シンガポールでは、NUSを中心として国レベルで自動運転化とそれを踏まえたスマートシティを作るべく、研究と実践が行われている。この3年、シンガポールは国をあげた調査プロジェクトをナショナルレベルとしては初めて実施してきた。2020年12月までには公共バスを自動運転化する計画もあり、既にキャンパス内やガーデンバイザベイなど特定の施設内でゴルフカートタイプの乗り物などに乗客を乗せた実験が進んでいる。
自動運転車は搭載したセンサー、レーダー、カメラなどを駆使すれば、たとえば街路樹の裏側に隠れているバイクにまで配慮できるなど、人間の運転手以上の能力を兼ね備える可能性がある。狭い国土を効率的に使うためにも、都市計画そのものを自動運転化を踏まえたものにしていき、「未来型都市」の実現を構想している。
Lee氏は「今後、自動車というのは個人で所有するものではなく、もっと公共財としてシェアされるものになっていくでしょう」と語る。高齢化に直面しているのは日本もシンガポールも同じ。シンガポールは2015年には20-64歳の就労人口対65歳以上の高齢者の割合は5:1だったが、2030年には2:1になる見通し。運転ができない人も増えていくことが予想され「社会全体に利益をもたらす都市計画」が求められている。
Image: Ministry of Transport – Singapore
自動運転車は搭載したセンサーやGPSで、走るたびに周囲の環境についてのデータを収集することも可能にする。Lee氏が次の3~5年で目指すのは、「Mapless Navigation」。今は地図がないと動けないが、すべての自動運転車が情報を集め、自動運転車同士でコミュニケーションをとれれば、地図がないところにも進んでいけるようになるはずだという。
アビームコンサルティングの製造コンシューマビジネスビジネスユニットの轟木光シニアマネージャーは海外の自動運転業界について、「この領域で一番強いのは、中国。何と言っても人が多く、大量のデータを集められることができるため、情報量では誰も中国に勝てない。加えて政権の指示によって動ける強さもある。シンガポールも中国に似た側面があり、国がコントロールをうまくやっているので都市計画として進めやすく、島国なので領域指定もしやすい」と分析する。
今後は、自動運転車だけではなくすべてのサービスを統合したMaaS(Mobility as a Service)が主流になっていく。Lee氏は質問に対し、「こうしたMaaSでは様々な領域でのチャンスが広がる。既に日本のゲーム関連のスタートアップで連携している先もあり、日本企業とのコラボレーションも大いに歓迎」と応じた。