Photo: Christian Lagerek / Shutterstock
鉱業、金属、石油・ガス、建築などの産業分野では、第一線で勤務する人たちが危険にさらされ、また低い生産性に悩まされている。Guardhatは、ウェアラブル技術と独自のソフトウェアによって、産業の現場で生じる事故を検知、警告、防止するプラットフォームを提供する企業。インドで鉱業・鉱物工学を学び、アメリカで鉄鋼コングロマリットのCEOを務めるなかで抱いていた課題を解消すべく同社を創業したCEOのSaikat Dey氏に、事業に対する想いを聞いた。

テクノロジーによって作業者の安全性を確保

 アメリカの鉱業、金属、石油・ガスなどの産業分野では、毎日約15人の労働者が仕事中に亡くなり、15秒に1人が負傷しているという。Dey氏は「私の知る限り、誰もが従業員の健康や幸福を犠牲にしてまで利益や製品を作りたいとは思っていないはずです。ですから、善良な人間として、第一に、従業員やそこにいる人々の安全を確保し、第二に、彼らが正しい判断をするための適切なツールを備えさせることが重要です」と切り出した。自身のキャリアのなかで、産業の第一線で働く人たちの安全性や生産性に関する問題を目の当たりにしてきたのだ。

 Guardhatのプラットフォームでは、センサー機器を搭載したヘルメットや通信端末、ソフトウェアなどによって、産業の現場で働く人たちを守るために、以下のような機能を提供している。

● 作業者の位置の特定
● 作業者の周辺環境の把握
● 作業者とのリアルタイムコミュニケーション
● 情報の共有

Guardhatのイメージビデオ

 現場で事故が起きた際に、作業者がどこにいるのか、周りの状況がどうなっているかを把握し、そして適切な避難経路や手段を示すなど、リモートでの指示や情報共有を行うことで、作業者の安全をサポートする。また、現場で利用されるガス検知器や放射線検知器といった外部のセンサーとも連携しながら情報を集め、危険な産業関連のインシデントを検出・警告し、事故を未然に防ぐことを目指す。

「例えば、ビルで火災が発生した場合、誰かが火災報知器を押して、全員がオフィスを出て階下の駐車場に向かわなければいけません。もし、あなたが40階にいて、火事が24階で起きたとしたらどうでしょう? 駐車場に行くよりも屋上に向かったほうがいい状況もあります。私たちの仕事は、生死を分けるようなタイミングで、さまざまな情報源から正しい情報を提供し、事故の結果をより良く変えられるようにすることです」(Dey氏)

Saikat Dey
Guardhat
CEO & Co-Founder
インドのNational Institute of Technology Rourkelaで鉱業・鉱物工学を専攻。IBMやベンチャー企業でのセールス職を経験後、2005年からコンサルティング企業のMcKinsey & Companyで勤務。2011年から鉱山や鉄鋼製品を手がけるSeverstal North AmericaのCEOを務めた後、2014年にGuardhatを起業。

安全性・生産性向上への強いニーズに応える

 Guardhatプラットフォームビジネスモデルは一般的なSaaSモデルで、顧客へは、Westinghouse Electric Corporationに代表される産業系の販売パートナーを通じて提供されている。Dey氏によると、同社のユニークなソリューションに対する強いニーズと、強力なパートナーのおかげで急成長しており、2019年から2020年は2.7倍、2021年はさらに3倍の成長を見込んでいる。

 この成長には、コロナウイルス感染拡大によって、現場の安全性に対する意識がより高まっていることも少なからず影響している。Guardhatのプラットフォームは労働現場環境の把握だけでなく、勤怠などのバックエンドシステムとも連携し、適切な時間や場所で勤務し、適切な報酬を得ているかどうかも確認できる。このため、現場の作業者にコロナウイルスの感染者が出た場合に、濃厚接触者の把握にも役立つのだ。

Photo: Guardhat

「作業者に対して遠隔の業務サポートも可能で、拡張現実を使ったソリューションも提供できます。コロナウイルスは歓迎できるものではありませんが、お客様が自分たちを守るためにどうしたらいいかを考える大きなきっかけになりました。パンデミックが収束するかどうかはわかりませんし、新たなウイルスが生じることもあるでしょう。たとえ収まったとしても、人を守るという基本的な原則は変わりません」(Dey氏)

「ひとつの命を守る」ことが、自社の成長につながる

 現在のエリア別の顧客シェアは、70%がアメリカで30%がヨーロッパ。2021年1月で調達した資金(シリーズB)は、グローバルのパートナーシップや、セールス・マーケティングに活用する計画としている。日本への進出も視野に入れており、同社が直接ではなく、産業界に通じたパートナーと提携したライセンス販売を想定している。日本でのパートナーは現在探しているところで、2021年末までには決めたいとしている。

 同社の今後の展望についてDey氏に聞くと、次のようにコメントした。「当社のとてもシンプルなマイルストーンとして『Save One Life(1人の命を救う)』があります。これによって収益など、事業のすべてのことが後についてきます。1人から始めて、1人が2人になり、2人が10人になり、100人が1000人になると、より強い関連性、影響力を持つようになります。正しいことをして、正しいメッセージを広め、正しい製品を作れば、収益や財務の成長など、すべてがついてくると考えているのです」



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