2010年の設立から、4年間で約6,500万ドルの資金を調達。全世界で数千万人のユーザーを抱えるクローズドSNSを運営しているのがPathである。同社CEOのDave MorinはAppleでプロダクトマーケティングを担当した後、創業期のFacebookで活躍。エンジェル投資家としても、Pinterest、Twitter、Evernote、Tumblrなど錚々たる成長ベンチャーに早期から投資している。今回はサンフランシスコに飛び、差別化戦略や今後のビジョンなどについて聞いた。 ※本記事は、2014年9月取材当時のものです。2015年5月、クローズドSNSサービス「Path」は、韓国Daum Kakaoが買収しました。

Dave Morin
Path
CEO
1980年、米国モンタナ州生まれ。コロラド大学在学中にDM DesignStudiosを設立し、FlashイントロやWebアプリなどを制作。大学を卒業後、Appleに入社し、プロダクトマーケティングを担当。その後、Facebookに入社し、Senior Platform Managerに就任。FacebookPlatformやFacebook Connectの開発に携わる。2009年にエンジェルファンド「Slow Ventures」を設立し、Pinterest、Twitter、Nest、AngelList、Quora、Eventbrite、Evernote、Tumblr、Blue BottleCoffeeなど、数々の成長ベンチャーに投資。2010年にPathを設立し、CEOに就任。

Facebookは「街」Pathは「家」

―まず起業の経緯を聞かせてください。

 2010年1月まではFacebookでSenior Platform Managerを務めていました。具体的な業務としては、Facebook Platform上でソーシャルゲームなどをプレイできるようにするプロジェクトを統括。また、ほかのWebサービスにログインやサインアップをする際、Facebookのアカウントを使える機能(Facebook Connect)を開発していましたね。

 当時の傾向として、Facebookのユーザーは「友達」の数をどんどん増やしていました。Twitterのフォロワー数も含めて、つながりの量が重視されていたのです。しかし、もともと人間はつながりの量よりも質を大切にしているはず。家族や親友など、親しい人と密につながりたいというニーズが高いと考えました。そこで当社を設立し、質を重視したクローズドSNS「Path」をリリースしたのです。

―ほかのSNSとは、どのような点が異なるのでしょう。

 たとえるならFacebookはネット上に「街」を、Pathは「家」を再現しようとしています。家のなかではプライバシーが守られ、心地よくすごせますよね。そのようなコンセプトにそって、各機能を設計しています。

 具体的な違いとしては、親しい友人がなにをしているかを多様な側面から把握できる点があげられます。「どんな音楽を聴いているか」「どんなことを考えているのか」「どの場所にチェックインしたか」といったステータスを多様な文脈で理解できるのです。

 当初は登録できる「友達」の人数を制限しており、それがPathのコンセプトを表現していました。しかしユーザーニーズの変化にともない、制限を解除。ユーザーひとりあたりの「友達」平均数は約150人に達しています。

―Pathはデザインも洗練されていますね。

 ありがとう。でも見た目が美しいだけではダメ。UI/UXをシンプルで使いやすくしています。Pathはモバイル端末に特化しているのですが、フィードのスクロール具合やサーバのロードスピードなど、細部にまで徹底的にこだわっています。

 じつはアプリの初期バージョンでは、まったくユーザー数が伸びなかったのです。そこで人間工学や行動学を研究し、それにあわせた機能やUI/UXを実装。ユーザーに心地よい体験を提供できるよう、大幅な改善を行いました。

 その結果、ユーザー数は全世界で数千万人に増加。1日のアクティブユーザー数は500万人を超えています。

テキストメッセージを送ってレストランを予約できる

―昨年にメッセージングアプリ「PathTalk」をリリースしましたが、SNSの際と同じく、すでに多数の競合サービスが利用されています。Path Talk の差別化要素を教えてください。

「Place Messaging」という独自の機能を備えています。一般的にテキストメッセージは個人間でやりとりするものですが、これを使えば個人と店舗がメッセージをやりとりできるのです。

 たとえば、好きなレストランを予約したいときに電話をかける必要がありません。Path Talkでテキストメッセージを送ると、当社提携スタッフの「Path エージェント」がお店に電話して内容を伝達。レストランの従業員からユーザーにメッセージを返信してもらいます。この仕組みを通じて、日常的なコミュニケーションをインターネット上でも実現させたいと考えています。

―アナログ的な手法を介在させることで、パーソナルなコミュニケーションを実現しているわけですね。

 そのほかの特徴として、メッセージは送信から24時間後に自動的にサーバから消しています。実生活での会話は、丸一日も記憶に残っていませんよね?それをアプリ上でも再現するため、24時間で消えるように設定しました。SNSも含めて、当社は人間らしくすごすためのサービスを追求しているのです。

 またLINEと同じですが、約1,500種類のステッカーを世界中のデベロッパーがつくっており、日本でも使用可能です。

日本文化から影響を受けシンプルで高品質な価値を志向

―今後は日本にも積極的に展開していくのですか。

 そうですね。アジアのなかでも、とくに日本で流行させたいと考えています。なぜなら、デザインや品質にこだわる日本文化に対して尊敬の念を抱いているからです。

 もともとPathがシンプルで高品質な価値を志向したのも、「わび・さび」をはじめとした日本文化から影響を受けています。とくに共同創業者のデザイナーが強くインスパイアされているのですが、私も毎年一度は必ず日本に行くつもりです。

―世界各国でサービスをローカライズする際の課題を教えてください。

 どういう機能をもたせるかという点でしょう。各マーケットのニーズを把握したうえで、機能を取捨選択すべきです。

 もうひとつのポイントは、デザインも含めた言語対応。たとえばアラビア語は右から左へと横書きで表記しますので、それに適したインターフェースが必要になります

―アメリカでは若年層のFacebook離れが起きているそうですが、ニーズが変化しているのでしょうか。

 たしかにFacebookのメッセージ機能はあまり使われていないかもしれませんが、全体としてユーザーは離れていません。

 それを象徴する出来事として、2012年にFacebookはInstagramの開発会社を買収しました。当時、Instagramのユーザーは約1,000万人でしたが、この2年間で3億人以上へと急増。つまり、若年層のFacebookユーザーをInstagramに誘導したわけですね。アメリカでは「InstagramはFacebookのサービス」と認知されていますので、この動きはブランド戦略の一環だと考えられます。

 そもそもFacebookは豊富な資金をもっているので、おもしろいベンチャーを簡単に買収したり、新規分野に進出して市場を独占したりできます。昨年にWhatsAppやOculus VRを多額で買収したのも、そのような流れのひとつでしょう。

広告モデルの限界と新時代のマネタイズ

―FacebookもGoogleも多数の企業を買収していますが、収益の大半を広告に依存したままです。そろそろ既存の広告モデルに限界が訪れませんか。

 一般的なWebサービスはそうかもしれませんが、Facebookは例外です。なぜならFacebookは全世界で13億人超のユーザーを抱えており、スーパーボウル(NFLの優勝決定戦)のような数千万人を対象にした大規模広告が出せるからです。現在、Facebookの広告売上高はアメリカのCATV全体の広告市場よりも格段に少ないので、まだまだ伸びしろが大きいと思います。

 その一方、Pathはユーザーの快適性を重視しているので広告を掲載していません。現在はプレミアム会員や一部のステッカーに対して課金しており、将来は個人情報に付加価値をつけたサービスでのマネタイズを構想しています。

 最近の傾向として、モバイル型のSNSはプライバシーが重視されています。たとえばテキストメッセージだけでなく、撮影した写真のデータも長く残らないようにする。このような流れが本格化すると、全体のビジネスモデルも変わってくるでしょうね。

プロダクトの品質を重視して革新と改善を併存させる

―あなたは投資家としても、Pinterest、Twitter、Evernote、Tumblrなどの成長ベンチャーに早期から投資しています。どのような基準で投資先を選んでいるのですか。

 大きな問題を解決するため、長期的なビジョンを追いかけている会社ですね。自分のエンジェルファンドを「Slow Ventures」と名づけたのも、長い時間をかけて社会をよくしていく企業を支援するためです。私にとって投資の成功とは、企業・ユーザー・プロダクトの“三方よし”を実現すること。上場や売却によってキャピタルゲインを得ることではありません。

 そのほかの基準として、テクノロジーの新規性とプロダクトの品質を見ています。最近ではドローン(無人航空機)の分野に興味がありますね。

―最後に、御社のビジョンを聞かせてください。

 長期的なビジョンとしては、品質をもっとも重視しています。当社のユニークな点は、革新的な試みと同時に地道な改善を続けるところ。この改善プロセスにおいて、日本から学ぶべきことはたくさんあります。今後も洗練された高品質のプロダクトを追求し、どんどん新しいアプリをリリースしていきますよ。



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