ハードウェア系スタートアップに特化したアクセラレータである「HAX」。中国・深圳(深セン)とシリコンバレーにオフィスを構え、スタートアップの成長をサポートしている。今回はFounder & Managing DirectorのCyril Ebersweiler氏とProgram ManagerのEthan Haigh氏のインタビューを3回に分けてお届けする。まず第1回目は、HAXがハードウェアに特化している理由、中国・深圳とシリコンバレーの2拠点を構えている背景などについて、Ethan Haigh氏に聞いた。

Ethan Haigh
HAX
Program Manager
2012年、ボストンカレッジ卒業。2016年よりSOSVのProgram Coordinator、HAXのProgram Managerを務める。

ハードウェア系スタートアップに特化するアクセラレータ

―HAXはハードウェアに特化したアクセラレータです。どんな領域に注力しているのですか。

 主に4つのカテゴリーがあります。まず「消費者向けプロダクト」、企業がデータ収集したり、より効率的に仕事を可能にするような「ビジネス向けプロダクト」、消費者向け・ビジネス向けの「ヘルスケアプロダクト」、そして人に取って代わって働いたり、作業を自動化してくれるロボットなどの「工業用プロダクト」です。私たちはスタートアップの株式の12〜15%と引き換えに、25万ドルの投資をしています。

Image: HAX

―HAXに参画するにはどんな条件がありますか。

 まずハードウェアスタートアップであることが必須条件で、一番大事なのはスタートアップのチームのクオリティです。次に大事なのがプロダクトです。もしスタートアップが良いチームを持ち、良いプロダクトを持っているならば、このアクセラレータに参加する機会があるでしょう。

 投資のステージで言えば、シード・アーリーステージのスタートアップが対象ですね。その多くがプロトタイプ(試作品)を製造している段階です。スタートアップがプロトタイプをすでに持っていることもありますが、彼らにはプロダクトをより開発するためのサポートが必要です。ですから、スタートアップは私たちのところへ来るのです。

 深圳には私たちのエンジニアチームが常駐し、製造からエレクトロニック、ロボティクス、インダストリアルデザインまでサポートします。私たちはスタートアップをさまざまな側面からサポートし、より早く彼らのプロトタイピング(試作)プロセスをサポートすることができます。開発期間はプロトタイプの複雑さにもよりますが、スタートアップは約4〜8ヶ月ものあいだ、私たちと時間を共にします。消費者向けのプロダクトは3〜4ヶ月ほどで、プロダクトがより複雑なロボットや大きな工業用マシンなどの工業製品であれば、もっと長い期間になります。

プログラムの参加倍率は20倍

―スタートアップは年に何社が参加しているのですか。

 HAXには年に約1000社のスタートアップから申し込みがあり、そのうち50社を受け入れています。倍率は20倍程度で、競争率はとても高いと言えます。スタートアップの所在地はどこでも構いません。スタートアップが条件さえクリアしていて、深圳とサンフランシスコで活動する意欲さえあれば、どこの国のスタートアップでも受け入れます。スタートアップの出身エリアの分布でいうと、アメリカが40%、カナダが10%、ヨーロッパが25%、そしてアジアが25%です。過去には南アフリカのスタートアップをサポートしたこともありますね。

―卒業したスタートアップで活躍している企業を教えてください。

 一番大きなスタートアップとしては中国の深圳をベースとしているMake Bluffです。彼らは5年前に私たちのプログラムに参加しました。彼らは教育玩具を製造しています。これは子供にどうロボットを組み立てるのか、どうコーディングをするのかを教えるものです。彼らは今、世界中に400〜500人の従業員を抱え、急速に成長しています。

 Particleというスタートアップもとても大きく成長しています。彼らはコネクトチップを開発しています。実はHAX出身の多くのスタートアップは、Particleの商品を使用しています。なぜなら、Particleのプロダクトを通して、自分たちのプロダクトの情報をセルラーネットワーク、Wi-Fiへと送り、データを収集するのに役立つからです。

Image: HAX

世界有数の試作開発スピードを誇る深圳

―HAXならではの強みを教えてください。

 やはり、ハードウェアスタートアップのみにフォーカスしている点です。私たちは他のアクセラレータでは提供できない、ハードウェアエキスパートならではのノウハウを提供できると考えています。

 もう一つは、私たちのオフィスが深圳にもあるという点です。深圳にオフィスがあるのは理由があります。それはスピードです。もしあなたがプロダクトを構築したいと思ったのであれば、深圳に行きたいと思うでしょう。プロトタイピングの点で言えば、深圳ではどこの国よりも、スピードが速いのが特徴です。HAXでの1ヶ月間は、プロトタイプ製造の1年または1年半と同じ価値があるでしょう。そして私たちは深圳の活用の仕方を知っています。私たちには多くのコネクションがあり、深圳で我々は製造業者を紹介することができるのです。

 スタートアップが深圳でのプロトタイプを終えると、資金調達と市場参入に向けて、サンフランシスコのオフィスへと移ります。私たちはサンフラシスコにあるVCや投資家とスタートアップを繋げ、次のラウンドの資金調達を支援します。私たちはアーリーステージの投資家なので、およそ10〜20万ドルの投資しかしないからです。私たちはスタートアップがより大きい資金調達をしてスケールするために、他の投資家へ紹介します。市場への参入もサンフランシスコでの大きな焦点の一つです。私たちはここで、さまざまなアドバイスをします。私たちはスタートアップのビジネスプランを支援し、ポテンシャルカスタマーを紹介するなど売上を伸ばすことにフォーカスしているのです。
中編に続く 



RELATED ARTICLES
【寄稿】DeepSeekの挑戦、「オープン×自主開発×エコシステム」の新潮流
【寄稿】DeepSeekの挑戦、「オープン×自主開発×エコシステム」の新潮流
【寄稿】DeepSeekの挑戦、「オープン×自主開発×エコシステム」の新潮流の詳細を見る
シリコンバレーの「キングメーカー」が語るAI時代 Y Combinatorのギャリー・タンCEOに単独取材
シリコンバレーの「キングメーカー」が語るAI時代 Y Combinatorのギャリー・タンCEOに単独取材
シリコンバレーの「キングメーカー」が語るAI時代 Y Combinatorのギャリー・タンCEOに単独取材の詳細を見る
ゼネラル・カタリストCEO単独取材・前編 「グローバルレジリエンス」が次の世界を創る
ゼネラル・カタリストCEO単独取材・前編 「グローバルレジリエンス」が次の世界を創る
ゼネラル・カタリストCEO単独取材・前編 「グローバルレジリエンス」が次の世界を創るの詳細を見る
【アンケート調査】日系VCが振り返る、2024年のスタートアップ投資動向
【アンケート調査】日系VCが振り返る、2024年のスタートアップ投資動向
【アンケート調査】日系VCが振り返る、2024年のスタートアップ投資動向の詳細を見る
ソフトバンクも出資するOurCrowdの全貌、「現地の目」でイスラエルのスタートアップを目利き
ソフトバンクも出資するOurCrowdの全貌、「現地の目」でイスラエルのスタートアップを目利き
ソフトバンクも出資するOurCrowdの全貌、「現地の目」でイスラエルのスタートアップを目利きの詳細を見る
日本のエコシステムの“呪い”を解く方法 Sozo Ventures創業者が人材養成機関を設立
日本のエコシステムの“呪い”を解く方法 Sozo Ventures創業者が人材養成機関を設立
日本のエコシステムの“呪い”を解く方法 Sozo Ventures創業者が人材養成機関を設立の詳細を見る

NEWSLETTER

TECHBLITZの情報を逃さずチェック!
ニュースレター登録で
「イノベーション創出のための本質的思考・戦略論・実践論」
を今すぐ入手!

Follow

探すのは、
日本のスタートアップだけじゃない
成長産業に特化した調査プラットフォーム
BLITZ Portal

Copyright © 2025 Ishin Co., Ltd. All Rights Reserved.