店内に設置したカメラやセンサーで店内の客の動きを検知し、店外に持ち出された商品だけを自動課金する無人決済システムを開発したStandard Cognition。Co-founder & COOのMichael Suswal氏に話を聞いた。

労働力不足と市場シェア拡大を実現するためのユニークな顧客体験

―まずはあなたの経歴と設立の経緯を教えてもらえますか。

 私は6年間日本で働き、ビジネスの原則とマーケティング、プロジェクト管理などを学びました。アメリカに戻った際にはアメリカでの専門的な経験はあまりなかったので、携帯電話業界の日系テクノロジー企業で働き、アプリ開発・コンピュータに関する知識と、事業開発・プロジェクト管理のスキルを伸ばしました。

 その後、バスルームとキッチンアクセサリーの流通販売会社やビデオゲーム会社の設立、株式市場における貿易違反と詐欺を検出するプラットフォームを構築する証券取引委員会での仕事などを通し、たくさんの経験と人脈を得ることができました。Standard CognitionのCEO Jordan Fisherもその1人であり、ともに結成した研究会では1年間、「コンピュータビジョンと機械学習」についてアイデアを出し合いました。その研究会でともに活動した全員がStandard Cognitionの共同創設者になりました。

―小売りをターゲットとしたのはなぜですか。

 価値の高い15の産業をリストアップしたところ、上位2つは軍事と医療でした。その2つは生と死を扱っており非常に規制されたビジネスです。そこで我々は3番目の小売業に注目しました。小売技術には非常に大規模なスタートアップコミュニティがあり、これまで多くの投資がされていますが、あまり機能していないようでした。それはなぜか?何が問題なのか?それを知るために、多くの市場調査をしました。

 小売業界は新しいテクノロジーを好み、スタートアップを求めていますが、彼らを育てることに長けていないと感じました。彼らはイノベーションラボを通じて、非常に不利な条件で活動していたため、80〜85%程度は企業として成熟できませんでした。そのような状況に、我々は参入のチャンスがあると感じ、小売業界で我々が解決できる最大の問題は何かを考え始めました。

Michael Suswal
Standard Cognition
Co-founder & COO
West Chester University of Pennsylvania卒業。Smart Ebook.comにてビジネス戦略を担当し、Sassafras Distributionを設立。Acoustiguideでの戦略・事業開発やPwneeStudiosを共同設立する。2017年にStandard Cognitionを共同設立、COOに就任。
 

―どのように問題の解決を目指したのですか。

 考えたのは2つの側面です。日本や他の国々も抱えている問題である「労働力不足」と、米国などで求められている「市場シェアの拡大」です。そこで我々が目指したのは「顧客体験の向上」です。買物客にどのような体験やメリットを与えられるかを考え、思いついたのが、顧客はただ店内を歩き、モノを手に取り、立ち去るだけ。列に並んだり、自分でスキャンしたりといったショッピングの不毛な部分を排除して楽しくする、レジのない自動精算システムです。顧客は入店時にスマートフォンアプリでチェックインするだけで、レジ精算なしに、店内から持ち出された商品分だけがアプリを通じて課金されます。

 ですが、我々がこのアイデアの実現に向けて動き出そうとしたタイミングに、Amazonが同様のアイデアを発表したのです。我々のエンジニアは一様に落胆しました。でも、すぐに視点を切り替え、既にAmazonが「このアイデアは実現可能だ」と証明してくれている、これは我々にとって最良のシナリオだと。そして、Amazonがリアル店舗を開いたことで、他の小売業者は焦っている、そこに我々のビジネスチャンスがあると逆転の発想をしたわけです。そして、VCを通じて多額の資金を得て、アイデアの実現に向けて開発を進め、我々は順調に上昇軌道にのることができました。

顔認証を行わずに購買行動を追跡するAI技術

―具体的な機能や特徴について教えてください。

 我々のシステムにとって最も重要な点は、顔認識やその他のバイオメトリクスを含まないデータを使用することです。その理由は倫理の観点からであり、先日カリフォルニア州が特定の活動においてのその使用を許可なく利用することを禁止するという新しい法律を施行したという事実がそれを証明しています。個人情報である顔認証を含まない匿名化された顧客行動データの活用は、小売業者にとっても導入しやすいポイントです。

 2つ目はスケーラビリティです。「Amazon Go」は天井に100台以上のカメラを設置し、棚に数千個のセンサーを埋め込んでいますが、それらに対して我々が考えた課題は、機器費用が高額になることだけでなく、メンテナンスが頻繁に必要になることです。故障率が2%である場合、1週間に1回訪問しなければいけず、店舗運営に支障をきたしかねません。そのため、我々は店舗に設置するセンサー数を50個未満にするよう努力し、実現しました。

 3つ目は既存の店舗運営や物流チェーンを変更することなく、新しいテクノロジーを導入したことです。300社以上の小売業者と実際にディスカッションし、彼らが求めているものは、コスト削減や収益向上はもちろんですが、市場シェアを広げるために顧客にインパクトを与えるユニークなショッピング体験でした。その一方で、小売業界の歴史は長く、非常に複雑でダイナミックな産業であり、店舗のオペレーションは大変洗練されています。そのため、店舗の物流チェーンを変更することはできません。既存領域に手を加えず、新しいイノベーションをおこすテクノロジーを構築することは非常に困難でしたが、そのチャレンジは我々にとっても良い経験になりました。

 4つ目は柔軟性です。現在成長している小売モデルにおいては、カスタマイズ、ローカリゼーション、パーソナライズの3つの単語がキーワードであり、我々のシステムも強くそれらを意識しました。売り場レイアウトの変更や特別売り出しなどへの対応もスムーズです。

 5つ目は分析力です。システム構築にあたって解決すべき問題は、誰が何を持っているかを把握し、そして持っているものが確実に店内で入手したものかどうかを判別することです。そのためには、人々が何を手に持ち何を下に置いて何を買っていないのか、どこを移動しているかけでなく、その空間で何をしているのかを的確に分析する必要があり、AIと画像認識技術を駆使ました。店舗で収集された匿名化された顧客行動データの分析も可能です。

カメラ数を抑えて導入時のハードルを下げる

―どのようにして他店よりカメラを減らしたのですか。

 簡単ではありませんでしたが、我々が出した解決手段は、空間内の任意の1点に少なくとも3つのカメラから撮影するということでした。それによりカメラの個数を減らしながらも、店内の顧客の動作を3つの異なる角度から見ることができるからです。盗難を防ぐために、カメラアングルの調整テストを幾度も繰り返しました。

 また、店舗スタッフ向けのミッションコントロールアプリを開発しました。私は大のハリー・ポッターファンなのですが、ハリー・ポッターには「忍びの地図」というのが出てきますよね。学校内に誰がどこにいるのかを映し出す地図です。私たちは同じようなものを開発しました。

 店内のどこに人がいるかを示すMapと彼らが何を手に取ったかリスト表示できるようにしました。出口付近に近づいたら、ちょっと声をかけてね、と、スタッフに警告メッセージを飛ばしています。「盗んだのではないか?」と非難すると、それが正しくても正しくなくても良い顧客体験ではありません。スタッフが「チェックアウトのお手伝いをしましょうか?」と声をかけて彼らの動向を確認し、予防することにしています。我々はそのアイデアを本当に気に入っており、我々が話すほとんどの小売業者もそのアイデアを気に入っています。

最も適した市場は日本

―日本での展開、今後の展望についてお聞かせください。

 約1年半前に市場の重要性をアピールしたいという理由もあって日本に事務所を開設し存在感を高めました。日本が我々にとって非常に重要な市場である理由は「労働力不足」であるという点と、新しいテクノロジーへの投資に積極的である点です。また、我々のビジネスはコンビニやクイックサービスのレストランなど、小さなスペースのお店が適しています。世界で最も頻度と密度が高い買物客がいる日本のコンビニがまさにベストです。

 既にドラッグストアなどを抱えている企業とパートナー契約をしており、いくつかの小売業者とも話をしています。小売業者だけでなくPOSメーカー、小売業界コンサルタント、棚札を扱う業者、カメラを構築する企業、代替コンピュータに取り組む企業、支払い処理業者、クレジットカード会社など、小売業者を取り巻くかなり多くの関係者とも話をしています。



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