今、3Dプリントが求められる理由
―ー御社はどんな事業を展開しているのでしょうか。
当社は、3Dプリンターを活用した金属・樹脂・炭素繊維向け製品の販売から、その量産体制の構築支援、製造受注インターフェース「TAIGA」の販売など3Dプリントの総合的なソリューションを提供しています。
3DPCが目指している未来を一言で表すと、「サプライチェーンをより持続可能なものに変革すること」だと言えます。具体的には、3Dプリンターを製造工程の核に据え、製造を機械や人のスキルに頼ったものから、「データ」を用いたデジタルを中心としたサプライチェーンをつくっています。
(デヴォア・アレキサンダー)
現在ほど、3Dプリントが製造業に求められている時代はありません。新型コロナウイルスの流行やウクライナ情勢、他国との政治的関係性の悪化など、サプライチェーンにおいてさまざまなリスクが顕在化しています。製造のプロセスが複雑化し、安い人件費を求めて複数の異なる国の工場で部品の製造・委託を行っている状況下では、1つの国で何かの問題が起きると、たちまち最終製品が製造できなくなってしまいます。
コロナ禍での最大のレッスンは、私たちが思っていたよりも、多国間に渡るサプライチェーンは脆弱だ、という事実なのだと思います。
3Dプリンターの利点は、従来の工作機械と違い、データを軸に多くのバラエティの製品を製造できる点にあります。つまり、ノウハウや製造プロセスに関するデータをソフトウェアに落とし込めば、いつでも同じ製品が出来るので、追加の部品発注や在庫の必要性がない、効率的な製造体制を構築出来るのです。
現在、当社の顧客は主に防衛産業ですが、宝飾業界、重工業メーカー、小売業にも顧客がいます。防衛産業と小売業は一見かけ離れた業界のように思えますが、サプライチェーンという観点からは彼らが求めていることは同じです。すなわち、「欲しい時に、必要な時に部品が欲しい」のです。
当社は3Dプリントによる、製造プロセスの変革をサポートしていて、特定の部品の製造業者ではないからこそ、幅広い業界に顧客を抱えているのです。創業して6年になりますが、2022年は年平均成長率(売上高)50%増を記録しているなど、業績も好調です。
Image:3D Printing Corporation
製造プロセスの「効率化」に主眼を置く デジタル版「カイゼン活動」
―ー競合他社と差別化している点を教えてください。
当社の届けるサービスの特徴は以下2つに要約できます。1つ目は、「自動フィードバックシステム」を確立していること。ソフトウェア上に前回製造時のデータを組み込み、それをアルゴリズムが解析し、次回製造時にはより良い製品を製造できる仕組みを構築しているのです。ソフトウェアに入力するデータは、数式や幾何学図形など、製品のノウハウに関わる特定のものです。
つまり、3Dプリンターの特性である「工作機械と違い、簡単に製品を複製出来る」という利点に加え、「自動的に製品の品質を向上させる」仕組みも取り入れているのです。デジタル版「カイゼン活動」だとも言えますね。
これは、多くの製造業が今やろうとしていることですが、なかなかできていません。3Dプリンターを熟知した総合的なソリューションを提供できる当社だからこそ可能なのです。
2点目に、当社のソリューションは「応用範囲が広い」点があります。3DPCは、粉末床溶融結合法など、3Dプリンターに関する特定の技術や、素材にこだわったソリューションを提供している訳ではありません。また、3Dプリントの技術発展は目覚ましく、20年後には現在有力な技術が時代遅れになっている可能性もあります。
あくまで、当社がこだわるのは「ベストな最終製品を作るための、ベストな製造工程の提案」という点であり、3Dプリンターの特定の技術や部品の専門家になることではありません。そのため、顧客の製造工程によっては、3DプリンターとCNC工作機械の組み合わせを提案することもあります。だからこそ、より多くの業界に対しての貢献が可能なのです。
「アメリカ人」から見た「日本の製造業の未来」
―ーあらためてですが、3D Printing Corporationを日本で創業した経緯を教えてください。
私の妻が日本人で、彼女とともに訪日したことがきっかけです。彼女の祖母のお見舞いが目的だったのですが、手持ち無沙汰で、日本の経済構造について調べていました。ご承知の通り、日本経済においては製造業のプレゼンスがとても大きいことを知ったのですが、3Dプリントの事業に参入しているプレイヤーがほとんどいない、という事実に驚きました。
というのも、欧米では3Dプリントが製造業の未来を大きく変えるだろうということが、半ば常識として広く認識されていたからです。
私自身は連続起業家で、過去には欧米や中国で貿易関連のビジネスをしていて、3Dプリントに関する知識は当時なかったのですが、日本では大きなチャンスになる、と確信しました。それが創業の経緯です。
―ーアメリカ人として日本で起業し、日本の製造業の顧客をメーンにビジネスをしているアレクサンダーさんの視点は貴重だと思います。今後の日本の製造業の未来をどのように見ていますか?
第二次大戦以降、日本の経済成長をけん引してきたのが製造業であることは自明です。当時、長期的なビジョンを持った、若いリーダーが次々と台頭しました。今後の日本においても、そうした資質がある経営者の存在が何より重要だと感じています。
顧客は本質的に「安くて、良いもの」を欲しがります。それはどんな時代でも変化しません。しかし、今、多くの会社では、短期的な成功に囚われるあまり、コストカットに走っています。自社でしか提供できない価値やビジョンの構築を蔑ろにしているように感じるのです。これでは、企業の中長期的な繁栄には繋がりません。現在の日本の製造業が直面している課題は、「短期間の成績に囚われている」という一点に集約されると分析しています。
そうした状況を打破できるのは、優れた、常識に染まっていない若いリーダーに他なりません。世界に類を見ない高齢化社会という課題も、自動化などさまざまなテクノロジーを活用し、乗り越えていくべきでしょうね。
Image:3D Printing Corporation
テクノロジーをてこに、より効率的なサプライチェーンをつくる
―ー日本の大企業との提携を求めていますか?
当社はすでに旭化成とのパートナーシップをはじめ、多くの企業と協業しています。私たちは「部品の製造者」としてではなく、「効率的な製造プロセスを提携先企業と共につくる」という立場をとりたいと願っています。それが、3Dプリンターをてこにしたサプライチェーン構築における本来のあり方だからです。
例えば、旭化成とのパートナーシップでは、3Dプリントによる製造プロセスを利用した、炭素繊維強化プラスチックの量産体制の構築を支援しています。この素材は、金属材料と比較して軽量で機械特性に優れるなど、最も性能の高い材料のひとつであると考えられていますが、扱いの難しさやパーツ製造にかかる費用の高さから、量産が難しいという課題がありました。そこで、当社の新しい3Dプリンターや関連機器、3Dプリントによる製造プロセスを利用し、「簡単に」炭素繊維強化プラスチックを製造する、という提携に至りました。
―ー日本の大企業との提携を考えた場合、どのような形態がベストだと考えていますか?
合弁事業や資本提携がベストだと考えています。なぜなら、製造業のサプライチェーンに入り込む当社にとっては、それらが最も適した形態だからです。
パートナーシップを成功させるために必要なのは、提携先が当社のテクノロジーを理解していることだと考えています。私たちは、小さな会社ですが、3Dプリントの領域では、日本で競合がいないと自負できるほど、優れたテクノロジーを有しています。大企業の規模を利用したオペレーション能力と、当社のテクノロジーを掛け合わせることで、シナジーを発揮したいですね。