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ユニコーンを多数輩出、スタートアップ大国・中国

 ユニコーン(時価総額10億ドル以上の未上場スタートアップ)輩出数で、世界2位を誇る中国。中国のVC数は2000社を超え、2019年の中国スタートアップへの投資は7500億人民元(約12兆円)に上る。データで見ても、米国に次ぐスタートアップ大国であることは間違いない。

 都市ごとに見ていくと、中国の投資件数トップ3は北京・広東・上海で、それに続くのが深圳となる。都市によってスタートアップ領域の特色が異なり、北京は教育・AI・フィンテック、広東はエネルギー、上海はメディア・エンターテインメント・EC・コンシューマー領域に強い。

 すでに中国のユニコーンは200社を超えている。日本のユニコーンが4社であることを考えると、その輩出数は圧倒的だ。

 さらに時価総額が100億ドルを超える“スーパーユニコーン”も存在する。動画SNSアプリ「TikTok」を運営するBytedance、配車サービスのDidi Chuxing、ショートムービーアプリKuaishouなどがその代表例だ。

 これだけのスタートアップ大国であるにもかかわらず、そのエコシステムの実情は日本であまり知られていない。今回は中国現地インキュベーターである、InnoSpaceのCEOであるRichard Tan氏にインタビューを実施。知られざる中国のスタートアップエコシステムの姿と日本企業に向けたアドバイスを聞いた。

グローバル企業と中国スタートアップの橋渡し的存在

――InnoSpaceは、2011年から中国のインキュベーターとして活動しています。現在の活動を教えてもらえますか。

 InnoSpaceは、中国におけるパイオニア的存在のインキュベーターです。当社は総合的なイノベーションプラットフォームとして、上海、南京および深圳で活動しています。4つのインキュベーション施設と、特定業界に特化した2つのアクセラレータプログラム、スタートアップカフェやスタートアップアカデミー、VCクラブと2つの投資ファンドを展開しています。

 これまでに、550社以上のスタートアップの創業を支援しており、そのうち30%は海外にバックグラウンドがあるスタートアップとなっています。

Richard Tan
InnoSpace
CEO
ロイヤルメルボルン工科大学にて経営学、経済学、ファイナンス分野の学位を取得。2004年よりシンガポール経済開発庁にてRegional Directorを務めた後、2008年より現在も、上海に本部がある不動産開発・管理会社などを所有するShui On GroupにてGeneral Managerを務める。2012年からInnoSpaceのCEOも務める。
 当社は、従来のようなスタートアップから手数料を取る方法ではインキュベーターとして成り立たないことに気づきました。そこで、2013年からはスタートアップに自ら出資し、彼らの“成長ストーリー”に参画する方法に切り替えています。

 2015年からは、グローバル企業が当社を通じて中国のスタートアップを探すようになりました。例えば、シーメンスと協力し、製造業にフォーカスしたスタートアップを支援したり、BMWと共に自動車関連のスタートアップの発掘を行っています。

 他にもシンガポールや米国などのグローバル企業と、スタートアップをマッチングする支援を行ってきました。他にも上海市技術局、韓国政府、イタリア政府、シンガポールの政府機関とも協業してきました。

北京・上海・深圳などが中国のスタートアップシーンを牽引

――中国のスタートアップエコシステムは、日本ではまだよく知られていません。

 中国は、米国に次いで世界で2番目に多くユニコーンを生み出しています。しかし、多くのユニコーンを生み出しているにも関わらず、中国のスタートアップエコシステムが成熟し始めたのはここ5年程度のことです。

 中国のユニコーンは200社以上あり、そのほとんどが創業10年未満の企業です。そして、これらユニコーンのうち70%が海外展開に向けた戦略を立て、進出を計画しています。

 それぞれの都市で見ると、北京は歴史的に非常に強力なスタートアップハブであり、中国で最も多くユニコーンを生み出しています。国内の36%のユニコーンが北京発で、大手ライドシェア企業のDidi ChuxingやTikTokなどを運営するByteDanceなどが含まれます。また、北京のユニコーンの多くは、AIなどの最先端技術にフォーカスしています。これは、工学分野で非常に強く規模も大きい清華大学が市内にあることが理由の1つだと考えられます。

Photo: Mercurious / Shutterstock

 上海も主要ハブの1つで、中国国内の25%のユニコーンを生み出しています。上海は商業の中心地であり、銀行や金融機関が多く集まる都市です。そのため、P2P融資仲介プラットフォームのLufaxなど、FinTechのスタートアップが多く生まれています。また、グローバルな都市であることから、ライフスタイルも多様化しており、フードデリバリーサービスのEle.meや、物流向けロボットのGeek+など、人々の暮らしに関係したユニコーンも多くあります。

 深圳は、主に製造業にフォーカスしている企業が多く、中国国内の12%のユニコーンが生み出されています。世界最大規模のドローンメーカーDJIや、ロボット開発のUBTECH Roboticsも深圳発です。

 今紹介したスタートアップは中国のエコシステムの一部に過ぎません。他の都市にも、量と質の面で重要なスタートアップが生まれています。

 ここ2年ほどは、コワーキングスペースを提供する企業が相次いで閉鎖あるいは統合しています。2015年に中国政府が提供していた補助金等により、参入企業が増えたのですが、エコシステムが成熟し、競争優位性のない企業は閉鎖あるいは統合に追い込まれたのです。

 オフィスの場を提供するだけではスタートアップは育たないことがわかり、今は多くのインキュベーターやアクセラレータが特定の産業領域に特化しています。つまり、業界ごとにスタートアップ支援の専門化が進んでいるのです。また投資に関してもより洗練され、今の中国企業は技術系のスタートアップに投資しています。

 もちろん、北京、上海や深圳のような第一級都市は、直接的かつ積極的にスタートアップの成長を促進する取り組みを行っています。例えば、2015年に設立した最初のファンドは、上海市政府からの投資が約30%を占めました。

中国でも新型コロナウイルスによりDX推進

――スタートアップの主要プレイヤーの顔ぶれも変わってきているのでしょうか。

 中国では、1978年の改革開放政策が始まってから、ほとんどの分野において、経済活動が統制された中国の国有企業による安定した経済を実現してきました。

 しかし、ここ15年で民間企業が増え、特にインターネット関連の企業が市場で支配的な位置を占めるようになりました。そして、中国国内の競争もこれまで以上に激しくなっています。

 以前はBAT(Baidu・Alibaba・Tencent)でしたが、今は新しいプレイヤーが優位な場合もあります。今やBaiduはトッププレイヤーではありません。またHuaweiやByteDanceを始めとした国際的に競争力がある企業が増えています。

Photo: NickolayV / Shutterstock

――新型コロナウイルスにより、どんな影響がありましたか?

 新型コロナウイルスは、中国だけでなくその他の地域でも、人々のライフスタイルやワークスタイルを変えました。中国では、インターネットが普及し、オンライン活動が非常に浸透しています。

 しかし、新型コロナウイルス以前は「なぜオンラインにする必要があるのか?」と考えている人が多くいました。新型コロナウイルスはこれを強制的に変えました。特に、医療サービスは、飛躍的な進歩を遂げ、AIを使った診断や治療を行えるようになりました。

 そして、デジタルトランスフォーメーションが今まで以上に加速しています。特に企業のクラウド化などに非常に大きな需要があり、他にはオンライン教育、ソーシャルメディアなどの需要も高まっています。

「研究」は自社内で、「開発」でスタートアップと協業

――中国スタートアップとグローバル企業の提携について、イメージがあまりありません。具体的な事例を教えてもらえますか?

 中国のスタートアップは、大企業と協業する準備ができていますし、大企業に自分たちのソリューションを売りたいと考えています。しかし、大企業はオペレーションリスクに対応していないことがあり、スタートアップと仕事をする準備ができているかは疑問です。また、スタートアップと大企業が使う「言葉」が違うため、課題に直面することはよくあります。

 しかし、中国のスタートアップと提携しているグローバル企業、特にヨーロッパの大企業は提携に対して積極的で準備ができている場合が多いです。先ほどお話ししたシーメンスやBMWとの事例もありますし、実際に当社が協業してきた大企業の多くはヨーロッパのグローバル企業です。ヨーロッパのグローバル企業は、長期にわたり中国に進出していますし、中国スタートアップと提携し、新しく成長する“エンジン”を持つ重要性と緊急性を認識しています。

 政治的な要因もありますが、意外にも米国企業は準備ができていません。アジアの国々では、シンガポールが非常に活発に活動していますが、韓国などその他の国は状況を理解しようとしているところで、ゆっくり進んでいます。日本企業は、目的をどう設定するか、何を実現したいかなどを検討している最中だと思います。

Image: InnoSpace

――ヨーロッパのグローバル企業は中国のスタートアップに何を求めているのでしょう?

 大企業は研究開発において、「研究」は引き続き自社内で行い、「開発」の部分で積極的にスタートアップと協業したいと考えています。例えば、自社内の「開発」に100万ドル投資すると、50のプロジェクトを行えるところ、スタートアップと協業すると100のプロジェクトを行えます。

 研究開発を行っている多くの大企業において、研究開発費用は重く、成果が出るまで長い時間がかかり、研究開発への投資リスクは高まっています。特に、現在の市場ではスピードが非常に速く、製品のライフサイクルは短くなっています。そのため、短い開発期間ですぐに市場投入できる新しい仕組みが必要とされています。

日本企業とのコラボレーションの課題は文化面

――日本市場や日本企業をどのように見ていますか?

 日本は、先進的なものづくりに強い印象です。当社はスマートマニュファクチャリング関連のプロジェクトに注目しており、こういった分野で、日本のスタートアップと一緒に仕事をしたいですね。

 また、中国スタートアップの中には、日本企業に価値をご提供できる企業がありますし、私たちも彼らも日本市場に非常に強い関心があります。限定的ではありますが、丸紅やその他の大手企業とはお付き合いがあります。

――日本でも、中国のスタートアップのエコシステムにも目が向いています。日本企業が中国のスタートアップエコシステムと連携するにはどうしたらいいでしょうか。

 まずは目的をどこに置くかということです。技術を獲得したいのであれば、イスラエルや米国に興味が向くかもしれません。しかし、新しいソリューションや新しい技術を使って中国市場進出を視野に入れているのであれば、中国は非常に興味深い市場でしょう。

 中国には、AlibabaやHuaweiなど世界的に名前の知られた企業以外にも「隠れたチャンピオン企業」が多くあります。日本企業が強みを持っている、製造業、化学品、素材やエレクトロニクスなどの分野において、高度な専門性を持ち、柔軟に市場に適応し続けている中国企業が200社以上存在しています。これらの企業は中国市場だけでなく、世界に向けて展開しています。

――中国企業には、海外に持ち出せない技術などがあると思いますが、その点はどうでしょう。

 制限は実際には非常に少ないと思います。軍事などセンシティブな分野でなければ、制限はほとんどありません。後は、レアアースなどの原材料を外部に輸出することに関しては、制限がありますが、それ以外は非常にオープンです。

 中国企業への制限は、特定の外国企業や政府によって課せられています。また、中国のスタートアップが例えば日本市場で直面する課題は、主に文化面だと思います。

 実際、私たちも文化的な課題に直面しました。日本企業が何を必要としているのかを理解することは簡単ではありません。本当に必要としていることが分かりづらく、スタートアップとしてはその理解と対応にリソースを割く余裕がないのです。

 中国のスタートアップは、日本企業だけでなく海外企業にとって大きな競争相手になるでしょう。日本企業も、中国市場に向けた取り組みだけでなく、世界市場に向けた取り組みにおいて、中国スタートアップをどう活用するのか考えるべきだと思います。

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