日本の次世代産業づくりの契機となりうる市場・テーマに取り組むユニコーン・デカコーン企業の創出を狙いに、過去最大の500億円規模の7号ファンドをファーストクローズしたグロービス・キャピタル・パートナーズ(以下、GCP)。代表パートナーの高宮慎一氏はこれまで通り、GCPは領域に特化せず、ハンズオン型支援の方向性を維持すると説明し、国内の巨大デジタルトランスフォーメーション(DX)市場や、「世界で勝てる」Web3分野を投資分野の例に挙げている。その上で、日本の新たな産業創造と「世界で勝つ仕組み」づくりには、大企業とスタートアップの連携は不可欠だと指摘する高宮氏。大企業やスタートアップが陥りがちな「失敗例」を踏まえた連携のあり方や、スタートアップ支援を掲げる政府の取り組み、Web3の可能性について話を聞いた。

※前編GCP 高宮氏に聞く 大型ファンドの狙いとは? デカコーン創出へ 新たな産業づくりで世界と戦う

大企業の「あるある失敗例」 スタートアップの「自分たち目線」

 世界で勝てる産業創造には、スタートアップと大企業の連携が不可避だと説明する高宮氏。一方で、オープンイノベーションやDX、Web3がバズワード化する中、戦略が明確でないと、大企業はスタートアップ連携で「陥りがちな罠」にはまってしまうと、高宮氏は指摘する。

「スタートアップとの連携をうまく活かすための大企業側のポイントはいくつかありますが、最も大事なのが、トップのリーダーシップです。そこが結局、一番大事だと思っています」

「トップがなんとなく『DXが流行っているからスタートアップと何かやれ』という指示を出してしまうと、なんとなく『何かやれ』と振られた担当の部長が、スタートアップに『何かやるからお話を聞かせてください』となってしまいます。何をやるのかが決まっていないため、その担当部長とスタートアップの社長は繰り返し打ち合せをするが、具体的には何も動かずに終わってしまう、というのがよくある落とし穴です。そうなると、スタートアップ側はその個社だけでなく、『大企業』に対して幻滅してしまうこともあります」

「そこは担当者が悪いのではなく、むしろトップが反省すべきで『あるある失敗例』ですね。スタートアップと『何かやれ』といっても何も動きません」

高宮慎一
グロービス・キャピタル・パートナーズ
代表パートナー
戦略コンサルティング会社アーサー・D・リトルにて、プロジェクト・リーダーとしてITサービス企業に対する事業戦略、新規事業戦略、イノベーション戦略立案などを主導した後、2008年9月グロービス・キャピタル・パートナーズ入社。2012年7月同社パートナー就任。2013年1月同社パートナーおよび最高戦略責任者(CSO)就任。2019年1月代表パートナー就任、現在に至る。東京大学経済学部卒、ハーバード大学経営大学院MBA修了。

 大企業側が自社の戦略を持ち、どういう方向を志すのかを明確にすることで、「あるある失敗例」は回避できると、高宮氏は指摘する。

「スタートアップ連携とは、戦略目標という『What』を達成するための『How』でしかありません。そこはやはり、大企業のトップが自社としてどんな戦略をとるのか、どういう方向性に持っていきたいのかにかかってきます。既存事業を伸ばしていきたいなら既存事業に新しいテクノロジーやビジネスモデルを持ち込めるスタートアップと連携するでしょうし、既存事業の成長性が鈍化しているので周辺事業を取り込みたいのなら、周辺領域のスタートアップの事業を取り込む連携やM&Aが考えられます。まったくの新しい領域、飛び地に進出したいなら、そのような領域のリーダーのスタートアップと連携するという話です」

 また、大企業側のリーダーシップに必要とされるもう1つの要素として、「スタートアップとの関係性や、お金の面でもリソース的にも投資をするという意味合いで、長期的な時間軸で捉えてほしいと思います。場合によっては、短期的にマイナスを出すことも許容することにコミットすることは原点として大事だと思います」と指摘する。

 一方で、スタートアップ側にも「あるある失敗例」はあるという。高宮氏は「スタートアップ側はまだ伸び盛りの事業を展開しており、『これを伸ばしていく』という明確な戦略、つまり『What』の部分はクリアです。一方で、『自社のしたいこと』『大企業をうまく使ってシナジーを得たい』といった『自分たち目線』にフォーカスしがちです」と課題を挙げる。

 大企業と連携した時に「自分たち目線」だけではなく、大企業側にどんなプラスが生まれるか。連携したときのトータルの「絵」を描いて「全体最適の解」を見つけて提案することがスタートアップ側には求められているという。

「主体的に、積極的に仕掛けるのはスタートアップ側が多いと思いますが、『自分たち目線』だけだとうまくいきません。例えば、大企業の窓口はM&A担当や投資担当だけど、大企業側の事業部を巻き込まないと物事がスムーズに進みません。事業部側の売り上げや事業にどうメリットがあるのかをきちんと提案できること。大企業とスタートアップ双方がお互いの立場を慮って、全体としてどうウィンウィンの連携を図るかという両方の目線がすごく大事だと思います。そして大企業側のトップもしっかりと意を一つになっていることが大事です」

Image: REDPIXEL.PL / Shutterstock

Web3 「幻滅期」をへて生まれる「本質的な価値」と「普及」

 では、Web3やメタバース、ブロックチェーンといった言葉がバズワードとなる中、大企業がこの領域を活かせる可能性はあるのか。

「世の中的にWeb3が流行っているからといって、BtoB向けのベアリングを作っている会社にとってWeb3が、会社の方向性、戦略として一致していますかというと、違いますよね。大企業向けのメッセージで言うと、『自分たちの方向性、戦略、自分たちの意思をベースに選びましょう』『バズワードで流行っているからというのはやめましょう』とお伝えしたいです」と語る。

 一方、一般的な事業機会、投資機会として捉えた場合、こういう見方ができるという。

「例えば、Web3はすごく曖昧模糊とした言葉として語られていて、普通の人からするとまだ『食えるのか』『うまいのか』みたいな受け取り方で、Web3が自分たちにどんな便益をもたらすのかが分からないというのが正直な感覚でしょう。この反応がすごく真っ当で、今後、mass adoption、社会全体に普及して、普通の人が使うサービスにしていくことが重要だと思っています。例えばですが、高齢のうちの母が生活の中で楽しいと思うサービスにブロックチェーンという技術が使われ、Web3と呼ばれていたとしても、それを全然意識せず『楽しいから』『便利だから』と使うことが、本当に世の中を変えているイノベーションだと思います。そこに行くのがゴールです」

 これまで、ブロックチェーン技術やWeb3のコンセプトは、テクノロジーアウトやプロダクトアウトの視点が強かったという。それが最近、「ブロックチェーン技術を使う、Web3のコンセプトを使うと、ユーザーにとってどんな新しい楽しさがあるのか、その楽しさや便利さをどう増幅できるのかといった議論が始まってきています」

 これはWeb3における特別な議論ではない。「新しい技術が出てくると、最初はバブルのようにみな熱狂する。そこから『何が楽しいんだっけ』『何ができるんだろう』と思い始める『幻滅期』の時期を迎えます。その幻滅期の中から、ユーザー側のニーズとしっかり結び付いて、実態がある形の楽しさや嬉しさ、便利さが伝わってきたときに、本質的な『普及期』に入ります。Web3はその経路をたどるでしょうし、まさに幻滅期の手前ぐらいが普及するサービスを作るにはちょうどいいタイミングだと思います」と高宮氏は説明する。

 例えば、ここ数年、ブロックチェーンゲームの中では、「Axie Infinity」をはじめとする遊んで仮想通貨を稼げるという「Play to Earn (稼ぐために遊ぶ)」の概念が生まれ、バズワードになっている。フィリピンなどのユーザーがゲームで仮想通貨を稼ぎ、実際の生活を支えるという現象も起きているという。「STEPN」は、歩いたり走ったりすることで仮想通貨を稼ぐことができる「Walk to Earn (稼ぐために歩く)」ができるサービスだ。仮想通貨ベースで買った靴を、場合によっては買値よりも高値で売却することもできる。

 その傾向に対し、高宮氏はこう指摘する。「一歩引いて見た時に、『稼ぐために遊ぶ』という『Play to Earn』のサービスの提供価値としては『お小遣い稼ぎ』になってしまっています。投機アプリやポイントサイトと同じような提供価値です。一方、やはり多くの人が持続的に使うには、『楽しいから遊びたい』と思う『Play to Fun』という原点に回帰していくことが鍵になると思います」

 ブロックチェーンという新しい技術を使った楽しさ、自由な演出。高宮氏は「例えば、うちの母親が『このゲーム楽しいわね』と使う世界、一般のユーザーに刺さる提供価値になっていることが、Web3のサービスが普及する上でポイントになります」と語る。

Image: JLStock / Shutterstock

 これまで一部の人が熱狂したり、技術的な斬新さが注目されたりしてきたテクノロジーアウト、プロダクトアウトの流れから、「一般のユーザーのニーズやペインすなわち、マーケットインの視点と、テクノロジーアウト/プロダクトアウトとが融合した時に、本当に何億人にも使われるようなプロダクト、サービスになるのではないかと思っています。それこそが、next big thingであり、投機やお小遣い稼ぎ層だけをターゲットにしたサービスではなく、本当にみんなが使うサービス、mass adoptionにつながるものだと思います」

 その地点に到達するには、キラーアプリケーションが必要になる。「やはり技術というのは、何かを実現する手段であり、ユーザーが『これはとても便利』『めちゃめちゃ楽しい』と実感しない限り、普及せず、『発明』で終わって『イノベーション』にはなりません。実需のあるユーザーの課題を解決しつつ、楽しさをきちんと出せるものでないと、普及しません。私はWeb3では、それが絶対に見つかるだろうと思っています」

 高宮氏は「技術」を「包丁」に例えた。「技術はある意味、ニュートラルで色がない分、使い方次第です。例えば、包丁は料理を作ることもできれば、人を刺す凶器にもなる」。その技術を使って「どんな提供価値を出すか」によってプロダクトの形も変わると解説する。

「包丁も食材を切るという使い道が分からないと、ただ尖っているもの、という状態です。でも使ううちに、さまざまな用途が見えてきて、例えば、魚をおいしく食べるためにさばく包丁だとすると、出刃包丁のような形に進化していきます。ブロックチェーンの技術やWeb3のコンセプトも、いろいろ使って3年ぐらいたつと、今では全く想像していない使い方さえ出てくるのではないかと思います」

日本の新産業創出に求められる「仕組みづくり」とは

 1996年の設立以来、GCPは四半世紀余にわたり日本のスタートアップ投資を牽引してきた。日本のスタートアップエコシステムが「新しい産業をつくる」「森をつくる」フェーズに来ている中、高宮氏は、岸田内閣が掲げた2022年を「スタートアップ創出元年」とする位置づけや政策をどう見ているのか。

「元年」という位置付けや政策に対し、高宮氏は「ようやくなのか、今更なのかという話でいうと、どちらでもない気はしています。そもそもNever too late、何事も遅すぎることはありません。メルカリを皮切りに、日本のユニコーン上場も11社生まれてきた背景に、アベノミクス、政府が果たした役割は大きいです。『元年』と聞くと今始まったような印象も持ちますが、実はここ10年弱ほど、政府はかなりスタートアップ推進をしてくれています。政府がスタートアップ応援側についたことは大きく、岸田政権が引き続き推進してくれることはありがたいことです」と語る。

 その上で、政府に期待することについて「私自身はマーケット原理主義なので、市場原理を尊重し、市場原理をゆがめるようなことをしない方が強いものが残り、弱いものは退場してその代わりにサイクルが回ってより新しいものが生まれ、その中からさらに強いものが生まれるという形になると思っています。このサイクルを促進する、もしくはサイクルの最初のひと回しを回す上で最初だけ背中を押すというような政策がいいのではないかと思います」と話す。

 政府に取り組んでほしいこととして、Web3やNFTなど新しい領域に対する「ルールづくり」「環境づくり」の必要性を挙げた。「新しいもの、今まで想定してないものが出てきた時に、法解釈はどういう位置付けになるかなど、ルールを明確に、フレームワークの設定をクリアにしていく必要はあります」と指摘する。

 例えば、電動キックボードが分かりやすい事例だと高宮氏は説明する。「当初は今までの法律に照らし合わせると、電動キックボードは原動機付自転車と位置づけられ、車道でヘルメットをかぶって運転しなければならないという話でした。そこに、そもそも原付という位置づけでいいのか、社会性、利便性を鑑みた時にそれでいいのかという議論もありました」

「電動キックボードの場合は、規制のサンドボックス制度(期間や参加者などを限定し、新しい技術などの実証を行うことができる環境を提供する制度)の下で、限定されたエリアで実験し、社会の実態に合う形で、マイクロモビリティという新しい分類が定義され、15km未満であればヘルメットなしで車道を走れるということになりました。新しい技術に合った形で、適切に規制のフレームワークが確立してきたということです。これからこういう取り組みがどんどん増えていくといいなと思います」

 今後、日本の新たな産業創造、世界のマーケットで勝てる分野として注目されるWeb3の領域についても、環境整備が急がれる。

 高宮氏は、日本発のパブリックブロックチェーン「Astar Network」を開発するステイクテクノロジーズ(Stake Technologies)の事例を挙げた。日本では法人がトークンを発行し、それを期末に保有していると含み益課税がされてしまい、必ずしも現金化していない資産や今後値下がりの可能性もある資産に対して税金の支払いが発生する。これでは事業運営資金が枯渇してしまうため、Astarと創業者の渡辺創太さんは含み益課税されないシンガポールに移住し、本社を構えているという。

「例えば企業がサービスの運営に使うために、トークンを発行すると、それを現金化していなくても税金が発生し、キャッシュが足りなくなって、資産価値はすごくあるのに倒産してしまうような状態に陥ることも考えられます。もしくは、毎年評価をするので、一時的にトークンの価値が跳ね上がりその後下がったとしても、最大値に合わせた含み益に対して税金を納めることになるので、価値が下がってしまうと税負担の比率は大きくなってしまいます」と高宮氏は指摘する。

 海外では、サービス運営のためにトークンを長期保有している時などは課税されず、売却して現金化した際に課税されることが多くなっている。Web3サービスを運営する日本の企業にとって現行の日本の税制は世界との競争上、不利になっているという。

 高宮氏は「ルール作りはファーストステップです。日本の政策として、産業育成の上で諸外国に比べて不利な状況があるならば、少なくともイコールフィッティング=海外と同等にすべきでしょうし、日本の産業政策の柱として推進したいのであればルールも有利にすべきという議論すらあるとは思います。このような状況の中で政府も動き始めています。スタートアップの現場の声に聞く耳を持ち、門戸を開いてくれていることはありがたいです」と語る。

Image: Blue Planet Studio / Shutterstock

 日本のスタートアップエコシステムが新たなフェーズを迎え、GCPは大型ファンドの組成でユニコーン、デカコーン企業の創出に向けた資金需要に応える体制を整えている。政府は日本の経済再興に向け、スタートアップ支援を前面に打ち出している。では、大企業は、日本の次代の産業づくりのために何をすべきか。高宮氏は最後にメッセージを寄せた。

「日本という国の成長に乗っていれば自分たちも成長するという高度経済成長時代は既に終わっており、いかに自分たちが生きる道を探すかという話であり、大企業もまさに自社の戦略の方向性をきちんと決めていく必要があると思います」

「日本の中にとどまっていると、より規模が大きくグローバルな競合企業が日本にやってきた時に負けてしまうというのがGAFAMからの学びです。ですので、いかに『世界で戦うか』が最大の課題・論点だと思います。大企業には自前主義にこだわらず、まさにオープンイノベーションの本質が必要とされています。自社が得意な点は生かしつつ、足りないものは外から取り入れ、アメーバ的にさまざまな企業組織と連携しながら外部からリソースを調達していくこと。これが大企業が生き残るために必須なことだと思いますし、どんどんオープンに取り組んでいってほしいと思います」

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