Global Mobility Service(本社:東京)はIoT技術を活用したフィンテックサービスで、新しい形の自動車ローンの仕組みを提供する企業だ。就労の機会を得るために自動車を購入したくても、ローンの審査に通らない貧困層や低所得層をサポートするため、利用者の働きぶりをデータ化する端末を車に設置することでローンを可能にする。同時に、金融機関にはこれまでになかった新たな与信の仕組みを、自動車メーカーに対しては販路開拓をもたらしている。フィリピンやインドネシアなどASEAN諸国や日本で事業を展開し、経済合理性と社会課題解決の両立を目指す同社の創業者でCEOの中島徳至氏に、創業の経緯や事業戦略を聞いた。

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「買いたくても買えない」17億人の存在

――ご自身のバックグラウンドとGlobal Mobility Serviceを起業するまでの経緯を教えてください。

 私はこれまでシリアルアントレプレナーとして3社を起業しております。2社目はEVメーカーをフィリピンで設立しました。フィリピンでEVを拡販するときに、ローンやリースが利用できずに自動車を購入できない人たちがたくさんいることを知りました。そして同じような境遇にある人が全世界に17億人いる現実が分かりました。単に車を売ればいいのではなく、「買いたくても買えない」という状況を課題として、テクノロジーを使って金融包摂型のフィンテックサービスを提供できないかと考えたのです。

Image: Global Mobility Service

 現在は、車を使って働く人の頑張りのデータを可視化・価値化したものをベースに新たな金融商品を提供しています。子どもを学校へ行かせられない親が増えてきている現状もあり、自動車ローンだけでなく、学資ローンや最終的には家のローンまで、頑張る方の伴走者として生活全般をサポートする仕組みを作れないかと思い、創業したのです。

中島 徳至
Global Mobility Service株式会社
代表取締役社長 CEO
1967年生まれ。東京理科大学大学院修了。1994年、株式会社ゼロスポーツを設立し、EV開発にも取り組む。事業譲渡後、渦潮電機の現地法人BEET Philippine inc.をフィリピンで設立、初代CEO兼代表取締役社長に就任。2013年にGlobal Mobility Service株式会社を設立し、代表取締役社長兼CEOに就任。

――サービス内容やビジネスの特徴について教えてください。

 タクシーやデリバリーなど、自動車を使ってお仕事をしたい方に向けて、自動車に遠隔起動制御デバイスをつけていただくことを前提とした自動車ローンを提供しています。

 金融機関と提携しており、金融機関が利用者にローンやリースなどの金融サービスを提供した際に、利用者の与信を補強する役割で私どものデバイスを利用者に購入いただきます。そして、そこで得たデータを金融機関に提供しております。

 こうしたビジネスには前例がなく、出資者を募るのに苦労しました。その中で最初に出資をしていただいたのが、SBIグループでした。フィンテックのサービスについてどのような仕掛けが必要か、どのようなインパクトをもたらすかというところにご理解いただけた投資家です。

 SBIグループに出資いただいたお金をベースに、実証実験を行っていきました。そして、想定していたデフォルト(未払い)率よりも非常に低い数字が出ましたので、ビジネスとしていけると思い、事業化のスピードを高めていきました。

デバイスは安全設計 「頑張り」のデータ可視化で信用を創造

――仕事ができず、支払いが不能となってしまった場合は、遠隔起動制御デバイスによって、自動車を動かせなくできると聞きました。安全性が求められると思いますが、ガイドラインなどはどのようにお考えになったのでしょうか。

 私たちの遠隔起動制御デバイスは、走っている車を止めるのではなく、止まっている車のエンジンをかけようとしたらかからないという制御をします。

 公道で走る車に取り付けるデバイスですから、しっかりとしたガイドラインや安全基準を考え、デバイスを取り付けたことによる予知しない不具合が起きても、安全を保つフェールセーフ機能を備えています。

 当社の遠隔起動制御デバイス「MCCS」は、独自の技術で自動車の多様な情報をセンシングしてクラウドに送信・蓄積しています。全世界でさまざまなモビリティとつながり、データ通信を行う事ができるIoTデバイスで、先ほど申し上げた、走行中に制限がかかることのない安全設計で特許を取得しています。

 MCCSはあらゆる車両に搭載可能です。車両状態を常時モニタリングしながら状況を把握することで、提携するプレイヤーにさまざまなサービスを提供できます。

Image: Global Mobility Service

――車を制御するだけでなく、IoTデバイスとしてデータを取得・活用されているのですね。どのようなデータを取得できるのでしょうか。

 配送業やタクシーなど、車を使うお仕事をされている場合、勤務先企業と提携します。デバイスによって車両データと勤務先での勤務データを取得でき、AIを介すことによって「信用の創造」ができます。金融機関や自動車メーカーが必要とするデータを集められるのです。

 これは利用者の信用の創造を行う上で非常に重要なデータです。朝何時から何時まで働いているか、何キロ走ったか、利用者のユーザーの評価は高かったか低かったか、支払い状況はどうだったかなどの情報を収集できるのです。そうすると、その人が真面目に働いて稼いでいる人なのか、そうでないのかがよくわかります。

 金融機関はこれまでCICなどの信用情報機関から、ローンを申し込んだ個人の支払い履歴などの与信情報を基に、ローンを提供していいかを判断してきた歴史があります。しかし私たちは、CICの記録では毎月支払いをきちんとしてきた人が、必ずしもちゃんと働いているとは言えないと考えています。従来の仕組みでは、支払ったお金がどこから発生したものかわかりません。親や家族など、誰かに借りて支払いをしたのかもしれません。きちんと働いていて、継続して支払いができるかどうかを知ることはできないのです。

 私たちのサービスから得ている情報は、その人が苦労して実績を積み上げてきた生データなので、毎月支払いができているというよりも、その人の信用力を客観的に測る物差しとして十分に足りるものだと思っています。

 豊かなライフステージを歩んで行く上で、利用者が求めるものをつないでいくという使命が私たちにはあると思っています。車を買うというのは仕事を得るための手段で、最終的には家を持ちたいなど、各家庭に夢や希望があると思います。それを叶えていくために、利用者の頑張りを可視化して、これまで組めないと思っていたローンを組めるような下支えをするのです。

Image: Global Mobility Service

デフォルト率は1%切る 所得向上「よりよい仕事」へ

――ビジネスの状況はいかがでですか。

 当社は国内と海外で事業展開を行なっていますが、コロナ禍で地域によってはロックダウンがあって、外出禁止などがあり、ここ1〜2年は働くドライバーさんたちは苦労されているという状況にあります。

 しかしながら、2017年のサービス開始以降、着実にサービス提供距離数を伸ばしています。2019年1月時点でサービスを利用した車両の走行距離は3600万キロぐらいでしたが、2020年1月になると1億2600万キロ、2021年1月は2億1600万キロ、今年2022年1月には3億キロを超えています。地球を8000周以上したことになります。新型コロナの影響があったとはいえ、順調に成長してきたといえます。

――サービスを利用した方のサクセスストーリーを教えてください。

 フィリピンで、購入費30万円で三輪タクシー・トライシクルのドライバーになりたいと考えている方がいらっしゃいました。子どもが3人いて、おばあさんと一緒に生活されていて、子どももこれから大学に通うというような貧困層のお父さんでした。

 3年間、真面目に働いて30万円のローンを完済した後、よりよい仕事を得たいとGrabTAXI(タクシー配車サービス)のドライバーになるために新たなローンを組み、150万円の乗用車の所有者になりました。弊社のサービスを利用することで、着実に所得を上げていらっしゃいます。

――金融機関側からの評価はいかがでしょうか。

 海外ではマレーシアのMaybankや韓国のSBJ銀行と、日本では広島銀行、大垣共立銀行、愛媛銀行、リコーリースなどと提携しております。金融機関側からは、デフォルト率が1%を切っているので非常に経済合理性が高いと評価をいただいております。

 低所得の方や貧困層の方々に対するローンサービスを作って提供したいという意思がある金融機関にとっては願ってもない商材だと思います。

世界中の金融機関を巻き込み、貧困層や低所得層に多くの機会を提供

――「貧困をなくそう」「人や国の不平等をなくそう」などを掲げたSDGsのゴールは2030年です。それに向けたマイルストーンがありましたらお聞かせください。

 自家用車を持てない人は17億人いると言いましたが、いち早く1億人にファイナンスを提供する状態にしていきたいと考えています。そのために、早くサービスを全世界に広めていきたいです。データを有効活用する戦略や、プラットフォーマーとしての戦略も持ちながら、成長戦略を描いているところです。

 私たちがこれまで作ってきた実績をベースに、世界中の金融機関を巻き込みながら、一緒に成長戦略を描いていきたいと思っています。また自動車メーカーと一緒に自動車の販売ができるような状態も作っていきたいと思っています。大企業とのオープンイノベーションによって、広がる未来があり、事業を展開できればと思っています。

Image: Global Mobility Service

 世界の自動車メーカーの年間生産台数は1億5000万台とも言われています。一方で与信の問題で自動車を購入できない人はたくさんいます。将来、弊社のサービスが浸透すれば、1年間に1億5000万台の販売台数を積み上げられると試算しています。今まで購入できなかった貧困層・低所得層が買えるようになれば、市場が倍になるのです。

 どの国においても自動車メーカーとの提携はしていきたいと思っています。ほかにも工作機械メーカーや住宅メーカーとも提携できる可能性が高いです。エアコン、ボイラー、エレベーターのメーカーなど本当にきりがないぐらい、いろいろな可能性があります。頑張る人が利用するハードウェア、企業と、金融がつながらない現状があるからです。これまで人々が頑張っても得られなかった評価を、私たちのサービスで可視化して、つなげていきたいと思っています。

30年後は「与信の問題」がない世界に

――テクノロジーの進化の中で御社の描く未来を教えてください。

 これまで自動車は「物」として売られてきました。しかし、自動車が物として売れない時代になってきています。とはいえ自動車メーカーは製造業を長くやってこられて成功体験をお持ちなので、なかなか内発的に変えていくことは難しいかもしれません。

 近く自動運転車両の売上規模が1兆円になると指摘するシンクタンクもあります。その周辺のサービスプレイヤーの売上は10兆円とも言われています。何を指しているかというと、自動車メーカーが苦労を重ねて自動車を作って1兆円を生む一方で、10倍のレバレッジを効かせた関連サービスを、自動車メーカーとは資本関係がないプレイヤーが作り上げていく可能性があるのです。さまざまなモビリティサービスが求められる時代が来ると考えているのです。

 私たちは、人々が頑張れる可能性を提供しますので、自動車メーカーにも、周辺サービスのプレイヤーにも喜んでいただけると思っています。私は間違いなく、これから30年後を見れば、当たり前に与信の問題が解決された世の中が来ると思っていますし、それを実現させられるのは当社であり、私たちの役割だと思っています。

――読者に対してメッセージをお願いします。

 私は、尊敬できる人が社内にたくさんいるような会社にしていきたいと思っています。私たちの成長戦略を考えると、市場拡大戦略からデータ活用戦略、プラットフォーム戦略、といろいろな設計を掲げながら進めていく中で、やはり多様な人材が必要になります。

 そのためにはまだまだ人材が足りません。当社は、経済合理性と社会課題の解消を両立できる企業です。これまでのご自身の経験を存分に活かしたいという人は、社内・社外問わずぜひ関わっていただけるとありがたいです。

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