WAIC2025とWRC2025の会場の様子 image : WAIC&WRC公式および匠新撮影の写真などを元に匠新が加工
「南の上海にWAIC(世界人工知能大会)、北の北京にWRC(世界ロボット大会)」。2025年7月から8月にかけ間髪入れずに開催された2つの中国大型テクノロジー展覧会。その注目度や重要性は、国内外で過去最高潮に到達した。本稿では、それら2つの展覧会の展示概要を漏らさずカバーすると同時に、それらから読み取れる中国のAIとロボットのトレンドについても、弊社のWAIC+WRC 2025 特集レポートの内容を元に、紙幅の許す限り紹介したい。

※TECHBLITZのコンテンツパートナーであるジャンシン(匠新)の協力で、中国テック企業の最新動向を紹介します。

目次
世界人工知能大会2025の位置づけと展示概要・ポイント
展示エリアの構成と見どころ
世界人工知能大会2025から見る中国最新AI+αトレンド
世界ロボット大会2025の位置づけと展示概要・ポイント
世界ロボット大会2025から見る中国最新AI+αトレンド

世界人工知能大会2025の位置づけと展示概要・ポイント

 まずは、WAICから紹介。巷では、中国版CESとも呼ばれてきた。本家のCESと比較し、中国政府主導で国家戦略、グローバル展開、技術展示、産業交流に重点を置く展覧会で、中国のAI産業エコシステム構築とその国際連携において、重要な役割を近年果たしている。

WAICとその他世界主要AI関連展覧会の比較分析 image : 各大会の直近の公式情報を元に、匠新が比較

 2025年のWAICはいわば、国家承認のトップ展覧会兼AI学術産業交流プラットフォームとして、中国のAI戦略と国際影響力を示す中心的なイベントへと昇格。また、中国国務院首相である李強(リー・チャン)氏が昨年に引き続き、グローバルAIガバナンス構築を呼びかけていることから、世界におけるAIのルール形成において、主導権を握ろうとしていることが分かった。

 会場は大きく分けて、カンファレンスと展覧会に分かれる。カンファレンスでは、73カ国・地域から1,572人以上が参加。12人のノーベル賞やチューリング賞などの受賞者や80名以上の院士(アカデミー会員)、215名の産業におけるリーダー的人物も出席。展覧会では、800社の3,000点超の製品・ソリューションが展示された。

WAIC 2025のカンファレンス(左)と展示会(右)の様子 image : WAIC公式情報および匠新の現場における情報整理

展示エリアの構成と見どころ

 そのうち展覧会は、以下の3つの展示ブースに分かれる。

1階:コア技術展示エリアと業界応用型AI展示エリア

 会場1階は、コア技術展示エリアと業界応用型AI展示エリアに分けて設置。そのうち、コア技術展示エリアでは、大規模AIモデルが依然として主役であった一方で、注目の的は「パラメータ数の規模」から「実際の導入・活用能力」へと移行。このエリアでは、華為(Huawei)、阿里巴巴(Alibaba)、稀宇科技(MiniMax)、月之暗面(Moonshot AI)などが出展。これら企業の戦略は、「AIモデル自体を語る」から「AIモデルの実際の導入を語る」へと変化しており、より現実的かつ地に足がついた選択をし始めている。つまり、大規模AIモデルはもはや汎用プラットフォームだけではなく、そこから特定業界向けの専門能力をパッケージ化した存在としての一面も帯びつつある。

コア技術展示エリアの様子 image : WAIC公式情報および匠新の現場における情報整理

2階:スマートデバイス・ロボット展示

 会場2階では、スマートデバイスと名を歌い、ロボットを代表とするハードウェアを展示。中でも、ロボットの知能の発展は大きく進み、ほぼ応用段階に入ったと言える。昨年は18社だったロボット企業の出展が、今年は80社を超え、国内最大規模の人型ロボットの集結となった。例えば、中国4足歩行ロボット・人型ロボット企業で、浙江省杭州市を代表するスタートアップの1社「UNITREE」のブースは同会場の中でも最も賑わったブースの1つとなった。2体の同社人型ロボット「G1」が、プロ仕様のグローブとヘルメットを着け、ブース内で激しいボクシング対決を披露。スマートなバランス制御アルゴリズムとハード・ソフトが高度に連携したリアルタイム制御により、 連続パンチや回し蹴りをこなし、倒れても素早く起き上がる高い運動能力を見せた。

UNITREEの人型ロボットがボクシングをする様子 image : WAIC公式

地下1階:Future TechおよびWAIC CONNECT

 そして、会場地下1階では、「Future Tech」と「WAIC CONNECT」という2つのエリアが同時に設置された。前者はクリエイティビティに溢れるスタートアップを高密度で並べ、後者はそれを実社会での導入へとつなげる商談の場として機能。スタートアップによる熱気あふれるピッチと、導入を見据えた冷静な商談が同時に進行。若手AI起業家クリエイターと業界バイヤーが交わり、活気あふれるビジネスマッチングの様子が見られた。

 その会場地下1階の「Future Tech」エリアでは、若きテクノロジーが主役となり、世界中のスタートアップが集結。世界各地から200社以上のAI系スタートアップが集まり、AIGC、AI Agent、エンボディドAI、AI for Science、AI×製造業など、最先端分野の想像力の豊かさを見せつけた。参加プロジェクトおよび企業の約70%は設立から3年未満で、創業者の50%以上が90年生まれ。次世代のイノベーターたちが主役となった。

「Future Tech」エリアは若きテクノロジーを主役に、世界中のスタートアップが集結。3つの主要ステージが時間帯ごとに入れ替えで実施。 image : WAIC公式

世界人工知能大会2025から見る中国最新AI+αトレンド

 今回のWAICを通じて、弊社は中国の最新AI+αトレンドを抽出。そのうち、以下では3つを紹介する。

1. 中国AIの地政学的地位向上

 1つ目は、中国AIの地政学的地位向上だ。それを代表する動きとしてあったのが、上海市を本部とする世界人工知能協力機構(WACO)の設立の提唱だ。この動きは、グローバルAIガバナンスの枠組みを構築しようとしていることを物語っていると言える。WAICの開催地であり続けてきた上海市は、AI企業数、産業規模、人材数量が2018年から3倍増加を記録。2025年第1四半期のAI産業規模は1,180億元(約2兆4,600億円)で、前年比29%増加を示す。同時に、上海人工知能実験室(SAIC)は、中国独自のAI安全基準を清華大学などと共同提唱している。

上海人工知能実験室(SAIC)などが『中国AI安全コミットメントフレームワーク』を共同提唱する様子 image : WAIC公式

2. スタートアップによる「小さくかつ精緻」な進化とその多大な影響力

 2つ目は、スタートアップによる「小さくかつ精緻」な進化とその計り知れない影響力だ。AIモデルはその種類が多様化し、推論性能向上とコンピューティングコストの低減が焦点となっている。その中で、最も影響力のあるAI六小強(中国の代表的な大規模AIモデルスタートアップ6社)のうち4社(Zhipu.AI、Moonshot AI、MiniMax、STEPFUN)がWAICに参加し、多点突破戦略(複数の業界向けにソフト・ハード製品を展開)。一方で、BAICHUAN AIと01.AIは不参加となり、一点突破戦略(特定の1つの業界向けにソフト製品を展開)を採用。そのほか、非Transformerアーキテクチャが注目され、RWKVやRockAIといったスタートアップが画期的な取り組みを発表。推論コストが現在の水準よりも1桁低下する可能性が示唆されている。

「AI六小強」のうち今回のWAICでは4社が出展 image : WAIC公式情報などに基づき匠新が加工

3. 消費者向けで盛り上がり、企業向けで位置づけ変化

 3つ目は、「toCで盛り上がり、toBで位置づけ変化」だ。AI Agentは消費者向けでより大きな盛り上がりを見せている一方で、企業向けでは「新たなインフラ」と位置づける動きも見られている。その中で注目したい応用方向は、製造業と科学研究。製造業では、「黒湖科技(Black Lake)」の製造業向けAI Agentで、2025年世界経済フォーラムによる世界18のAI産業化ベンチマークプロジェクトとして選出されている。科学研究では、政府や高等教育機関向けに強みのある「深勢科技(DP Technology)」が科学研究向けAI Agent「SciMaster」をWAIC期間中に発表。そのほか、中国企業の海外進出を支援するAI Agent(Specific AI、Tec-Do2.0のNavos)が大きな注目を集めた。

WEF(世界経済フォーラム) MINDSのHP上で紹介される「黒湖科技(Black Lake)」の製造業向けAI Agent image : WEF公式より匠新が加工

世界ロボット大会2025の位置づけと展示概要・ポイント

 中国最大のロボット業界の祭典とも言えるのがWRC。2015年の初開催以来10回を数え、その展示およびイベント内容は、単調・単一だったものから多様化、参加者も中国国内からグローバルへと拡大。同時に、第1回ではわずか6つのロボット関連国際組織によるスポンサー数に止まっていたのが、25年の第10回では28の国際機関まで増加。これらの点から、国際的な影響力の持続的な向上が見て取れる。そのテーマは、ロボット技術の単純な機能の実装実現から、スマート化・人間と同様の動作環境で動けるようにしていく趨勢を示している。

 展示内容は、産業用、サービス、そして特殊用途ロボットの展示が中心だった過去と比較し、人型ロボット、ロボットの応用シーン拡大、技術的突破、新製品初公開などに重点が移行。出展企業数は100社未満から2025年には200社以上、展示数は数100点から1,500点以上、新製品初公開数は数点から100点以上へと増加している。

 2025年のWRCの会場は大きく分けて、カンファレンス、展覧会、コンテスト(WRCC)に分かれる。そのうち展覧会では、ABB、KUKA、Festoといった国外企業のほか、埃斯頓(ESTUN)、宇樹科技(UNITREE)、銀河通用(GALBOT)、中信重工(CITIC HEAVY INDUSTRIES)などの中国国内企業を含め、ロボット企業220社、そのうち50社以上の人型ロボットメーカーが集結。会場では、1500点以上の展示品や100種類以上の新製品が初公開され、展示面積は5万平方メートルに及んだ。

WRC 2025のカンファレンス(左)と展示会(右)の様子 image : WRC公式

世界ロボット大会2025から見る中国最新AI+αトレンド

 今回のWRCを通じて、弊社は中国の最新ロボット+αトレンドを抽出。そのうち、以下では2つを紹介する。

1. 人型ロボットの価格低下と応用実装の拡大

 1つ目は、人型ロボットの価格低下と長い目で見た応用実装だ。中国では、人型ロボットの価格が顕著に低下し、同時に商業化が本格化。UNITREEの「R1」は3.99万元(約83万円)からで、開発におけるカスタマイズ対応やマルチモーダルAIの統合を実現。今後短期的にはハードウェアのコスト削減に焦点が当たる。

UNITREEの人型ロボット「R1」 image : UNITREE公式

 一方で、中期的にはデータエンジニアリング方式の変化に注目するべきだと言える。例えば、最も優れた方式は、高品質データ(現実世界において実機の操作を通じて得られた1万時間分におよぶ実機操作データ)の活用なのか、それとも合成データの活用なのかだ。そして長期的には、VLAモデル(視覚と言語のマルチモーダルに由来し、本質的には言語を中核とすることで、論理的推論と計画を重視するAIモデル)と世界モデル(動画生成に由来し、3次元物理空間における予測と因果推論をより重視するAIモデル)の優劣が焦点となりうる。応用実装は端的に言えば、「まず職場へ、その後家庭へ」と普及することが見込まれる。例えば、薬局における荷物・商品運搬など明確なタスク実行環境下での実装が先行していく。

2. 異色のスタートアップ、智元机器人(AGIBOT)

 2つ目は、智元机器人(AGIBOT)という異色の存在だ。AGIBOTはまさに華為(Huawei)のような大企業経営スタイルを採用する異色のスタートアップ。2023年2月に設立されたスタートアップながら、2025年8月までに12社のその他スタートアップに直接投資を実施。同時に、上場企業8社とほぼ月1社のペースで合弁会社を設立。ロボット本体からAIシステムまでの全要素をカバーするエコシステム戦略を展開している。その背景では、華為(Huawei)出身のメンバーがノウハウを活かし、迅速に大企業化しながらその他スタートアップを孵化し、産業全体の成長を促進していることが伺える。

AGIBOTの対企業直接投資の一覧 image : IT桔子



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