Heliumは、独自のワイヤレスネットワークを駆使し、ビジネス現場にIoTを展開するためのプラットフォームを構築、提供する企業だ。今回はCo-founder & CEOのAmir Haleem氏にインタビューした。

Amir Haleem
Helium
Co-founder & CEO
マンチェスター大学中退後、1999年にゲーム開発会社DICE(EA Digital Illusions CE AB)、2003年にGlobal Gaming Leagueに勤務。2010年にDiversion.Incを共同設立、CTO就任。2013年にHeliumを共同創業し、CEOに就任し、現在に至る。

サブスクリプションモデルで企業のIoT導入を支援

―Heliumはどのようなサービスを提供しているのですか。

 当社は、IoT向けアプリケーションを開発するためのプラットフォームを構築、提供しています。従来ですと、企業がIoTを導入するには複数のコンポーネントを整備する必要があるなど、多くの障壁がありました。当社では、その負担を軽減するサービスを提供しているのです。その第一歩として、当初より医療機関等の冷蔵設備向けのセンサーネットワークプラットフォームに力を入れています。

―ハードウェアなどではなく、あくまでサービスを提供しているということなのですね。

 そうですね。我々は、センサーネットワークを個々の製品ではなく、あくまでサービスだととらえています。センサーやソフトウェアを売りつけて、さあ次はサーバーを買ってください、といった形ではやりません。顧客には月額利用料を支払っていただいて、あとはセンサーシステムが物理的な環境に実装される、というシンプルな体系をとっています。

冷蔵施設を持つ医療機関やレストランをサポート

―具体的にターゲットはどのような企業ですか。

 病院や医療施設などが主なターゲットです。今、病院は適正温度で薬品を管理することを強く求められており、多くの公的機関や民間機関が目を光らせています。薬の種類ごとに設定された規定温度を超えないよう、コンプライアンスが非常に重要視されています。当社のBlueセンサーは、冷蔵施設のモニタリングに最適だと考えています。

 温度管理や扉の開閉感知などは一見シンプルに見えるかもしれませんが、これを正確にワイヤレスで管理するのは技術的に非常に難しく、場合によっては一日に数回、直接人間の目で数値や状態を確認してノートに記録する、という昔ながらの方法をとる羽目になります。仮に冷蔵庫に専用端末がついていたとしても、ワイヤレスで情報送信されなければ、結局現場でデバイスをチェックして情報をダウンロードする、といった手間をかけなければならないのです。食品安全管理が求められるレストランなども、同じような問題を抱えています。今は食品安全管理の意識が高まっており、規制機関のチェックも厳しくなっているので、適正な温度管理が不可欠です。我々はこういった企業に、最も手軽で完璧なソリューションを提供できると考えています。

Image: Helium

社員が最高の仕事をできる環境を作る

―競合他社にはない、御社の強みは何ですか。

 当社独自のワイヤレス標準なら、同業他社よりも広範囲に対応可能で、電力消費も抑えられます。また、複雑なスクリプティング環境により、デバイスやクラウドで運用可能なスクリプトを作成することができます。つまり、ただのセンサーではなく、スマートフォンのようなものをイメージしていただければわかりやすいと思います。

 つまり、ただ「摂氏10度を超えたら通知する」というだけでなく、「10分間に5回以上10度を超えたら通知。昼休みは冷蔵庫の開閉が多いため、12時から13時は通知をオフに」といった細かい設定ができるのです。他にも、外気温との関連性を管理するバーチャルセンサーとしてなど、さまざまな使い方ができます。

 このように当社のプラットフォームでは構造安定性やデータ保存など、あらゆる要素を慎重に検討したうえで、それぞれを統合した形で提供しています。これは他のスタートアップなどにはない、独自のアプローチだと自負しています。

―Heliumの社風や企業文化の特徴を教えてください。

 よくオフィスに卓球台があるとか、ビールサーバーがあるなど、それが企業文化であるかのように紹介されますが、私にとってあるべき企業文化というのは、社員が最高の仕事をできる環境だと考えています。きちんとコミュニケーションがとれており、いい意味で「失敗できる」適切なチーム構造や基盤があり、いろいろなことに挑戦していける。そういうことだと思います。その点では、当社は、ほぼ完ぺきではないでしょうか。素晴らしい社員に囲まれていますから。そういった意味で、会社の文化を作る上で、人材の雇用を大切にしています。

Image: Helium

異色の経歴を持つCEOがたどり着いた「業界ニーズに応える」プラットフォーム

―CEOの経歴について聞かせていただきますか?

 私はイングランド出身で、マンチェスター大学に入ったのですが、中退してしまいました。あの頃は、テレビゲームに夢中だったのです。そんな中、ゲーム仲間の1人がスウェーデンでRegractionというゲーム会社を作ることになったので、そこに入社しました。実際にゲームを制作し、「Battlefield1942」というヒット作も生まれました。その後、ゲーム業界にしばらく携わってから、消費者向けソフトウェアアプリケーション関連のスタートアップを立ち上げました。スタートアップに長くかかわっているので、その成功例や失敗パターンをいくつも見ることができ、今でも糧になっています。

―初期のキャリアは、ゲームやソフトウェアが中心だったのですね。どのようにして今のビジネスにたどり着いたのですか?

 きっかけは、共通の友人を通して知り合ったShawn Fanningとセンサーネットワークについて語ったことです。その当時、温度などを検知するセンサーをインターネットにつなぐには、携帯電話をデバイスとして使うしかありませんでした。2012年当時は携帯端末の価格も高く、電力消費も激しかったため、我々は自分たちで独自のワイヤレスネットワークを展開できたら、と考えました。

 ちょうどそのころ、テレビ放送がデジタルへと移行していました。すると、誰も使わなくなった電波の周波数が無料で使えるようになったのです。電波の範囲も広く、今までできなかったことができるようになるため、我々もそれを使おうと決めました。少し時間がかかりましたが、紆余曲折がありながら、ようやく2013年にHeliumを創業しました。

 我々はまずサンフランシスコでネットワークを展開し、それを徐々に他の都市にも拡大していこうと目標を掲げましたが、なかなかうまくいきませんでした。これまで誰も挑戦したことがないものだったので、すべてを1から構築していかなければならなかったからです。我々はソフトウェア出身なので、特にハードウェアを使って構築作業をするのが大変でした。

 そんな中、いろいろな企業と話をしていると、同じような壁にぶつかっている企業が多いことに気がつきました。多くの会社が、本業を円滑にすすめるためにセンサーネットワークを構築したいと考えていたものの、自分たちでそれを作るのは難しい、という悩みを抱えていたのです。スタートアップはもちろん、大企業でもそれは同じでした。それらの企業の本業は別のところにあるため、彼らはネットワーク構築に関しては専門外なのです。

 そこで、2014年、当社はネットワークビジネスから、センサーネットワークをサービスとして提供する、というソリューション志向のビジネスに転向しました。業界のニーズをくみ取り、センサーネットワークの総合的なプラットフォームになろうと思ったのです。

まずはアメリカで足固め、いずれニーズあふれる世界へ

―今の業界ニーズに合ったサービスなのですね。最後に、アジア市場への拡大について、今後の展望をお聞かせください。

 IoTへのニーズは、アメリカと同じくらい高いと思うので、日本のマーケットにも大変興味はあります。ただ、スタートアップはどこもそうですが、まだ当社もリソースが不十分なので、まずはアメリカの企業をターゲットにしています。あくまで地理的な問題です。ここで十分企業として力をつけ、いずれはヨーロッパやアジア、中東まで拡大していきたいと考えています。



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