国際物流における「Booking.com」のようなプラットフォームを運営するFreightos。海運・空運・陸運を組み合わせて荷物を届ける国際貨物輸送の現場に対し、物流業者の選定や手続き処理をアルゴリズムで自動的に導き出すサービスを運営している。元来、国際物流業界は「レガシープレイヤー」が多く、DXでコストと時間の削減が望まれてきた業界だ。本社をイスラエルに置き、北米や欧州、アジア・オセアニア、中東など多くのエリアでビジネスを行うFreightosの創業者であり、CEOのZvi Schreiber氏に話を聞いた。

※インタビューは2022年12月時点。Freightosは2023年1月、NASDAQ市場にIPO。

海運・空運・陸運 価格比較から契約、追跡もできるプラットフォーム

――御社はどんなサービスを展開しているのでしょうか。

 当社は海運・空運・陸運の国際物流における見積もりの算出や物流業者の選定、手続き処理をスピーディーに行うプラットフォームを運営しています。欧米や日本といった先進国は多くの商品を中国などからの輸入に頼っており、国際物流は世界経済の大きな部分を占めています。

 しかし、その現場はいまだに電話やメールなどを通して業者の選定などの手続きを行っていて、他業界と比較するとデジタル化が進んでいないのが現状です。

 例えば、海運による輸送の見積書の策定には通常2~3日かかる上に、その間は拘束力が働きません。また、海運では輸送完了までに場所によっては約1カ月かかることも珍しくありませんが、輸送期間が延長したり、延長した分の追加料金がかかってしまったりするなど、コストがかかり、不確かな事柄が多いのです。

Zvi Schreiber
Freightos
Founder & CEO
University of CambridgeでMathematicsの学士号と修士号を獲得後、Imperial College Londonにて理論物理学の修士号、Computer ScienceのPh.Dを取得。Tradeum、Unicorn Solutions、G.ho.st、Lightechといったハイテク企業を設立し、CEOを務める。2012年にFreightosを創業しCEOに就任、現職。

 Freightosはこうした問題を解決するためにAIを活用した、国際物流界の「Booking.com」のようなサービスを展開しています。

 当社のプラットフォーム上では、目的地別に物流業者をAIでリストアップし、輸送にかかる価格や時間を一目で比較検討できるほか、オンライン上の数ステップで物流業者間の契約を交わすことが可能なので、コストと時間を大幅に削減できるのです。また、輸送中の船や航空機をリアルタイムの追跡も可能です。

 当社は北米や欧州、オセアニア、中東、アジア諸国でサービスを展開し、顧客には大手物流企業のCEVA Logisticsや日本通運、Hellmann Worldwide Logisticsなど、世界の物流企業5000社以上がいます。

 特に空運には強みを持っています。40以上の航空会社と契約しているため、世界の航空輸送キャパシティの約半分以上をFreightosは有していると言えるでしょう。

 また、当社は「ドア・トゥ・ドア」に最適化した提案を行えるのも強みです。空運では、空港から空港へと輸送するだけでよいですが、空港が最寄りにない地域まで輸送するには、トラックなどによる陸運も必要となってきます。

 当社は多く海運・空運・陸運と、国際物流に関わる多くのプレイヤーと契約を結んでいるため、顧客にとって最適な輸送手段を提案することができるのです。

コスト・時間を大幅に削減 デジタル化の遅れを知り創業

――御社のプラットフォームを使った成功事例を教えてください。

 当社のプラットフォームを使うことで、見積書の作成にかかる時間を3日間から1分に削減した事例もあります。また、コストも平均して約10~20%削減しています。

 当社の成長は著しく、2022年第3四半期決算では、対前年同時期56%増の470万ドルの収益を計上しました。また、Freightosのプラットフォーム上で交わした取引数は同178%増の19万2000件と急速に伸びています。

 コロナ禍以降、逆風が吹いている空運業界にも顧客がいることを考えても、当社のサービスがこれからの国際物流において必要不可欠なものになっていると言えるでしょう。

――あらためてですが、連続起業家であるSchreiberさんがFreightosを創業した経緯を教えてください。

 私は長年、ソフトウェアエンジニアの起業家としての経験があります。とくに、2010年に創業したLightechはLED電池のパワーサプライを開発する企業で、CEOを務めていた頃に国際物流の課題に直面しました。

 当時、中国の深センで商品を製造していて、毎日北米や欧州に商品を送っていたのですが、顧客として、国際物流業界のデジタル化の遅れに愕然としました。LighttechはGE Lightingに売却したのですが、その時に感じた課題を解決するプラットフォームをつくれないかと考え、2012年にFreightosを創業しました。

Image: Freightos

――DXが待望されていた業界において、コロナ禍で追い風が吹いたと言えるのでしょうか。

 その通りです。物流業界はDXを必要としていた業界でコロナ禍でその重要性が顕在化したと言えるでしょう。

 私が当社を創業した10年前は、人々はFreightosのアイデアに懐疑的でしたが、現在はその必要性や提供する価値を疑う人はほとんどいません。また、業界全体としても、さまざまなカンファレンスなどでDXの必要性が叫ばれていることから、それに対する期待感は高まっていると感じます。

 Freightosは、国際物流の約50%のキャパシティをカバーする能力を有していますが、業界のデジタル空間上の取引は全体の約2%と、浸透しきっているとは言えません。

 しかし、Freightosの利用頻度は毎月成長しているため、5年後には業界全体の取引のうち、大部分がデジタルによるものになるでしょう。

Image: Freightos

なくてはならないインフラへ 日本通運やANAカーゴも採用

――日本の大企業と協業したいという考えはありますか?

 当社のプラットフォームは日本通運や、全日本空輸(ANA)グループの国際物流を担うANA Cargoといった、日本を代表する輸送業者に導入されています。しかし、貿易、輸出入業者との提携はまだで、彼らとは提携を結びたいと考えています。

 日本市場は巨大市場ですし、国際物流業界をターゲットとする当社にとっても大変重要な市場だと捉えています。

 海外企業にとって日本市場は保守的で難しい市場だと言われていますが、当社には日本を代表する企業である2社とのパートナーシップを結んでいますし、東京にはFreightosの従業員も働いているくらいです。今後も当社にとって日本市場は大事な市場という位置づけになっていくでしょう。

――日本の大企業との協業で求める形態を教えてください。

 日本通運やANAといった企業との関係性のように「対顧客」という形態がベストだと考えています。業界としては、空運・海運・陸運などの物流企業をはじめ、貿易会社なども候補として挙げられます。

 なぜR&Dなどの資本が絡む形態のパートナーシップを求めないかというと、それらはより複雑であるためです。当社が日本企業へさらに進出を深めたとき、初めてジョイントベンチャーや投資などの関係性が見えてくると思います。

――最後に、御社の長期的な目標を教えてください。

 国際物流のデジタル空間上の商取引において、なくてはならないインフラストラクチャを開発していきたいですね。



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