※TECHBLITZのコンテンツパートナーであるジャンシン(匠新)の協力で、中国を代表する巨大テック企業4社(Baidu、Alibaba、Tencent、Huawei)をはじめとする中国テック企業の最新動向を紹介する。
目次
・共同開発車発表!ファーウェイが自動車事業で見せた本気
・テンセント 宇宙線で文化遺産をスキャンし、イメージング
・バイドゥ 生成AIを組み込むユーザー支援ツールをブラウザー上に提供
・デスクスタンドがロボットに!?子供の姿勢や集中力をモニタリング
共同開発車発表!ファーウェイが自動車事業で見せた本気
広州モーターショーで設置された鴻蒙智行(HIMA)のブース image: HIMA
ファーウェイは、自社で自動車を製造しないことを大前提としながら、自動車業界向けに3つのビジネスモデルを用意してきた。1つ目は高性能センサー「LiDAR(ライダー)」やAR(拡張現実)ヘッドアップディスプレー(AR-HUD)などの自動車部品を提供するモデル、2つ目は自動車企業との共同開発を通じて、自動運転ソフトウエアやスマートカーフルスタック(領域横断)ソリューションを提供する「Huawei Inside(HI)」モデル、そして3つ目は、自動車メーカーがつくる完成車自体のコンセプト定義や設計に深く参画し、共同で設計・開発した完成車をファーウェイの販売チャネルを通じて販売する「智選(直訳で、スマートセレクション)」モデルだ。
これらのビジネスモデルの中で、中国広東省広州市で開催された広州国際自動車展覧会(広州モーターショー)の直前から大きな動きがあったのが、「智選」モデルだ。ファーウェイは2023年11月9日、このモデルを鴻蒙智行(HIMA)という略称に変更することを発表している。
鴻蒙智行のロゴ image: HIMA
鴻蒙智行は、スマート運転システムやスマートコックピット、OS(基本ソフトウエア)、通信&コンピューティングプラットフォーム、完成車デザイン、品質管理、そして販売チャネルの運営から着手し、自動車メーカーに技術面でのサポートを提供していく。
鴻蒙智行は、現在までに2社の自動車メーカーと連携し、合計4種類の車種を発表している。それぞれ、中国自動車中堅の賽力斯集団(セレス・グループ)との共同ブランド「問界汽車(AITO)」のSUV「M5」「M7」「M9」、そして中国自動車大手「奇瑞汽車(CHERY)」との共同ブランド「智界汽車(Luxceed)」のセダン「S7」だ。
問界汽車が初めてモーターショーの場で披露したのが、「M9」だ。「M9」は、ファーウェイのスマートカーフルスタック技術ソリューションを採用して設計されている。問界汽車の車種の中でも最高レベルのスマートコックピットとスマート運転体験を楽しめるだけでなく、スマートシャーシ「途霊(トゥーリン)」、スマート車載ライト、そして自社の大規模AIモデル「盤古大模型(パングー)」などのテクノロジーを駆使している。23年12⽉26日に発表会を実施し、その正式販売を開始している。
問界汽車(AITO)のSUV「M9」 image: 36Kr
そして、今回最も大きな注目を集めたのが、ブランド初のセダンである智界汽車の「S7」だ。「S7」は大きな車内空間を特徴とするセダンとして位置付けられている。デザインの面では、問界汽車の「M9」と似たファミリー向けの設計が施されていると同時に、快適でゆとりのある車内空間と、まるでスーパーカーに匹敵する走行性能を提供可能だ。「S7」の予約販売価格は25万8000元(約534万円)で、23年11月9日に予約を開始して以来、予約数は1万台を突破している。
智界汽車(Luxceed)のセダン「S7」 image: HIMA
ファーウェイは今後、スマートコネクテッドカーのスマート運転システムと部品の研究開発、生産、販売、そしてアフターサービスに焦点を当てた新会社を設立することを発表した。併せて、同社は23年11月25日、中国自動車大手の「長安汽車(CHANGAN AUTO)」と、投資連携関係も締結。両社が交わした投資連携に関する覚書によれば、ファーウェイはスマート自動車ソリューション事業のコア技術とリソースを新会社に移管する。加えて、長安汽車およびその関連先企業からの投資を受けることで、ファーウェイと共同で新会社の事業を推進していくという。
ファーウェイが長安汽車と開催した投資連携覚書調印式の様子 image: CHANGAN AUTO
テンセント 宇宙線で文化遺産をスキャンし、イメージング
陝西省西安市にある「西安城壁」を対象としたCTによる内部のイメージング効果図 image: Tencent
テンセントは2023年12月4日、宇宙線(宇宙空間を飛び交う放射線)を利用したCT(コンピュータ断層撮影)技術を通じて、中国にある世界文化遺産を予防保全していくという取り組みの進捗について発表した。この取り組みは、テンセントのSSV(持続可能社会価値事業部)数字文化(直訳で、デジタルカルチャー)実験室と社会科学研究機関「騰訊研究院(Tencent Research Institute)」が推進する「探元計画2023」に基づくものだ。
23年のこの計画では、研究活動を主とした20年の取り組みや、技術イノベーションの事例募集とその選評に重きを置いていた22年の取り組みとは異なり、ピッチイベントや討論会を通じて、技術を持つ企業同士が交流し合うプラットフォームを構築することに重きが置かれた。プラットフォーム上で革新的な技術ソリューションを共創し、文化財産業の実際の課題にアプローチしていくことまでをカバーしている。
「探元計画2023」のキックオフイベントの様子 image: Tencent
今回は、「探元計画2023」を進めていく中で注目を集めた蘭州大学の希少同位体最前線科学センターが開発する、ミューオン(宇宙線の1種)を応用したイメージング技術について取り上げる。
ミューオンの寿命は約2.2マイクロ秒と非常に短いものの、そのエネルギー値は高く、地球の大気圏や地球表面の岩などの分厚い物質を透過することができる。蘭州大学のイメージング技術は、大型文化遺産の透過探査を行うことが可能だ。また、環境に優しく安全なのも大きな特徴だ。遺跡を破壊して探査する必要がなく、しかも高い探査精度を保証できる。
この技術を利用したいわゆる「CT」ソリューションは、陝西省西安市にある「西安城壁」を対象に、既にその効果を検証している。その中で、西安城壁の中に潜んでいる損傷を正確に探査することに成功。探査画像に映っているレゴのようなオレンジ色の粒子の塊がまさに密度に異常を来たしている箇所を示しており、この2カ所に問題があることを意味している。
一方で、低密度領域であることを示す青い粒子が映っている箇所は、現場の様子と照らし合わせた結果、配電室が設置されている場所であることが、探査実施後に分かっている。
「西安城壁」58号の周辺に66カ所の測量箇所を設置し、探査を実施 image: Tencent
このように、「CT」ソリューションは正確に異常箇所を照らし出し、その位置、形状、大きさを比較的明確に再現できる。今後、文化遺産を保全する専門家は、同ソリューションを通じて問題箇所個所を素早く発見し、かつその状況に応じて適切な修繕措置を施すことができるようになる。加えて、探査と修繕に必要となる人的および経済的コストも削減することが可能となる。
テンセントの「探元計画2023」チームは、同ソリューションの存在について認知した後、蘭州大学と雲岡石窟の共同プロジェクトグループ「CP」の支援を開始。「CT」ソリューションを通じて、文化遺産の修復において発生している問題の解決策を共同で模索している。将来は、山西省大同市にある世界文化遺産「雲岡石窟」だけでなく、全国の石窟寺院に対してもそのまま適用していく他、その他の大遺跡、鉱物探査、トンネル監視、氷河測定などの分野にも普及を進め、より大きな価値を発揮していく考えだ。
「雲岡石窟」の仏像(左)とその仏像が長い年月を経て、非常に脆弱な状態にある様子(右) image: Tencent
バイドゥ 生成AIを組み込むユーザー支援ツールをブラウザー上に提供
アプリケーション「超級助理(スーパーアシスタント)」のイメージ image: Baidu
バイドゥAIクラウドは2023年12月4日、自社の生成AIを用いた対話プロダクト「文心一言(ERNIE Bot)」を基盤として開発したAIアプリケーション「超級助理(スーパーアシスタント)」を発表し、一般ユーザー向けの公開テストを開始した。このスーパーアシスタントは、中国国内初の、大規模AIモデルを基盤とするオフィスシーン向けに特化したウェブブラウザーのプラグイン(拡張機能)となっている。
このプラグインは、米グーグルが提供するウェブブラウザー「Chrome(クローム)」や米マイクロソフトが提供するウェブブラウザー「Edge」、そして中国のインターネットセキュリティー企業「360」が提供するウェブブラウザー「360瀏覧器」のアプリケーションストアで直接中国語の「超級助理(スーパーアシスタント)」と検索することで、インストール可能だ。
今回は、スーパーアシスタントの数ある利用方法の中でも、バイドゥAIクラウドが取り上げている3つの実用シーンについて取り上げる。
1つ目は、求職活動のときや新しい職場に入社したときだ。とりわけ、求職活動のときには、ユーザーが自身の履歴書をアップロードしたのちに、スーパーアシスタントは履歴書に掲載されている経歴を分析し、履歴書の修正についてアドバイスを提供。履歴書の内容の書き換えや修正も行える。また、履歴書を人事担当者に送付する前に、スーパーアシスタントが企業情報を理解して、ユーザーにとってより適した企業を探すこともできる。最後に、面接時にユーザーが面接官から尋ねられる問題を予測して、求職の成功率を高めるサポートをする。
スーパーアシスタントがユーザーの履歴書を最適化する様子(左)と、面接官から尋ねられる問題を予測し、表示する様子(右) image: Baidu
2つ目は、マーケティングのための市場調査だ。市場調査を行う際、マーケティング戦略を策定するため、異なる情報プラットフォームで業界研究リポートを探し、市場データと市場内の競争状況を分析するのが得策。そこで、スーパーアシスタントは、ユーザーの代わりに業界研究リポートの重要な情報を効率的に解読。市場の状況を深く理解することで、ユーザーがさらに精度の高いマーケティング戦略を練ることをサポートしてくれる。
スーパーアシスタントが、論文のある段落の内容を要約する様子 image: Baidu
デスクスタンドがロボットに!?子供の姿勢や集中力をモニタリング
スマートデスクスタンド「元蘿蔔光翼灯」の発表会の様子 image: 甲子発現
センスタイムが2024年1月3日に発表したスマートデスクスタンド「元蘿蔔光翼灯」は、同社傘下の家庭向けサービスロボットブランド「元蘿蔔SenseRobot(センスロボット)」において、1つ目の製品であるAI中国将棋ロボット、2つ目の製品であるAI囲碁ロボットに続く、3つ目のAIハードウエア製品だ。ただ、公式販売価格は1699元(約3万4660円)と、従来のデスクスタンドの価格帯と比較した場合、決して安くはない。高めの値段設定の背景では、いわゆるスマートな機能が搭載されていることが関係している。そのスマートな機能の特徴を大きく2つに分けて紹介したい。
スマートデスクスタンドを使って子供が学習を行うイメージ image: SenseTime
1つは、フルスペクトル光(赤外線から近紫外までの電磁スペクトルのすべての波長をカバーする光、または植物や動物の生命に役立つ光)と自動調光機能により、子供の視力を自律的に守ることができることだ。
学齢期の子供が長時間にわたり目を使うのは、主に読書や宿題をするといった場面になる。そこで、センスタイムのデスクスタンドは、高品質の光源と独特の翼の形をモチーフとした設計で、子供の目の健康を守り、近視の発症を未然に防止することができる。
スマートデスクスタンドは、高品質の光源と独特の翼の形をモチーフとした設計が施されている image: SenseTime
もう1つの大きな特徴は、デスクスタンドに搭載されているAIが、子供の座る姿勢や集中力をモニタリングし、子供が学習に集中できるようにしていることだ。センスタイムのデスクスタンドは、AIによる視覚技術を組み合わせることで、大人がつきっきりで付き添わなくても、多次元的に子供の健康的な成長を保証することができる。
デスクスタンドに搭載されているAIは、子供の姿勢や集中力をモニタリングするために、主に3つの機能を有する。
1つ目は、AIが、人体の関節点に基づく「座り方分析」を通じて、10種類の座り方を正確に識別し、子供に対して座り方に関する注意を喚起することができる。その分析と識別の精度は、95%以上に達するという。例えば、子供が左傾、右傾、前傾などの不健康な座り方をしている際には、音声で注意し、子供に座り方を正すように促す。
スマートデスクスタンドは、子供の座り方を正確に識別することができる image: SenseTime
2つ目は、AIが日報および週報を自動的に生成し、子供の集中力の推移や座っている姿勢の変化に関するデータを示すことで、保護者が子供の学習状態を全面的かつ便利に観察できるようにしている。同時に、子供に適時、休むように音声で促すことで、学習と休息のバランスを取ることもできる。
スマートデスクスタンドのAIが生成した日報および週報を通じて、保護者が子供の学習状態を観察するイメージ image: SenseTime
3つ目は、AIが光源の方向を読書中の本の動きに合わせて調整することで、最適な読書位置を明るく照らし、まるで映画館で見られるような、画面に没入するような雰囲気を醸し出すことができる。これにより、子供を即時に学習状態に移行させ、集中力を養うことにつながる。
スマートデスクスタンドのAIが、子供が絵描きの作業を行っている位置を明るく照らしているイメージ image: SenseTime
センスタイムは、今回開催したスマートデスクスタンドの発表と同時に、教育一体機と教育システム、そして複数台の家庭向けのAI囲碁ロボットおよびサーバーから構成される「センスロボット 囲碁スマート教室」も発表した。スマートワンストップ式囲碁教育システムを構築することで、囲碁の教育と学習の全方位にわたるAI化を実現している。
また、そのAI囲碁ロボットは、既に海外市場にも進出している。そのうちの1つが、日本だ。センスタイムは23年12月27日、日本の囲碁向けにカスタイマイズしたAI囲碁ロボットで日本市場に進出したことを発表。AI囲碁ロボットは24年1月5日、日本各地の囲碁会所や囲碁教室のほか、百貨店の高島屋、米アマゾン・ドット・コムなどで販売され始めた。日本の囲碁関連の機関と囲碁に親しむ多くの家庭に進出していく見込みだ。
東京都で開催されたセンスタイムのAI囲碁ロボット製品発表会の様子 image: SenseTime
筆者紹介