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Inpherは「Secret Computing®(シークレットコンピューティング)」技術を用い、データを暗号化した状態で、機械学習やAIの学習用データを作るソフトウェアサービスを提供している。現在、米国3都市とスイスに拠点を持ち、2019年中にはアジアへの進出を予定している。今回はCEOであり共同創業者のJordan Brandt氏に話を聞いた。

Jordan Brandt
Inpher
CEO and Cofounder
2001年、カンザス大学にて学士を取得。機械設計エンジニアを務めた後、Additive Manufacturing(付加製造)コンサルタントとして務めながら、2008年ハーバード大学にて博士号(ビルディングテクノロジー)を取得。2015年にInpherのCEOに就任。

Secret Computingにより、暗号化した状態で高精度のデータ処理

―まず御社の事業について教えてください。

 私たちは、企業が事業を通じて収集した情報を、露出することなく安全に活用できるようにしたいと考えています。データ処理の多くがクラウドと分散環境で行われるようになり、そうした環境でのセキュリティ対策には新たな課題があります。また、AIや機械学習においても取得データの活用が求められていると考えています。

 こうしたニーズに応えるのが当社のSecret Computing®(シークレットコンピューティング)の技術です。この技術を使い、暗号化した状態のデータの処理が可能となるソフトウェアサービスを提供しています。

 当社では、二つの暗号メソッドを使っています。一つは完全準同型暗号(FHE: Fully Homomorphic Encryption)。これは、ライブラリ「TFHE」をオープンソースとして公開しています。

 もう一つはマルチパーティ計算(MPC: Multi-Party Computation)。このメソッドを採用したソフトウェアサービス「XOR」を当社の製品として提供しています。

 完全準同型暗号とマルチパーティ計算を使い、暗号化されたデータのコンピューティングを可能にしたことで、個人情報を保護しながら正確な情報を得ることを可能にしました。

機械学習やAIには「学習」するデータが必要

―企業はどのようにXORを活用しているのでしょうか。

 当社のサービスは、機械学習分野で最も活用されています。人工知能は学習した元データの範囲で“賢く”なります。そのため、よりよいデータを構築するためには、より多くを学ぶための学習データが必要になります。しかし、個人情報保護やセキュリティ面の問題から、自社が保有するデータソースの利用は困難になっています

 当社は、そうしたデータを暗号化し漏洩しない状態を保ちながら活用することを可能にしています。

 例えば自動運転車を個人が利用するようになった時、各個人の移動履歴等は全て個人情報になるので、企業は情報を取得することができても、自由に使うことは難しい状況が見込まれます。個人情報保護やセキュリティ面での問題を解決すると同時に、データの精度を落とすことなくトータル的に活用できる当社のサービスがこうした問題を解決できると考えています。

―同業他社との差別化は?

 私たちが知る限りでは、当社と同じソフトウェアサービスを提供している会社はありません。しかし、プライバシー保護とデータ活用を両立する、差分プライバシー(Differential privacy)のように、別のメソッドがあることは、もちろん知っています。

 このメソッドと当社の技術には大きな違いがあります。差分プライバーシーは、データ・セットにノイズを取り込むことで、特定のレコードが存在しているか判断できないようにしています。そのため、探しているシグナルを削除することになり、詐欺またはマネーロンダリング対策や、異常事態など、万にひとつの極めて稀なケースを検出することができません。

 私たちの技術では、個人情報を露出することなく、データを高精度に維持することが可能なため、元データをコンピューティングした場合と同じ結果を保証しています。つまり、差分プライバシーで起こり得る問題は起こりません。これが当社の非常にユニークな点だと言えます。

国際ビジネスにおいてこそ強みを発揮する

―アジアにも進出をお考えだと聞きました。

 そうですね。アジア太平洋地域の担当チームがあり、金融サービスや電気通信業界の様々な企業にアプローチしています。もちろん、日本企業とも一緒に仕事をしたいと考えています。

 現在はニューヨーク、シリコンバレー、サンフランシスコとスイスに拠点がありますが、年内にアジア太平洋地域でも事務所を設ける予定で動いています。

―日本ではどういった企業をターゲットにしていますか?

 主に三つの業界をターゲットに考えています。銀行・金融サービス業、電気通信業と製造業です。そして、特に多国籍展開している日本の企業が対象となると考えています。

 例えばEUのGDPR(一般データ保護規則)のように、越境データ移転を制限する規定など、個人情報保護に関係する法律が世界的に厳格化されています。そのため、自社でAIラボを持つグローバル企業でも、法律が障壁となり、自社内で得た莫大なデータをビジネスインフラとして活用することが難しくなっています。

 例えば、日本の自動車メーカーが、日本とアメリカ、そしてヨーロッパで製品を販売しているとします。それぞれの国で得た個人情報の越境移動は法律で禁じられています。こうした場合、当社のSecret Computing®(シークレットコンピューティング)を使えば、データを移動させることなく分散させたまま、データの精度を落とさず、全体として活用することも可能になるのです。

今は不可能な新しい予測を可能にしたい

―今後のビジョンを教えてください。

 私たちの次なるビジョンは、「Cross-industry analytics」です。それぞれの企業や業界で蓄積されたデータを横断的にコンピューティングし、新しい予測を作ることです。

 個人の資産情報、医療情報、遺伝子情報や、旅行に行った情報などが一箇所に集約されることは誰も望まないと思います。それらを分散・分離させたままで保ちつつ、横断的にコンピューティングし個人にとって有効な予測を得ることができれば、それは多くの方にとってメリットがあるのではないかと考えています。



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