ヘルスケア分野におけるデータの質と量の不完全さが課題
神話やファンタジーの世界には、主人公の成長や成功を助ける役割として、たびたびドラゴンが登場する。ドラゴンは恐れられる存在ながら、力と知恵、魔法によって主人公をハッピーエンドへと導く鍵となる。病気の治療や、各種研究、臨床試験などの過程で数々の困難が生じるヘルスケアの分野で、医療従事者を助けるドラゴンになろうとしているのがKomodo Healthだ。この社名は、現存するドラゴンとも呼ばれるコモドオオトカゲに由来している。
Komodo Healthは、ニューヨークとサンフランシスコに拠点を持つ、医療データプラットフォーム提供企業。アメリカの3億2千万人以上が医療システムを利用した記録を追跡したデータベース「HealthcareMap」を構築し、それを基盤としたAIやデータサイエンス技術を駆使したソフトウェアソリューションを提供している。利用するのはヘルスケア企業、ライフサイエンス企業、医療費支払者、医療提供者、患者支援団体、コンサルティング企業などで、日本の大手製薬会社数社とも早い段階から契約しているという。
Sun氏は癌の研究者としてキャリアをスタートし、製薬会社での勤務ののち、共同創業者でCEOのArif Nathoo氏とともに2014年にKomodo Healthを創業した。Nathoo氏は、ハーバード大学で医学博士号を取得。McKinsey & Companyでヘルスケアの分野で勤務した経験を持つ。Sun氏は「私たち2人はともにヘルスケア分野で仕事をしてきましたが、そのなかで、データ資産の品質は不完全で、十分な量を得られてないという課題を実感しました。私たちは、病気の負担を減らすことを使命とし、データの品質と量を向上させることで、疾病をより理解し、対処するために活用できるソリューションを展開してきたのです」と語る。
HealthcareMapでは、ある疾病の患者がどこに何人いて、どのように管理され、何が起きているかを知ることができる。それらのデータをさまざまな目的で活用できるソフトウェアソリューションも展開している。Komodo Healthのソリューションを利用する企業は、関心を持つ疾病についてその患者のデータをより多く集め、疾病への対応に役立てている。治療だけでなく、臨床試験の展開などにも活用されている。試験の候補となる症状を持つ患者の集団を探すことができるのだ。最近では、大手製薬会社が実施したコロナウイルス関連の臨床研究の支援も行った。
医療ビッグデータ処理への高い需要とともに急成長
Komodo Healthが設立された2014年ごろ、ヘルスケアのデータは、データアグリゲーター企業によって取引されていた。ヘルスケア企業は、これらのデータを入手してデータマネジメント企業にデータのクレンジングや構造化を依頼し、洞察を得るといったエコシステムが存在していた。
「私たちが設立したのは、データ資産がより入手しやすく、より流動的になり、それと並行して市場も拡大していた時期でした。同時に、クラウド活用が進み、SaaSなどのソリューションの需要が高まっていました。そこで、自分たちが持つ専門知識によって、単純にデータを整理するだけでなく、私たちが、データ・ネイティブ・ソフトウェア・ソリューションと呼ぶものを構築したいと考えたのです」(Sun氏)
大量かつ広範囲にデータを集めて、その整理だけでなく、活用できるソフトウェアの提供というアプローチは市場のニーズを大きく捉え、Komodo Healthは創業以来、毎年100%以上の成長を遂げた。そもそも従来のアプローチではデータセットが不完全で十分な量がなく、正しい洞察が得られないこともあったからだ。
Photo: everything possible / Shutterstock
比類なきデータ基盤をさらに強化し、医療を支えるエコシステムを創造
ヘルスケア分野でのデータ活用の大きな需要にいち早く応えて成長してきたKomodo Health。今後は、HealthcareMapの優位性をさらに広げていく。調達した資金使途についてSun氏は「私たちは創業以来、会社の生命線となるデータ基盤であるHealthcareMapに非常に積極的な投資を続けています。調達した資金は、新しいデータパートナーシップやエコシステム構築のために投資しています。また、新製品の開発にも投資していきます。さまざまなアイデアがあり、自社でも開発を進めますが、すべてのアイデアを実行するために、十分なエンジニアを雇用することはできないという認識を持ちました。そこで、当社のプラットフォームをサードバーティーに開放することにしたのです」と述べた。
HealthcareMapと連携するパートナーのデータを次々と加えてプラットフォームを拡大し、さらにそれを活用して製品を提供する企業とともに新たなエコシステムを作り出そうとしている。データ基盤が優れているだけに、パートナーにとってもメリットを与えることができ、自社もさらに市場での差別化を強化できると考えている。
HealthcareMapのデータは米国の患者の記録が中心であるが、利用しているのは、日本の大手製薬会社も含め、グローバルに展開する企業も多い。Sun氏は、日本市場への参入にあたってもデータパートナーシップを重視しており、日本の医療現場で人々の健康のためにデータを集めている機関との協議をしていきたいとした。
ヘルスケア業界に力と知恵、魔法を与えるドラゴンとしての存在感を強めていくKomodo Health。Sun氏は、今後のビジョンについて次のようにコメントした。
「私たちは、世界の人々の健康に取り組むあらゆる企業、団体、個人にとって、基盤となるバックボーンになりたいと考えています。ヘルスケアのあらゆる活動をサポートするOSのようなものでありたいのです。ヘルスケアに関して真の改革者となる大きなチャンスがあると考えているからです」