エンタープライズ向けのSaaSやソフトウェアは次々に新たなものがリリースされており、どんな製品が自社のニーズにあっているかを吟味するのは一苦労だ。こうした問題に対し、IT製品のレビュープラットフォームを提供するのがG2だ。同社のサイト「G2.com」には、140万件以上のユーザーによる信頼性の高いレビューが掲載されている。日本でも2018年からソフトバンクグループのITreviewと提携しており、日本語でのレビュー提供もなされている。2021年6月に1億5700万ドルという巨額資金を調達してユニコーン企業となったG2は、日本のみならず世界進出を果たそうと目論む。同社の共同創業者でCEOのGodard Abel氏に、サービスの特徴とグローバル進出の道筋について話を聞いた。

ソフトウェア購入にAmazonのようなショッピング体験を

 20年以上にわたりソフトウェア関連企業に携わってきたAbel氏は、これまで2度の起業を経験している。2000年に起業したBigMachinesはOracleに、2014年に起業したSteelBrickはSalesforceに売却した。G2は、ベンダーが自社の製品を検証することの難しさを味わった体験からアイデアを得て、2012年に創業した会社だ。

Godard Abel
G2
Co-Founder & CEO
マッキンゼーでアナリストに従事した後、自ら起業したビジネスをOracleやSalesforceへ売却した経験をもつシリアルアントレプレナー。ソフトウェア業界に20年以上のキャリアをもち、2012年にG2を創業。2021年6月、同社はシリーズDの資金調達を果たし、ユニコーン企業となった。

 Abel氏は、G2の使命を「実際に購入した顧客のレビューに基づいてソフトウェアを発見し、評価するAmazonのようなショッピング体験を創造することです」として、ビジネスソフトウェア購入者のためのプラットフォームを展開している。

 現在、G2.comには、世界中から年間6000万人以上のソフトウェアバイヤーがアクセスしている。G2の主な顧客は、ソフトウェアベンダーのソフトウェアマーケティング担当者だ。これらの企業が何を求めているかに基づいて、レビューのほかG2.comのユニークなコンテンツやデータを使ってソフトウェアの販売をサポートしている。

人とAIによるレビュー検証で高い信頼性を確保

 クチコミレビューサイトには不正問題が絶えないが、G2ではレビューの信頼性を高めるために数々の施策を講じている。まず、レビュアーにはビジネスSNS「LinkedIn」アカウントを要求するなど、必ず職業上のアイデンティティを公表することを義務付けている。

 また、人による目視とAIの併用によって、レビューが適切なものなのかどうか判断する仕組みも取り入れている。はじめにAIが詐欺や虚偽の疑いがないかスクリーニングしたものを、調査チームがダブルチェックして、それでも不正の疑いがある場合は、コミュニティに報告をあげることもできる。投稿されるレビューを何重にもわたって精査するため、掲載されるのは実際に投稿された数の約2/3となるという。

 AIは自然言語処理(NLP)と呼ばれる技術を採用し、本物のレビューと偽物のレビューを認識できるよう、人による訓練も合わせて継続的に改善に努めている。将来的には、人の目視が必要なくなるまで、訓練を続けていくつもりだ。

 G2はソフトウェアレビューサイトとして全米最大規模を誇る。大手競合企業のひとつにGartnerがあるが、彼らがビジネスアナリストのレビューを中心としていることに対して、G2は実際に使っているIT担当者など、個人のレビューにフォーカスしている点が特徴的だ。

Image: G2 HP

 ここ数年、売上高は毎年50%ずつ成長してきた。2020年3月に新型コロナウイルスによるロックダウンがはじまった直後の2〜3ヶ月間は業績が落ち込むこともあったが、同年6月からは需要は増加に転じた。多くの企業がリモートワークに移行したことによって、多くのソフトウェアが昨年に比べて4倍のトラフィック量を集めるようになったためだ。とくにビデオ会議ツールやデジタルコラボレーションのツールの需要が大きく伸びた。

 Abel氏は、たとえパンデミックが収束したとしても、今後もソフトウェア需要は続くだろうと予測している。

「日本だけでなく、世界中でデジタル・ソフトウェアを使用していなかった多くの企業が、そのメリットを実感しました。オフィスにいなくても仕事ができることに気づいたのですから。ますます多くの企業が、仕事をするために多くのソフトウェアを使い続けるようになるでしょう」(Abel氏)

ソフトウェアベンダー世界進出の一助となるように

 ユニコーン企業の仲間入りを果たしたG2の次なる目標はグローバル展開だ。現在、従業員500名のうち、北米に350名、アジアに100名、ヨーロッパに50名がいて、来年はさらに100名を追加していく方針。今後12ヶ月間には、レビュー数を200万件、収益を50%以上成長させたいと考えている。

 レビューだけでなく、「G2 Track」という新サービスを米国で先行リリースもしている。これは、SaaS型のソフトウェア資産管理サービスの一種で、組織内でどんなソフトウェアが使われていて、セキュリティリスクや請求情報などをIT担当者や財務担当者がモニタリングしやすくするためのツールだ。これによって、いままで把握することが難しかったソフトウェア資産管理を容易にし、コスト最適化とコンプライアンス遵守を実現する。G2にとっては、ソフトウェアの販売だけでなく、その後の利用状況に応じたサポートなど、エコシステムを拡大する役割も果たすサービスと言える。

 Abel氏は、G2をすべての人々やビジネス界にとって、ソフトウェアを購入するための場所にしたいとして、長期ビジョンを次のよう述べた。

「ソフトウェアビジネスはユニークで、非常にグローバルなものです。OracleやSalesforceのような企業がすでに日本で定着しているように、日本企業も米国企業と同じアプリケーションを使っています。G2にアクセスすれば、革新的なスタートアップ企業のプロダクトを見つけられるでしょう。また逆に、革新的な技術を持つ日本のソフトウェアベンダーをG2が支援することもできます。日本のソフトウェアベンダーがアメリカやヨーロッパ、アジアの市場に参入するためのサポートもしていきます」

 質の高いレビュー武器に、ソフトウェア購入者とソフトウェアベンダーにとって有益なサービスを提供し、IT業界の発展を支えるG2の今後の動向に注目したい。



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