People.aiは、独自開発のAI・機械学習技術に加え、カスタマーエンパシー(顧客への共感力)が際立つ実力派スタートアップだ。Y CombinatorやLightspeedなどの著名投資家からの投資を受け、設立から4年にして米国およびヨーロッパの大手企業を顧客に持っている。今回はFounder & CEOのOleg Rogynskyy氏に話を聞いた。

自分が直面してきた問題を解決するために起業

―最初にPeople.ai設立の経緯を教えていただけますか。

 大学卒業後に入った機械学習スタートアップで、Salesforce内の不要データを「掃除」した経験があります。企業や担当者のデータを全て確認し、データをきれいにする作業を、営業チーム全員で1週間費やして行いましたが、3週間後には元の状態に戻りました。私はこの作業が大嫌いでした。これが、2007年頃でした。

 次に、自分が設立した会社で、営業チームを持つようになると、またしてもSalesforce内の不要データの「掃除」が必要になりました。この企業を売却した後に関わった企業でも、同じように「掃除」が行われていました。データの入力は面倒で時間がかかり、手動の「掃除」が必要な、このやり方では、ビジネスの成長にデータが追いつきません。そして、顧客の進化を常に把握しなければ、よりよい関係は築けません。私は、この問題を変える必要がある、と考え2016年にPeople.aiを設立しました。  

Oleg Rogynskyy
People.ai
Founder & CEO
ウクライナ出身。2007年に米国ボストン大学にて、経営学、政治学、国際関係学、経済学を学び学位を取得。2011年まで、AI・機械学習スタートアップNstein TechnologiesでHead of Growthを務め、同社のイグジットに関わる。2011年に機械学習スタートアップSemantriaを設立し、2014年に同社を売却。複数のスタートアップで要職に就いた後、2016年にPeople.aiを設立しCEOに就任。
 

データ収集の自動化と適格な予測により、顧客の状況変化に合致する最良の営業活動を実現

―具体的にどういったサービスを提供しているのでしょうか。

 一般的に使われているプラットフォームでは、企業の電子メール、カレンダー、電話、チャット、出張管理システムや文書共有などのシステムが、見込み顧客や顧客などと繋がり、あらゆる面で使われています。

 People.aiには、プラットフォームで行われる全てのコミュニケーションから、連絡先を100%取得する機能があります。例えば、既存のCRMに含まれていない誰かがZoom会議に参加した場合、この参加者の情報を吸い上げ、自動的にCRMにアカウントを作る、または既存のアカウントと繋げます。そして、それ以降に発生する通話やメールなどのアクティビティも100%収集します。

 これは最初のステップで、次に、収集したデータを、既存の会社情報や、連絡先情報など、ビジネスオブジェクトと照合します。

 3つ目のステップで、Salesforceまたはお使いのCRMシステムに、データを自動的に同期させます。People.aiが全てを行いますので、データをCRMに入力するために時間を費やす必要はなくなります。営業担当者は、顧客情報の整理に費やしていた時間を、無駄にしないで済むようになります。そして、最後のステップで、営業担当者のビジネス活動の履歴を理解し、販売、顧客の管理、マーケティングなどにおいて、次に取るべきアクションや集中すべき点を予測し提案します。

 これらを全て独自の技術を用いて行っています。設立から約4年ですが、30以上の特許を取得しています。

―競合はいるのでしょうか。また他社にはない、強みはどのような点でしょうか。

 当社と同じカテゴリーに入る企業はいますが、提供しているサービスは断片的で、後続企業なので競合とは言えません。

 強みは、カスタマーエンパシー(顧客に共感する力)です。当社は、独自技術に加えて、大企業が持っている問題について、深く洞察し、理解し、解決する力に優れていますし、誇りを持っています。

既存顧客からの紹介でヨーロッパに進出

―今後の目標としてアジアでの展開も視野に入っていますか。

 そうですね。次はアジア・パシフィックに進出したいと考えています。

 当社は、米国のコンサルティング企業向けに、グローバルなシステムインテグレーションを多く担ってきました。当社の評判を聞いた、コンサルティング会社が、自分の顧客だったヨーロッパの大手電話会社を紹介してくださり、ヨーロッパに進出し、ロンドンにオフィスを設けました。

 IoTの普及や料金プランの変化などに加え、5G時代が訪れており、電話会社のビジネスは大きく変化しました。こうした企業は、今すぐに解決が必要な、非常に深刻な問題を抱えており、当社のサービスへの需要がありました。世界中の通信事業者が同じような状況にあると思うので、米国やヨーロッパでの経験はアジアでも生かせます。

 当社は通信事業者にのみフォーカスしている訳ではなく、金融サービスや保険会社にもフォーカスしています。ただし、金融や保険は国によって規制が違うので、もし日本で事業展開するのであれば、テクノロジー企業、事業会社や、通信会社を対象に事業を展開していくつもりです。



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