Shopic(本社:イスラエル)は、スーパーマーケットなどで使われる既存のショッピングカートに取り付けるAI搭載のデバイスを開発するスタートアップだ。ユニークなクリップ・オン・デバイスを取り付けるだけで通常のカートは「スマートカート」となり、高性能なコンピュータ・ビジョンによって、カートに出し入れした商品を検知する。そのため、買い物客はレジで商品をスキャンする必要がなく、カート上で支払いまで完了でき、会計待ちの行列に並ばずストレスフリーなショッピングを楽しむことができるのだ。店舗側にとっても、効率的な在庫管理ができ、消費者インサイトを得ることが可能だ。

サイバーセキュリティの専門家が着目した「リテール業界の抱える問題」

 2015年に設立したShopicの共同創業者で、CEOのRaz Golan氏は、もともとイスラエル国防軍でサイバーセキュリティに携わった後、その経験を活かし、Check Point Software Technologiesでセキュリティ・リサーチャーとして活躍した。その後数回の起業を経て、軍時代に一緒だったEran Kravitz氏(現CTO)、Dan Bendler氏と共にShopicを立ち上げた。

「ショッピング体験を最適化し、オンラインコマースと実店舗の間のギャップを埋める方法を見つけたかったのです」と、Golan氏は語る。Shopicの提供するデバイスの優位性や、競合他社との違いはどこにあるのか。

Raz Golan
Shopic
Co-Founder & CEO
イスラエル国防軍の諜報機関「8200部隊」の一員としてサイバーセキュリティや、技術的プロジェクトに携わる。兵役に就く前、高校時代に14歳で学士号を取得し、イスラエル最大の学習教材サイトSikumuna.co.ilを共同設立。退役後は、Check Point Software Technologiesにてセキュリティリサーチャーを務め、ソフトウェア企業Semanixの共同創業などを経て、2015年にShopicを設立。2019年から現職。

 AI搭載の「スマートカートソリューション」のモデルが具体化したのは「前職でサイバーセキュリティに携わっていた時、大きな問題を抱えている業界について調査した事が始まりです」とGolan氏は当時を振り返る。

 Golan氏らはリテール業界について調べていた際、消費者の「悪い買い物体験」が店側にとっての多くの機会損失や信頼性下落につながることを知った。「このままでは、ビジネスに支障をきたしてしまいます。この問題に対応するソリューションを見つけなければと思い、国防軍勤務時に出会ったkran KravitzとDan Bendlerとともに2015年にShopicを設立しました」

 最初に開発した製品は専用端末や買い物客のスマートフォンを使った "スキャン&ゴー "のソリューションだった。しかし、大規模なスーパーマーケットで顧客により充実したインタラクティブな体験を提供するには、別のソリューションが必要だと気付き、Shopic独自の「スマートカートソリューション」の開発に至った。

シームレスなショッピング体験と、在庫管理・消費者インサイトを両立

 独自のクリップ・オン・デバイスは、既存のショッピングカートに取り付けるだけで、セルフチェックアウトが可能なスマートカートに「変身」するデバイスだ。店舗入口などに設置する、壁掛けの棚ユニットを介して充電するように設計されている。

 カートのかごに向けられたカメラが、かごに出し入れされた商品をリアルタイムで認識し、コンピューター・ビジョン・アルゴリズムで映像を送る仕組みだ。買い物客は店内の通路マップやプロモーション商品などをデバイスのタッチスクリーン上で見ることができる。支払い時はエクスプレス・チェックアウト・エリアに移動し、そこで支払いを完了させるため、レジの長い行列に悩まされることもない。また、支払い金額もスクリーン上で常に確認ができるため、買い物客はシームレスな買い物体験ができる。

 店舗側にとってもリアルタイムの在庫管理ができ、消費者の購買行動についてインサイトを得ることが可能だ。分析ダッシュボードにより、店舗でのプロモーションや消費者の行動をモニターすることもできる。

 ショッピングカートに設置されたカメラとセンサーが、何百もの行動データとカートに入れた商品データを収集し、そのデータを複合的な視点でアルゴリズムにより分析する。買い物客の店内行動にスコアをつけることで、盗難、商品破損などを検出するなど不正防止機能も備わっている。システムにある未解決の警告が全て解決されるまで、買い物客はチェックアウトを完了することができない仕組みだ。

Image:Shopic

大型店舗に特化したソリューションで店側の「ペイン」を解決

 チェックアウトフリーのショッピングのコンセプト自体は決して新しいものではなく、レジ係のいらない買い物や決済を実現しようとしている企業は他にもある。

 Amazonがオフラインでの新しい試みとして運営する無人店舗の「Amazon Go」や、レジレス店舗ソリューションを提供するイスラエル発のスタートアップTrigoなど、リテール業界に着目した競合社の存在もちらつくが、「私たちのソリューションは大規模な店舗に焦点を当てているため、大型店舗のエリアでは直接の競合相手はいません」とGolan氏は胸を張る。

 市場にはいくつかのアプローチがあり、コンビニエンスストアのような面積の店舗と大型店舗ではアプローチ方法が異なってくるという。Trigoや Amazon Goなどの企業は、買い物客とのインタラクションがない自律的な店舗を目指したソリューションを構築しているため、小型店には適しているが、顧客のショッピング体験を鑑みると、大規模な店舗には適さないという。

 必要なものだけを数点買うスタイルのコンビニエンスストアでの買い物に対し、大型店舗において買い物客は少なくとも20分から30分は店内で過ごし、最低でも10~20点ほどの商品をカートに入れる。大型店舗をターゲットにすれば、おのずと品揃えが豊富な大型店舗に見合ったデータを正確に収集するデバイスを開発する必要性が出てくる。

「大型店舗では、5万から10万もの商品を取り扱っているため、その数に対応する正確なコンピュータ・ビジョン・モデルを持つことは、非常に困難なことです。しかし私たちは優れた技術によってそれを実現しました。これほど大規模なカタログや商品数を、高いコンピュータ・ビジョンでサポートできる企業は、私たち以外には存在しません」

 また、Shopicのデバイスは既存のショッピングカートに簡単に取り付けるだけで使え、店舗側は新しいカートを一から作り直したり、導入したりする必要はない。Shopicのデバイスを遣えば、店舗側にとってコスト面、運用面でもメリットが大きい。Golan氏は「こういったことを考慮し、基本的にカートから『頭脳』を切り離し、すべてを簡単にできるようにしました」と店側のペインポイントを解決する導入ハードルの低さを強調する。

Image:Shopic

社員増強、世界展開も加速 日本への進出にも強い関心

 Shopicは2022年8月、Qualcomm Venturesが主導するシリーズBラウンドで3,500万ドルを調達した。同月現在、調達資金総額は5,600万ドルとなった。

 Bラウンドでは、既存の投資家であるイスラエルのスーパーマーケット大手Shufersalに加え、Vintage Investment Partners、Clal Insurance Enterprises Holdings などが新たに名を連ねた。投資家たちを引き付け、新たに資金調達に成功した理由を、Golan氏はこう説明する。

「小売向けのテクノロジーを開発する上で最も重要な事の一つは、店舗における運用上の課題や独自のニーズを深く理解することです。私たちが開発したデバイスは、技術面、運用面において最も洗練された製品です。試験運用を終え、世界中で使われ始めています。ですから、大手小売業者との取引で、私たちの能力を商業的に、そして技術的に証明できたことによって、投資家を引きつけることができ、さらに新しい資金を得て、より迅速に前進することができるようになったということです」

 調達資金は、世界展開を加速させるためにより強固なオペレーションの構築と、販売とマーケティング活動の強化に充てる予定だ。

 現在の社員数は約80人。2022年内にはさらに20人ほど増員する予定だという。米国、ラテンアメリカ、欧州などでは既に展開しており、将来的な日本市場への進出にも前向きな姿勢を示す。

「日本は素晴らしい市場ですので、前向きに検討しています。ありがたいことに日本市場から多くの関心が寄せられていて、大手企業やコングロマリットからアプローチを受けている段階です」

 海外展開に当たって、同社は現地パートナーとの連携を重視している。「現地のパートナーと一緒に仕事をする場合、商業的な関係だけでなく、店舗でのハードウェアの取り扱いや、店舗レベルでの保守・サポート、さらには他のシステムとの統合など非常に幅広い提携が考えられるので、各国市場での展開において、私たちが協力できるプレーヤーはたくさんいます」とGolan氏は日本市場にも大きな期待を寄せる。

「私たちの独自なアプローチ方法によって小売業のフロントエンドをデジタル化し、オンライン・ショッピングの利点を物理的な空間にもたらすことを目指し、店舗やオペレーション、インフラに負担をかけずに、あらゆるメリットを享受できるようにしたい」と、Golan氏はリテール業界を支える今後の取り組みと長期的なビジョンを語った。



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