナルのNFTメタバースだ。これは、弁護士時代に培った知識と、ロボット向けミドルウェア開発の経験が生かされている。
弁護士ならではの「視点」と「強み」 目指すはクロスプラットフォーム
Anifieは、バーチャル上に自分達のコミュニティをつくりたいという企業やクリエイターに開発リソースを提供する。例えば、主催者はオリジナルのコンサート会場を仮想空間につくり、参加者は自身が選んだアバターで参加してイベントを楽しむといった世界を実現することができるものだ。さらにコミュニティを盛り上げるために、さまざまなNFTコンテンツを取引できるようにした。
岩崎氏は「NFTには3つの大きなトレンドがあります」と説明する。
「最初に起こったトレンドは、NBA Top Shotに代表されるようなコレクション欲を満たすためのNFTで、いわばアートです。第2は、デジタル世界でIDを持つためのユーティリティを有するNFTです。例えば、DecentralandやThe Sandboxのようなゲーム内で使えるトークンとしてのNFTや、ツイッターのプロフ写真として大流行したBored ApesのようなステータスシンボルとしてのNFTがあります。そして第3のトレンドが、ゲーム内で敵を倒したり、歩いたりすると対価として受け取れるようなNFTです。Anifieは第2のNFTをターゲットにしています」
Anifieが提供するNFTメタバースは、強いコンテンツのNFTをただ並べるための空間ではない。ユーティリティを使って希少性を高め、運用して、収益を上げるといったNFTを活性化するものだ。
「NFTメタバースの力の源泉はコミュニティです。2次コンテンツがたくさん生まれれば生まれるほど、コミュニティは強くなり、NFTとしての価値も上がります。そのためにはメタバース間の相互運用性(あるメタバースで作ったNFTを、別のメタバースに持ち込めるようにすること)を高めなければなりません」
岩崎氏が目指すのは、「1つのNFTがいろいろなメタバース上で動かせるようなクロスプラットフォーム」だ。「誰かがつくったNFTに別の人のNFTを結合できるような技術開発もしていて、これは特許も出願しています」とAnifieの強みを説明する。
これまでインターネット上にこのような高度なNFTの仕組みを作ることは難しかった。その理由の1つとして、岩崎氏は「デジタル資産に関する規制の問題がある」と指摘する。
「まだ多くの方が気づいていませんが、デジタルアセットのマネタイズは、特に米国などで規制が非常に厳しいです。この規制を理解できないとうまく事業化できません。私の場合、弁護士というバックグラウンドと、原子力業界の厳しい規制と戦ってきたという経験が生きています」
弁護士と起業家という両方のバックグラウンドを持つ岩崎氏は、法規制に詳しくない人でもマネタイズが進むような強い「NFTコミュニティづくり」を提供できるというわけだ。
こういったコミュニティづくりは、コンテンツを豊富に持ち、メタバース上で活用したいという事業会社に最適だと岩崎氏は語る。メインのターゲットはファッションブランドや芸能・音楽事務所だ。
グラミー賞受賞作をはじめ数々のミュージックビデオやCM制作を手掛けたJohn Oetjen氏、人気テレビドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」などの曲作りに携わったPatrick Woodland氏らとタッグを組んで、NFTメタバースの事業化に取り組む。日本では電子チケット販売プラットフォーム「ZAIKO」と提携。
2022年4月には、フォント事業などを展開するモリサワの米国拠点であり、フォントのデザインや販売を行うMorisawa USAと協業し、同社のNFTフォント鋳造(NFTを新たに発行・作成)をサポートした。
NFTメタバースは日本にこそチャンスがある
Anifieの累計調達資金額は2022年2月時点で3.9億円。これまでDGベンチャーズ、PKSHA SPARX アルゴリズムファンド、サイバーエージェント・キャピタル、パーソルベンチャーパートナーズ、 ブイキューブといった有力な国内機関投資家から資金調達している。
これをきっかけにAnifieは日本企業との事業連携に注力していく考えだ。そのためエンジニア採用を強化し、将来的にはSaaS型で完結できるようなツール開発を目指す。岩崎氏は「日本はメタバースやWeb3.0で飛躍できる可能性がたくさんある」と進出に期待を寄せる。
「米国のデジタルアセットは古い判例をもとに規制されていて、規制の網が大きく、どう転ぶか分からないというリスクがあります。しかし日本はこの規制が非常によく整備されていて、きちんと押さえればリスクを予測しながらデジタルアセットのマネタイズが可能です」
「日本経済は世界で自信をなくして久しいですが、それでも世界第3位の経済大国です。第2位の中国は暗号資産すら禁止していることを考えれば、いまNFTメタバースの事業化を世界に先駆けて成し遂げることが、日本にとって大きなチャンスにつながるでしょう」
岩崎氏はこれからメタバースにチャレンジしようとする人たちに向けてこう語った。
「ブロックチェーン、NFTは市場が立ち上がってからおよそ10年ほどしか経っていません。玉石混交していてリスクが大きい部分もありますが、エンジニアだけでなく、クリエイターや金融、法律の専門家まで、どんな人でも成功できるチャンスがあります。ですから、しっかりと自分の軸を持ち、専門性を磨いて、ぜひチャレンジしていってください」