製薬会社がほしかったサービス
――まずはH1 Insights設立の経緯を教えてもらえますか?
私はH1 Insightsの前に、2015年にResearchConnectionという会社を起業しています。この会社では、米国内の大学の教授陣やアカデミックな研究者と、行われている研究活動を全て網羅したデータベースを構築しました。博士課程で学ぼうとする人をターゲットにデータベースの情報を提供したところ、特に米国の大学院を目指している韓国や中国の方に多く利用されました。
そして興味深いことに、企業も投資先を見つけるためにこのデータベースを利用していました。マイクロソフトやトヨタなど大企業は大学の研究に資金を提供しており、大学でどんな研究が行われているか調べていたのです。
私はその中でも、製薬会社、バイオテクノロジー(生物工学)や医療機器の会社が、医学研究に対して行う投資に興味を持ちました。そして、2016年にビル&メリンダ・ゲイツ財団などにResearchConnectionを売却し、H1 Insightsを創業したのです。
当社の顧客の多くは、武田製薬やアステラス製薬など、日本の大手製薬会社とバイオテクノロジーや医療機器会社です。医薬品の承認を受け製品化する前に、医療従事者と協力して臨床試験などを行いたい企業です。
世界中の医療専門家のデータベース
――顧客は、御社のサービス「H1」をどのように活用しているのでしょうか?
製薬会社は、治験や研究開発において医師などの医療専門家や医療機関に協力を依頼します。その際に、対象としている領域をリードしている医療専門家、症状や疾患、病気の経過や既存の治療方法を十分に理解している医療専門家を求めています。
当社のプラットフォーム「H1」にログインすると、日々最新の状態に保たれた世界中の医療専門家のデータベースから、出身校や職歴、臨床や研究における専門領域と実績、過去に携わった臨床試験や提携している製薬会社、そして連絡先情報などを検索できます。
――競合はいますか?
競合は多くいます。「H1」は、ヘルスケア市場の異なるセグメントで活用されているので、セグメントごとに異なる競合がいます。私たちは起業する前から競合が多い市場だということは把握していましたが、競合他社のことは気にしないようにしています。
例えば、バングラデシュの医師の情報を1日で全て集めてほしいと言われたら、他のサービスでは集められないでしょう。米国やEU以外の国の医療専門家の情報を得ることは簡単ではありません。特に小さな国の情報を得ることは非常に難しいです。情報がグローバルだという点で、当社は競合他社とは異なるアプローチで、異なる問題を解決しようとしています。
Photo: H1 Insights H1のインターフェース
当社は、ファイザーやアストラゼネカなどのトップ製薬会社とも仕事をして、新型コロナウイルス対策の取り組みを支援しています。当社のプラットフォームで新型コロナウイルスの患者に対応している病院を検索することもできますが、これは今まで提供してきたサービスの範疇で可能になっています。
――ビジネスモデルを教えてもらえますか?
LinkedInのセールスナビゲーターに似たビジネスモデルです。アカウントを購入したり、データへのアクセス権を購入できます。今は、主にBtoBで展開していて、企業向けSaaS型ビジネスモデルのようなものです。
データアクセスのレベルと、アカウント数で費用が決まります。例えば、世界中の医師を対象にする方が、ニューヨークの腫瘍専門医を対象にする場合より料金は高くなります。
海外市場で成功する秘訣
――日本市場にも既に参入していますが、今後力を入れていく海外市場はありますか?
そうですね。日本、中国や韓国など、APEC内の大きい市場に力を入れてきていますし、2021年とそれ以降も注力していきます。特に日本は、100社以上の顧客がいて、現地スタッフを雇用し、日本語のサポートをご提供するために投資をしてきた市場です。また、非常に良い関係を築けている現地パートナー企業もいます。
――海外市場に参入する際、現地で良いパートナーを見つけるための秘訣があれば教えてもらえますか?
成功するまで挑戦し続けることです。最も良い方法とは言えないかもしれませんが、良いパートナーに出会うまで何度も挑戦する、この方法で私たちは成功してきたのです。