2015年に設立されたNautoは、AI搭載型のドライブレコーダーによる運転モニタリングシステムを提供するスタートアップ。今回はFounder &CEOのStefan Heck氏にインタビューした。

Stefan Heck
Nauto
Founder & CEO
オーストリア出身。渡米後、スタンフォード大学やカリフォルニア大学サンディエゴ校でAIやディープラーニングについて学ぶ。卒業後、ソフトウェア開発やウェブデザインなどの会社設立やマッキンゼー社勤務を経て2015年にNautoを設立、CEOに就任。

車内外カメラとセンサーで危険行為の察知と安全性維持に貢献

―御社のビジネスモデルについて教えてください。

 当社は人工知能(AI)テクノロジーを用いて、ドライバーの安全や運転をサポートする企業です。とりわけ、ドライバーの行動とリスク発生状況を分析し、危険を未然に回避できるようフィードバックしていくことに力を入れています。現在はおもにアメリカ、日本、ヨーロッパで旅客業や配送関連の商業車を対象にしていますが、今後さらに地域拡大していく予定です。独自のツールにより事故防止や被害縮小を実現することで、保険会社にも貢献します。さらに、収集したデータをもとに自動車メーカーにも情報提供し、車製造時のセーフティシステム構築や、将来的には完全自動運転車製造にも寄与します。まあ、これはまだ少し先の話ですね。

―どのようなツールやシステムを提供しているのですか?

 まずは車外センサーによって道路上の車両や危険状況を検知します。そして画期的なのは、車の内部にも運転手を認識するカメラやセンサーがあることです。顔認証だけでなく、居眠りやわき見運転などがあれば、これも検知します。

Image: Nauto

―センサーやカメラで、具体的にどのようなデータを感知、収集しているのでしょうか?

 周辺にいる車両の数や位置、前を走行する車の有無から衝突の可能性などを察知します。また、運転手の様子をモニタリングし、携帯電話に気をとられている、居眠りをするなど、危険度が高い状況ではアラートを発信します。ここでキャッチした情報は、車に搭載されたドライブレコーダーなどに記録されるだけでなく、AIが危険状況だと判断した場合にはリアルタイムで企業のウェブアプリケーションに転送されます。ドライバー自身がトラブルを通報するアラートも備えてあるのです。

 これまでにも車外の様子を監視する前方衝突回避用のカメラはありましたが、車内向けというのは画期的です。実際、交通事故の70%が運転手によるわき見運転といった不注意が原因といわれており、Nauto搭載車では事故の確率が35%も減少したと報告されています。リアルタイムのアラートシステムを組み込んだ最新バージョンでは、わき見運転が50%から70%も減少すると見込んでいます。

AIを駆使したリアルタイムのモニタリングシステムでトラブルにも迅速対応

―他社にはない強みを教えてください。

 類似システムとの最も大きな違いは、リアルタイムでAI制御している点です。従来のカメラシステムでは、事故などが起きてから、ネットワーク経由で海外にあるサーバに保存された動画などを人間の目により検証していました。しかし我々は車内搭載装置によってリアルタイムで状況をモニタリングし、危険を事前に察知します。

 また、セキュリティとプライバシーは相反する存在になりがちで、ドライバーの方は車内撮影されることに抵抗をおぼえる方もいると思います。しかし当社のシステムでは、危険運転がなければ、車内カメラの動画がアップロードされることはありません。その代わり、運転手が何らかのトラブルに巻き込まれた場合、管理センターに通報することが可能です。あくまで運転管理、安全確保のためのシステムなのです。

―どのような業界をターゲットにしていますか?

 主要なターゲット層は車両を扱う企業ですね。バスなどの旅客業やライドシェアリング会社、そして配送関連会社です。安全管理はもちろん、位置情報なども管理できます。そして、そこから得た安全管理情報を活用していただける顧客として、保険会社も重要な取引先です。事故が発生した場合、即座に状況を把握したうえで必要な手続きなどに移ることができるので、時間や経費の削減につながります。さらに、自動車メーカーにも情報提供することで、安全管理対策に役立てていただけます。

Image: Nauto

データを活用して世界中のドライバーをサポート

―CEOの経歴と、会社設立までの経緯を教えてください。

 私はオーストリア出身で、大学進学のため渡米し、スタンフォードで人工知能について学んだあと、カリフォルニア大学サンディエゴ校でディープラーニングの知識を深めました。1991年頃のことです。当時、カリフォルニアは移民向けの就学支援を縮小しており、私は資金のためソフトウェア開発会社を起業しました。それから、ウェブデザインを手掛けるようになり、Appleの製品ウェブページなどを製作しました。

 さらにビジネスについて学ぶためにマッキンゼーに入り、17年間勤めました。その間、日本にも長期滞在していたのです。それからスタンフォードに戻って破壊的エネルギーに関する教授職に就きました。そのころです、輸送機関をシステムとしてとらえ始めたのは。私は輸送機関の非効率性、街と交差点などの安全性に着目しました。道路も、自動車も、実際の稼働率は10%前後だということに気がついたのです。

 道路は混んでいるときは混んでいますが、時間帯によってはほとんど車が通らない。車も、たとえば5人乗りだとしても、1人か2人しか載っていないことも多い。非常に効率が悪いですよね。一方、道行く車に目をやると、携帯電話で話しながら運転する人に数多く遭遇する。これは危険です。そこで私はデータを活用して輸送機関を安全に、効率的に活かしたいと考えました。これがNauto誕生のきっかけです。

―将来の展望について、どう考えていますか。

 我々は危険防止やモビリティ、渋滞緩和、駐車スペースの問題などのデータプラットフォームを目指しています。自動車メーカーや保険会社、運送会社に車両関連企業、そしてゆくゆくは消費者の方にもアプローチしたいと思っています。

―海外進出についてはどうですか?

 もちろん、視野に入れています。今も日本とヨーロッパには進出しています。日本には洗練された自動車メーカーが数多くありますし、保険業界は世界でも最先端です。ドライブレコーダーも普及していますし、AIやコンピュータビジョンへの関心も高い。高齢ドライバー対策など、安全性への課題もあり、優先度の高いマーケットです。企業が長期的目線で提携を検討してくれるのもいいですね。今はトヨタなどともお付き合いしています。あと、レンタカーのオリックスにはNautoのセンサーが搭載されています。海外で現地チームを立ち上げることで、ローカライズにも力を入れています。中国やタイ、インドでの可能性も探っています。



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