産業用ロボットが動作中に衝突する事故を回避するためのモーションプランニング(動作計画)を手掛けるRealtime Robotics(本社:米マサチューセッツ州)。同社が開発したソフトウェア環境内でロボットと目的点をポイント&クリックすれば、衝突を回避するタスクプランを視覚化できるため、プロジェクト当たりのプログラミング時間を数週間から数カ月節約できるという。日本にも東京オフィスを構える同社のCEOであるPeter Howard氏にプロダクトの特徴や成長戦略を聞いた。

数々の企業経営を経て、革新的なロボットの自律処理テクノロジーに出合う

―これまで携わった仕事やRealtime RoboticsのCEOに就任された経緯をお聞かせください。

 私は1984年に三菱商事でキャリアをスタートし、三菱グループで12年間を過ごしました。最初は米国で勤務していましたが、すぐに日本に異動となり、1987年にシンガポールへ転勤して三菱と現地企業とのジョイントベンチャーを設立しました。その次はフランスに転勤し、フランスでもジョイントベンチャーを設立しました。いずれのジョイントベンチャーもその後、上場を果たしています。

 三菱グループで勤めた後は米国に戻り、Thermo Fisher Scientificという会社で働きました。ニューヨーク証券取引所に上場している科学機器・試薬メーカーです。その後、医療技術業界に身を移し、Analogicという医療機器関連の企業に勤めました。MRIやCT、X線装置などの医療機器の部品を供給する企業で、顧客には東芝メディカルやGE、フィリップスなどがいました。その後も医療関連業界でいくつかの会社を渡り歩き、2017年にRealtime Roboticsに参加しました。

 Realtime Roboticsは、モーションプランニングと呼ばれる分野において革新的な技術を保有しています。モーションプランニングは産業用ロボットや自動運転車両などに用いられる技術で、産業用ロボットにおいてはロボットアームの軌道を算出するのに活用されます。

 例えば、冷蔵庫からビールを取り出し、テーブルの上に置く一連の動作を思い浮かべてください。人なら簡単にできますが、ロボットはアームをどのように動かし、ビール瓶をどのように掴み、その後にアームをどのように冷蔵庫の外に出すかなど、非常に複雑な計算が必要で、動作が何十秒もかかります。

 このような問題に対して、デューク大学のチームが解決策を考え出しました。非常に複雑な動作をわれわれ人間よりも迅速に計算することを可能にし、これにより、ロボットを動的環境下で活用できるようになったのです。このチームは私に技術的なアドバイスを求めてきていたのですが、私はこれが非常に重要な技術で、自分もプロジェクトに関わりたいと感じ、最初の投資家となりました。そして、それ以来会社を率いています。

Peter Howard
President & CEO
1974〜1980年University of Massachusetts Amherst在学中、交換プログラムにて上智大学に在籍。1984年MIT Sloan School卒。卒業後は三菱商事に勤務し、ジョイントベンチャーのCEOなども務めた。その後は医療診断イメージング会社やCIRTEC Medical SystemsのCEO、Triple RING Technologiesのシニアバイスプレジデントを歴任。2017年にRealtime RoboticsのCEOに就任。

生産現場効率化のボトルネックだったロボットのプログラミング

―Realtime Roboticsが提供する技術やプロダクトについて教えてください。

 私たちのプロダクトはすべてソフトウェアです。現在3つの製品があり、フラッグシップ的なソフトウェアが「RapidPlan」です。これは、自動車や物流業界などで使用される産業用ロボットのプログラミング、展開、制御を自動化するもので、モーションプランを1000分の1秒単位で高速生成することができます。産業用ロボットが、構造化されていないワークスペースで協調作業したり、動的障害物を避けたりする経路をリアルタイムに調整し、自動化をさらに加速させるソリューションです。

 ただ、「RapidPlan」には、ワークスペースに何があるかを理解するセンシングは含まれていません。そこで2つ目の製品として「RapidSense」を作りました。このソフトウェアは、3Dカメラでデータを取り、ワークスペースにある物体に関する情報を処理します。この情報は「RapidPlan」に取り込まれ、ロボットが避けるべき障害物として経路の調整に使用されます。例えば、自動車の生産ラインでは、生産ラインにあるものは全てCADモデルになっています。しかし、もし人や他の物体がワークスペースに入ってきたら、それを感知するセンサーやカメラが必要になります。そのための製品です。

 そして3つ目は、効率化に関する一連のソフトウェアツールで、既に工場で導入されているロボットのサイクルタイムを効率化するものです。例えば、ホンダやトヨタの自動車工場で既に導入されているロボットの作業の中でボトルネックとなる工程があれば、私たちのソフトウェアを使って改善できます。

 私たちのソフトウェアは3つのライセンスモデルがあります。1つ目は永久ライセンスで、ライセンス料と年間保守費用が含まれます。2つ目は年間サブスクリプションで、ロボットを1000台保有するような工場の場合、ソフトウェアを利用するロボット1台当たり年間2000ドルです。3つ目は目標に対する成果報酬のようなモデルです。例えば、サイクルタイムを20%短縮できたとして、それが100台のロボットに適用されて100万ドル節約できたとします。私たちは、その節約できた金額の30%を成果報酬としていただくような形です。

image: Realtime Robotics

―御社のプロダクトはどのように使われていますか。成功事例を教えてください。

 私たちは最初、自動車産業を対象に事業に着手したので、たくさんの自動車メーカーを顧客に抱えています。自動車メーカーは既に生産ラインに多くのロボットを導入していて自動化の需要があったためです。Toyota Venturesはシードラウンドからの投資家ですし、フォルクスワーゲン、GM、メルセデス・ベンツグループ、BMW、ホンダなど多くの大手メーカーと取引があります。

 自動車メーカーが新しいモデルの開発に着手する際、デジタルツインと呼ばれる現実世界と全く同じ条件をデジタル空間上に再現し、ロボットのプログラムなどを行っていきます。私たちは、デジタルツインの段階から、ロボットのプログラミングに関するプロセスを自動化します。ロボットのプログラミングは、デジタルツインの構築とテストにかかる時間のおよそ80%を占めていますので、この時間とコストを節約できるのです。私たちのプロダクトは、通常サイクルタイムを5~20%短縮できるのですが、ホンダのある工程ではサイクルタイムを63%短縮できました。

 これまでは人間がプログラミングをしていたのですが、複雑なものになると2〜3カ月かかることもあります。私たちの技術では、一晩で10万通り、100万通りのロボットのプログラムを試し、最適化のための強化学習ができます。非常に強力な技術で、この分野に競合はいません。いるとしたら人間の脳ですが、先ほどお伝えしたとおり、時間がかかります。

image: Realtime Robotics

自動車業界だけでなく、あらゆる産業のオートメーションに貢献を

―御社自体の業績はいかがでしょうか。また、日本での事業はいかがでしょうか。

 私たちが製品の概念実証(PoC)を終え、実際に工場へのアプリケーションを提供できるようになったのは数カ月前です。ですから、今年の売上高は約200万ドル、来年は500万~800万ドルを見込んでいます。ただ、2025年までにトヨタやホンダ、フォルクスワーゲンの工場で展開する予定となっていて、売上高は2025年には3000万ドル台、2026年には7000万ドル台になると考えています。

 日本企業については現在、安川電機や三菱電機、川崎重工業、ファナックといった企業とお付き合いがあります。今後は自動化を必要とする他業種にもパートナーの枠を広げていきたいと考えています。例えば、建設業や農業など人手に依存しているような業界です。

―今後、御社のテクノロジーはどのように革新されていきますか。長期ビジョンについてもお聞かせください。

 私たちは、モーションプランニングを中核にしながら、より高いレベルでのプログラミングツールを開発し続けています。将来的には単体のロボットの動きだけでなく、ロボットを使ったシステム全体についてのプロダクトを提供したいと思っています。ロボット・システムを構築する場合、通常はPLC(Programmable Logic Controller)と呼ばれる制御デバイスを導入する必要があります。しかし、PLCのプログラムは非常に難しいです。そこで、設計も構築も簡単になるようなものを開発中です。

 私たちの目標は、ロボットの自動化を簡単で、シンプルで、安価で、生産性の高いものにすることです。日本にも米国にも労働力不足という大きな問題があります。ロボットに代わりをしてもらいたいのですが、プログラミングのコストがかかっていました。ハードウェアでなく、プログラミングの費用が高いのです。私たちはそのコストを下げることに重点を置いています。そしてロボットの自動化をより経済的なものにしたいと考えているのです。



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