Image: PlainID
デジタル空間が拡張し、クラウドサービスが隆盛を極める中、企業も自社のアプリケーションやAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)、データファイルなど膨大な量のデジタルアセットを管理しなければならない。イスラエル発のサイバーセキュリティ企業PlainIDは、それらをつなぎ、データとAPIのレベルまで誰がアクセスできるかの権限・許可の一元管理を可能にする。SAP、アクセンチュア、EYなど多くのグローバル企業がサービスを導入する。PlainIDの共同創業者で、CEOのOren Ohayon Harel氏に話を聞いた。

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100社以上が導入 SAP、アクセンチュア、世銀も

――PlainIDのサービスと立ち上げの経緯を教えてください。

 PlainIDは、企業内のデジタル資産、つまりサーバーやアプリケーション、APIなどに誰がアクセスでき、コントロールするかの許可管理を一元化するサイバーセキュリティ企業です。これまで多くの企業は自社のどのアプリケーションにアクセスできるかを決定してきましたが、今では企業内サイバー資産の管理が成熟し、データやAPIのレベルまでアクセスの許可を与える必要が出てきました。PlainIDが活躍するのはこの領域においてです。

 現在の企業は、たくさんのレポジトリにたくさんのアイデンティティが紐づけられていて、クラウドの中のアプリケーションやデータレベルでの管理が非常に難しい状態です。例えば、従業員がMicrosoft Azureのアクセス許可をリクエストしたとしましょう。セキュリティ担当者はAzureの管理画面に飛び、アクセス許可をしなければなりません。この一連の行為が、Amazon、Google、Salesforceのサービスなどと続くのです。PlainIDはそれら全てのサービスのアクセス許可の一元管理を可能にすることで、大幅にヒト・モノ・カネのコストを削減することができるのです。

Oren Ohayon Hare
PlainID
Co-Founder & CEO
イスラエル軍でテクノロジースペシャリストとして務めた後、通信会社BezeqやIT企業のTaldorで情報セキュリティー担当となる。2007年から7年余、イスラエル最大の銀行の1つBank Hapoalimで副CISOとして勤務。2015年にPlainIDを共同創業し、CEOを務める。投資家としての顔も持つ。

 私は当社を設立する前、イスラエル最大の銀行であるBank Hapoalimの副情報セキュリティ長として7年間勤務していました。仕事上の大きな責任の一つに、「従業員や顧客の銀行サービスへのアクセス管理」がありました。そこで、アクセス許可申請してから管理側が実際に許可するまで、時間の隔たり、ギャップがあることを見つけました。その経験が、2015年のPlainID立ち上げのきっかけになったのです。

――2015年の会社設立からここまでの道のりはどうでしたか。

 創業してからこれまでは素晴らしい旅路でした。最初の3年間は、テクノロジーの分野に集中し、製品開発に精を出しました。テルアビブの古い、小さなアパートで、数人のエンジニアと共に仕事をしていたことを今でも覚えています。3年後、イスラエルで最初の顧客を獲得すると、すぐにアメリカに進出し、最初の資金調達を実施しました。その後、ヨーロッパにもビジネスを拡大するなど、事業は好調です。実際、私たちは世界中に100を超える顧客を抱えていて、Fortune1000にランクインするような企業、SAPやアクセンチュア、EY、世界銀行などが当社のサービスを導入しています。

 PlainIDのサービスは、どんな業界でも導入可能で、ヘルスケアから小売、金融機関、製造業、石油・ガス企業などが当社の顧客です。現代では、すべての企業が「誰がどのAPI、データ等を使用できるか」決める中央管理システムが欲しいのです。

コロナ禍で需要増 2020年6〜12月の売上は前年比3倍

――競合他社との違いはどのような点にあるのでしょう。

 当社は、アクセス許可並びにポリシー・マネジメントの領域においてはアーリー・アダプターであったことが成功を収めた一つの理由でしょう。私たちは従業員80人の小さな会社ですが、この領域においては顧客数の観点で世界最大規模のスタートアップです。

 サービスの多様性も強みです。当社ではSaaSサービス、オンプレミスのサービス、その2つのハイブリッドサービスの3つを用意しています。私たちはデータやアプリ、APIの所有者と非常に近い距離で仕事をしています。パラメータの中のファイアウォールとは違います。アプリやデータの近くで働き、それらを守っているのです。

――世界銀行も御社の顧客と聞きます。官公庁への導入実績もあるのですね。

 そうですね。パブリックセクターも、当社サービスとの親和性が高いと感じています。既に、防衛の部門、政府の特定部署など多くの官公庁が導入を決めています。アプリやデータ、APIへのアクセスを一元管理しながら安全な状態にすることはそれらのセクターにとっても今日、非常に重要なことです。

 現在は、金融機関が当社の全顧客のうち30%を占めていますが、これからさまざまなセクターの企業・機関が当社のサービスを導入するでしょう。

――コロナ禍の過去2年間(2020〜2022年)の業績はいかがでしたか?

 2020年初頭は「これからどうなるんだろう」と思いましたね。3月には、キャッシュフローに気をつけるなどして、注意を払っていました。その後、6月からは状況が一変しました。なんと、6月から12月にかけて、売上が3倍になったのです。

 現在、多くの会社でDXを進め、リモートで業務をする中、データやアプリ、APIのアクセス一元管理の重要性は日に日に高まってきています。特に、自宅から従業員、企業のパートナーが働く際の、自社のデジタル資産保護は喫緊の問題でした。

 コロナ禍で、当社が提供する価値は非常に高くなったと言えるでしょう。

Image: PlainID

アジア市場は2社が導入 日本進出は2022年内を視野に

――調達した資金の使い道、並びに今後の目標を教えてください。

 2021年12月には、7500万ドル(約89億円)の資金を調達しました。この資金を使い、アメリカのチームの人員を3倍に、ヨーロッパでは2倍にし、ビジネスを拡大していく予定です。アメリカでの需要が特に大きいため、人員を集中投下します。これがビジネスサイドの話です。プロダクトサイドでは、テルアビブにあるR&Dセンターへの投資規模を拡大させます。

 これまで当社の事業はとても順調です。私たちはとてもいいチームですし、素晴らしい才能が結集しています。投資を拡大し、より多くのお客様に私たちのことを知ってほしいですね。

――御社が投資家たちを惹きつけることができた理由はなんでしょうか?

 第一に、サイバーセキュリティの市場が大変「ホット」であることが挙げられるでしょう。投資家たちは、この市場がチャンスだと感じているのではないでしょうか。

 第二に、彼らは我々のテクノロジーを高く評価しているのではないでしょうか。

 最後に、私たちがこれだけ多くの有名企業を顧客に持ち、売上の大幅アップを記録している事実、つまり実績が彼らを惹きつけていると感じます。

――日本市場への進出についてはいかがですか?

 アジア太平洋地域への進出は既に実行していて大企業2社の顧客がいます。日本についてはおそらく、新型コロナウイルスの関係で進出は2022年の後半になりますが、日本市場への関心は高いです。

 日本では、サイバーセキュリティの領域でビジネスをする日本企業とパートナーシップ契約を結びたいです。私たちが日本に進出する際はまずはパートナーシップを組むところから始めたいです。それから、我々の人材とリソースを投入しようと思っています。

 日本をはじめ、アジア太平洋地域はとても大きなマーケットです。我々の顧客である、金融機関、小売、製造業などの有名企業も多く存在します。まずは、アメリカ、ヨーロッパへのビジネス拡大が先ですが、自然とアジアでもビジネスをすることになるでしょう。

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