TECHBLITZのコンテンツパートナーであるジャンシン(匠新)が発行した「中国モビリティトレンドレポート」。今回は、そのレポート内の中国自動車業界全体動向から、乗用車と商用車のそれぞれの動向と先進事例までを解説する。中国は、政府による自動車業界のアップグレードを目的とした強力な政策支援から、自動車のスマート化と電動化に関わる先端技術への資金調達(投資)、そして自動車産業チェーンの継続的な強化による優れたサプライヤーの出現などにより、自動車大国として急成長している。この傾向は、商用車でも露わになり始めている。中には、宇宙産業に進出し、衛星を内製化する自動車企業が出現している点も必見だ。

※TECHBLITZのコンテンツパートナーであるジャンシン(匠新)の協力で、中国モビリティ領域の最新動向に関するインサイトを紹介する。

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田中 年一(たなか としかず)
日中でのスタートアップおよびイノベーション共創を推進するアクセラレーター「ジャンシン(匠新)」の創業者。2015年に上海でジャンシンを立ち上げ、2018年には深センと東京にも拠点を設立。

2013年の独立以前はデロイトトーマツ東京/上海にてM&Aや投資コンサル、ベンチャー支援、IPO支援、上場企業監査等の業務に従事。新卒ではHewlett Packardでエンジニア職に就き、ITのバックグランドも有する。上海に多大なる貢献をしたと評価される外国人に対して表彰される賞「白玉蘭記念賞」を2019年に受賞。

東京大学工学部航空宇宙工学科卒、米国公認会計士、中国公認会計士科目合格(会計、税務)、中国ファンド従事者資格合格。

朱 真明(しゅ まさあき)
「ジャンシン(匠新)」のマネージャー/アナリスト。中国国内で進むイノベーション動向を各業界トレンドからエコシステム事情、ベンチャー投資、スタートアップ、中国大手IT企業4強のBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、フアーウェイ)などの最新動向から調査・分析をする。日本生まれ日本育ちの中国人。上海理工大学材料工学科本科卒。1年間のインターンを経て2017年に匠新へ入社。

齋藤 慶太(さいとう けいた)
「ジャンシン(匠新)」のアソシエイト/アナリスト。中国エコシステム事情や中国の各業界のトレンドとスタートアップ、BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)の最新情報などについて調査/分析を担当。2018年9月より北京大学および上海復旦大学に計1年半留学し、留学期間中に匠新でインターンを経験、その後複数社のインターンを経て21年に入社。神戸大学経済学部中国経済専攻卒業。

中国自動車業界の全体動向

深セン市の自動運転道路試験&応用データ監視制御センターの様子
Image:広東省深セン市

 まずは、中国自動車業界を対象とした政策動向から見ていきたい。注目したい動向の1つとして、スマートシティとコネクテッドカーの相互補完的なインフラ整備に中国各地で力を入れている点がある。2021年の5月に複数の政府部門から「スマートシティインフラ及びスマートコネクテッドカーのコラボ発展推進試験業務通知」が発表されて以来、スマートシティのインフラとスマートコネクテッドカーの共同開発の促進を目的として、中国全土から合計16の都市を段階的に試験地区として選出された。

 その中でも、広東省深セン市は2022年6月、中国国内初のスマートコネクテッドカー関連地方条例を発表し、同年8月1日にその施行を開始した。市内では、あらゆるシーンにおける「レベル3」(条件付き自動運転、システム監視下での自動パイロットの実現など)自動運転への対応を実現していく方針だ。

上海国際汽車城で開始されたモデル体験地区プロジェクト「無人之境(直訳で、無人の境地)」の様子
Image:上海国際汽車城、上海嘉定区

 もう1つ注目するべきなのは、無人運転の一般向け応用普及の促進を最終的な目的とした活動の活発化だ。その活動の1つとして、上海市嘉定区の安亭上海国際汽車城では2022年9月27日、モデル体験地区プロジェクト「無人之境(直訳で、無人の境地)」を正式に開始した。

 同地区では、ロボタクシーによる無人走行から無人清掃、無人配送、無人販売など多業種の無人化応用シーンを実装。会場では、国営自動車大手「上海汽車(SAIC)」や中国インターネット検索最大手の「百度(バイドゥ)」などの企業が、自社の自動運転製品を展示した。この取り組みにより、企業及び消費者を対象とし、無人運転の一般向け応用シーンの創出とその普及を目的とした試みを行っていく予定だ。

2021年中国自動車業界の3大領域における投資件数及び投資金額(左部)と投資ステージの内訳(右部)
Image:億欧数据/億欧智庫、ジャンシン(匠新)が整理

 次に直近の投資動向について見てみる。中国業界研究プラットフォーム「億欧智庫(EO Intelligence)」によれば、中国自動車業界の主要投資対象領域として、「自動運転」「主要スマート部品」「スマートコックピット/コネクション」の3つが挙げられている。

 その3大領域における投資規模は2021年に、過去最高レベルに成長。合計投資件数は171件、合計投資金額は741億7000万元に達している。そのうち、自動運転での投資金額が最多の407億4000万元。その中で、自動運転と主要スマート化部品の領域では、平均して50%以上の投資がシードステージからミドルステージの初期の段階に分布している。

 これら3大領域においては、多くの関連新興企業の登場により、車両技術提携産業領域が徐々に拡大し、さらに細分化された領域が生まれている。技術に対する投資の観点から見た場合、自動運転領域の発展空間は、レベル5(あらゆる条件下での完全自動運転が可能)を最終的なベンチマークとして、依然として大きいことが見込まれる。

中国スマート電気自動車販売量とその普及率(単位:万台)
Image:中国汽車工業協会、億欧智庫、ジャンシン(匠新)が整理

 中国自動車業界において、現在最も勢いのある自動車のタイプは、従来型自動車のスマート化・電動化を進めたスマート電気自動車といわれるものだ。

 近年、政府による政策を背景として、スマート電気自動車の産業チェーンと技術が発展。同時に、消費者間の人気・高級意欲の上昇も重なり、スマート電気自動車は普及率を大幅に拡大している。実際に、中国におけるスマート電気自動車の販売台数は、2019年の17万台から2021年の133万3000台へと飛躍的に上昇。億欧智庫によれば、2025年にはスマート電気自動車の普及率が新エネルギー車のうちの61.7%を占めるようになると予測されている。

 ここからは、現在の中国自動車業界の発展トレンドに基づき、乗用車と商用車に分けて解説していく。

中国乗用車の動向

中国市場における各種ブランド乗用車の販売量内訳推移(単位:万台)
Image:中国乗聯会、億欧智庫、ジャンシン(匠新)が整理

 中国の乗用車販売台数は2018年に減少して以来、2020年には1929万2000台と近年で最も低い水準に低下。しかし、カーボンニュートラル加速を主旨とした中国の国家戦略が1つの要因として功を奏し、2021年の自動車販売台数は2014万6000台まで回復している。

 また、中国の自動車産業が急速なスピードでスマート化・電動化に向かう中で、国内自社ブランドの販売が増加し、徐々にシェアを獲得。2021年には中国国内自社ブランド乗用車の販売が大幅に増加し、年間総販売台数に占める割合は41.2%と、2020年に比べて5.4%増加している。この国内自社ブランドの販売台数の増加は、中国の消費者の間における国内自社ブランドの人気度が上昇しつつあると同時に、中国の自動車産業が独自の発展を遂げていることを示すと考えられる。

中国ICT巨大企業の新型サプライヤー産業における状況
 Image:億欧智庫、ジャンシン(匠新)が整理

 次に、自動車業界における4大テックジャイアント「BATH」の動向にも触れておきたい。実はBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)は各々の強みを生かし、自動車企業の重要な開発チャネルとして、主要自動車企業と提携。ポイントは、お互いに注力コア領域の差別化を図りながら、各種自動車企業の技術提携パートナーとしてエコシステムに食い込んでいることだ。レポートの中では、これら4社の中からバイドゥと中国通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の2社を取り上げており、詳細についてはそちらを参照されたい。

2022 Q1中国スマート電気自動車企業別販売台数トップ15(単位:万台、左部)と中国3大スマート電気自動車「蔚小理」の納入台数(単位:万台、右部)
Image:乗聯会、上険数、億欧智庫、中国乗聯会、21世纪新汽車研究院、ジャンシン(匠新)が整理

 次に、2022年第1四半期の中国スマート電気自動車の動向販売台数を見ると、米電気自動車大手「TESLA(テスラ)」が31%と、約3分の1のシェアを占めている。その後を追うのが、電気自動車大手「比亜迪(BYD)」と中国国有自動車大手傘下のブランド「広汽埃安(AION)」、そして中国3大スマート電気自動車企業「蔚小理(蔚来汽⾞、⼩鵬汽⾞、理想汽⾞の頭文字からなる総称)」だ。これら3社に代表される自動車メーカーの納入台数は2021年から高水準を維持しており、国内自社ブランドのシェアが急速に伸びている要因の1つだと考えられる。

 また、「蔚小理」を追うのが、同じく新興スマート電気自動車企業の「哪吒汽⾞(NETA)」。哪吒汽⾞は、2022年第1四半期の販売台数では、「蔚来汽⾞(NIO)」を追い抜き、「⼩鵬汽⾞(Xpeng)」、「理想汽⾞(Li Auto)」の後をつけている。同社最新動向については、後述する。

中国乗用車の先進事例

ロボタクシーがサービスを展開する様子(左部)とロボタクシー⾞両群の様⼦(右部)
Image:江蘇省蘇州市相城区、享道出⾏

「享道出⾏(シャンダオチューシン)」は、上海汽車(SAIC)傘下のモビリティーブランド。創業から3年にわたり、モビリティーサービス市場で実践を重ね、⼤量のデータを蓄積してきた。2021年12⽉には、当時としては国内で初めてとなる、既存の⾃動⾞企業による⾃動運転「レベル4」(特定条件下での完全⾃動運転が可能)の⾃動運転オペレーションプラットフォームとして、「享道⾃動運転タクシー(ロボタクシー)」プロジェクトを始動した。

 このプロジェクトは、SAICのAI(⼈⼯知能)実験室と、⾃動運転システムを開発するMomenta(初速度科技)、享道出⾏などがそれぞれ有するSAICのエコシステムとバリューチェーンの上にある貴重なリソースを統合することで、成熟したモビリティーオペレーションについての経験と最先端の⾃動運転技術を有機的に結合する試みを進めている。

 中国交通運輸部のモニタリングデータによれば、2021年以来、同社の運転⼿および⾃動⾞の法令順守率は、7カ⽉連続で業界トップ。上海市交通委員会などによるサンプリング調査でも、同社の安全なオペレーション管理モデルは、⾼い評価を獲得。また、南京市、杭州市、寧波市などの都市で21年度のネット予約タクシーサービスの品質ランキングトップにも躍り出ている。

最新モデル「哪吒S(Neta S)」(左部)とラオスで行われた発表会の様子(右部)
Image:哪吒汽⾞

「哪吒汽⾞(NETA)」は、「蔚小理」を猛追する新興自動車企業。独自の研究開発リソースを武器に、海外展開を急速に進めており、今最も勢いのある中国国内自社ブランドの1つだ。同社の2022年上半期累計納⼊台数は6万3131台で、前年同期⽐199%の成⻑を記録。新興国内⾃動⾞企業の中で第2位の台数を納めている。

 2021年末には、完全⾃主研究開発型のスマート安全⾃動⾞プラットフォーム「⼭海平台(シャンハイプラットフォーム)」を発表。これは、⾃動⾞業界初の⾼度な安全性、拡張性、スマート性、そして環境調和性を兼ね備えた⾃動⾞研究開発プラットフォームとなっている。哪吒汽⾞は2025年までに、累計100億元(約2000億円)の研究開発資⾦を同プラットフォームに投⼊する予定。同社は、2022年8月までに国外の販売チャネルを30社までに拡大し、累計5000台の販売注文数を獲得。2022年9月前後には、タイ、ラオス、ネパール、そしてイスラエルと、東南アジアから南アジア、そして中東地域各国にまで続々と進出している。

中国商用車の動向と先進事例

中国新エネルギー商用車の販売台数(左部)と中国新エネルギー大型トラックの販売台数(右部)
Image:Frost&Sullivan、ジャンシン(匠新)が整理

 米調査会社のFrost&Sullivanによれば、中国の新エネルギー商用車普及率は2024年には20.0%を超え、第14次5カ年計画の目標を上回る見通しとなっている。同時に、中国の新エネルギー商用車の販売台数は、2020年の12万1000台から2026年には144万3000台となる見込み。

 その中でも特に注目したいのは、新エネルギー大型トラックだ。その累計販売台数は、2021年に初めて1万台を突破し、前年比で298.9%の増加を記録。中国で発展している大型トラックのバッテリー交換方式は、その運転効率の向上と購入コストの低減に貢献する点が特徴だ。加えて、中国政府の工業情報化部が、約13カ所のバッテリー交換モデルのパイロット都市を指定していることも功を奏し、電力交換型大型トラックの販売台数は2022年に2万台から3万台に達すると予測されている。

独自のバッテリーモジュールの構成(左部)とバッテリー交換中の様子(右部)
Image:啓源芯動⼒

「啓源芯動⼒(QIYUAN GREEN POWER)」は、中国国有電⼒⼤⼿の国家電⼒投資集団の傘下にある交通領域のグリーン電⼒に専念する企業。電動トラックやバッテリー資産管理、そしてバッテリーの充電および交換業務などのオペレーションを⾏っている。同社のバッテリー交換ソリューションはほぼすべての電動トラックの運⽤シーンをカバー。このソリューションの特徴として、ワンタッチ操作により⾃動的にバッテリーをわずか5分で交換できるのに加え、敷地内での施⼯や電気ケーブルの敷設を必要としないため、初期投⼊コストを⼤幅に低減できることが挙げられる。

 中国の車載電池大手「寧徳時代(CATL)」と連携し、大型トラックに特化したバッテリーモジュールを搭載。トラックのバッテリー交換に特化して設計された「モバイルエネルギー補給ステーション」は、上海市や重慶市、四川省、⼭⻄省、新疆ウイグル⾃治区などでその実装と運営が始まっている。中国大型トラック大手の中国重汽や上汽紅岩と戦略提携し、バッテリー交換設備を提供している。

⽔素電池とバッテリーを同時搭載できるモジュール化設計(左部)と最新サンプル⾞両「深向星⾠」 の発表イベントの様子(右部)
Image:深向

「深向(DeepWay)」は、⾃動運転⾞両⾃体の研究開発と製造の両⽅を⼿掛けるスタートアップ企業。同社の1つ目の製品である⼤型トラック「深向星⾠」は、動⼒の無駄のない利⽤を可能にする分布式駆動や風⼒抵抗を⼤幅に抑えた流線形⾞体、バッテリーと躯体(くたい)の⼀体化設計、そして⽔素電池をバッテリーと同時搭載できるモジュール化設計などを採⽤。

 注目したいのは、バイドゥと、物流業界のデジタル化技術ソリューション企業である獅橋集団(シーチャオ)という創業初期からの2⼤株主の豊富な既存リソースを利⽤することで、新エネルギーを使った⼤型商⽤⾞両の製造に注⼒していることだ。同社に対して、バイドゥは⾃動運転の研究開発の⾯で、シーチャオは製品の定義づけから実装、データ蓄積などの⾯で、それぞれノウハウを提供している。

 同社は2022年9⽉2⽇、江蘇省塩城市の⼯場にてスマート新エネルギートラック「深向星⾠」の最新サンプル⾞両を正式に発表。これにより、⾞両全体と部品製造の最も鍵となる部分の研究開発を完了。同社の研究開発計画によれば、22年末には深向星⾠の⼩規模な納⾞を試みる予定だ。2023年6⽉には⼤規模な量産を始め、2023年末までには1000台を市場に投⼊する⾒込みとなっている。

中国自動車業界における自動車以外の先進事例

吉利集団が自社開発衛星の打ち上げ成功を発表(左部)と吉利集団の子会社「星空智聯科技」が公開した衛星の様子(右部)
Image:吉利集団

 中国民営自動車大手の「吉利集団(Geely)」は、自社のスマート自動車と連携する高精度即位システムを内製化し、2022年6月にその衛星の打ち上げに成功している。この商業衛星プロジェクトは、2018年11月に設立された航空宇宙情報通信インフラとその応用ソリューションを提供する事業会社「時空道宇」と2019年8月に設立された衛星製造を行う事業会社「星空智聯科技」を中核主体として推進する。

 同社は、この衛星通信と高精度測位システム、高精度地図とナビゲーション、自動車用チップ、ハード・ソフトウェアのすべてを兼ね備えた世界唯一の自動車企業として、スマート自動車のコア競争力を構築していく方針だ。将来的には、衛星×自動車によるスマート自動車領域の最先端プラットフォーム企業となることを目指している。

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