Open Gardenは、インターネットインフラなしで他者との通信を可能にするソフトウェア「MeshKit」とそれを利用したチャットアプリ「FireChat」を提供しているスタートアップ。同社は2012年に設立され、ここまでAugust CapitalなどのVCから1280万ドルを調達している。今回はCo-founderでCEOのPaul Hainsworth氏に事業内容や今後の展望を聞いた。

Paul Hainsworth
Open Garden
CEO
2003年にフランスのエセックビジネススクールにてMBAを取得。その後、複数のスタートアップへ参画後、通信業界へ。2008年から2015年にかけてVirgin Mobile、Sprint、Blackberryと数々の大手通信会社での勤務を経験し、2015年にOpen GardenへVPとして入社し、翌年にCEOに就任。

ネット回線いらずの通信テクノロジー

―まずOpen Gardenの事業概要について教えてください。

 私たちは、オフラインでも他者と通信ができるチャットアプリ「FireChat」と同アプリに利用しているソフトウェア「MeshKit」を提供しています。このアプリはスマートフォンの中に搭載されているラジオを利用し、他ユーザーと連絡を取ることを可能にしています。さらにこのアプリに利用しているソフトウェア「MeshKit」をSDKでアプリ開発者向けに提供しています。こちらはまだβ版のみなのですが、2017年の半ばに正式版をリリースする予定です。このソフトウェアを導入することで、インターネット回線の普及状況に関係なくアプリを提供することが可能になります。

―なぜオフライン環境下で通信が可能なのでしょうか?

 基本的にスマートフォンにはラジオチューナーが内蔵されており、私たちはそのラジオ同士をソフトウェアを利用してつなぐことでオフラインでの通信を可能にしています。さらに通信先のスマートフォンがWi-Fi接続されていれば、より多くのユーザーのスマートフォンへデータを送ることができ、パケツリレー方式でP2Pネットワークを広げることができます。

―セキュリティ面に関してはどのようになっていますか?

 私たちは、Open Whisper Systems社のSNSサービス「WhatsApp」で利用されている暗号化の方法を採用しています。これにより、「MeshKit」を利用して送られるメッセージはすべて暗号化されるので、送った相手以外に情報が漏れたりすることはありません。さらに決済系のサービスなどに利用した場合には決済履歴などの個人情報の漏洩も防いでくれます。

インターネットインフラ事業のみにとどまらない可能性

―御社の強みは何でしょうか?

 ハードウェアを利用しなくても回線を拡大することができる点です。同じ事業を展開するFacebookやGoogleなどの大手IT企業も未だに人工衛星やバルーンなどを利用してネット回線の拡大を進めています。

 さらに私たちはネットインフラ事業だけでなく、それ以外の事業にも着目しています。たとえば、近年トレンドになっているIoTデバイスなどがあります。私たちのテクノロジーを利用することでインターネットインフラなしでそれらのデバイスを利用することができます。従来の接続方法のようにWi-Fiスポットを設置するコストやデータ使用コストもかかりません。

―収益モデルはどうなっていますか。

 2017年内に3つの事業モデルのローンチを計画しています。1つ目は、先にご紹介したアプリデベロッパー向けのアプリ開発ツール「MeshKit」正式版をフリーミアムモデルで提供します。

 2つ目は、「MeshKit」とIoTデバイスの接続を利用したデータ収集・カバレッジマップの形成事業を計画しています。高速道路などに設置してあるIoTセンサーとユーザーの持つスマートフォンを接続し、データをオフラインでも収集できるようにするというものです。私たちのソフトウェアを利用すれば、オフラインでもセンサーと消費者の持つスマートフォンを接続し渋滞情報などを自動的に収集することが可能となります。

 3つ目は、通信事業会社向けの通信制限の緩和事業です。プロスポーツのスタジアムやアミューズメントテーマパークなどの人口密度の高い地域では電話回線の混雑が起きやすく、通信制限が起こりがちです。私たちは「MeshKit」を利用しこの通信制限の緩和を手助けすることで収益を生む計画を立てています。

災害時でも使用できる高い実用性

―このサービスの使用事例を教えてください。

 フィリピンでの使用事例をご紹介します。私たちは、フィリピンの政府と共同で「MeshKit」を利用した製品「Fire Chat Alert」が利用できるかどうかをテストしました。具体的には、ネットワークが遮断された状況下で「Fire Chat」のユーザー数人へ緊急のメッセージを送り、それらのメッセージをちゃんと受信できるかという実験を行いました。参加していただいたユーザーの方々全員へ、ネット回線なしでメッセージを送ることができ、災害時などの緊急事態の状況でも私たちのテクノロジーが利用できることを証明しました。

―御社の今後のビジョンをお聞かせください。

 私たちは、電話回線やWi-Fiネットワークを利用しなくてもユーザー同士が自由に連絡を取り合える世界を目指したいと考えています。そして私は日本市場へ参入できる日を非常に楽しみにしています。人口密度の高い場所でも通信をより安定させ、日本の皆さんがより快適にアプリをご利用できるようになると信じています。



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