日本との関係をもっと深めたい
―Blume Venturesは、日本との関係が深いと聞きます。
ファンド出資者に日本からドリームインキュベータ、リクルート、Mistletoeの3社が入っています。また私たちの投資したポートフォリオに、日本企業も投資しています。私たちは、もっと日本と関係を深めていきたいと思っています。
―御社のファンドについて簡単に紹介してもらえますか。
私ともう一人の共同創業者は、Mumbai Angelsというインド最大級のエンジェル投資家ネットワークの運営責任者を務めていました。Blume Venturesとして独立したのは2011年。以後、これまでに、シードステージを中心に75社に投資してきました。1号ファンドが日本円にして20億円で、2号ファンドが60億円、3号ファンドは100億円を予定しています。2号ファンドでは40億円がインド外からの調達。具体的にはアメリカと日本でした。3号ファンドでは、日本からの出資をもっと増やしたいと考えています。
インドで開発して世界へ販売していこう
―どのような領域に投資していますか。
投資対象の1つ目は、ITを使ったインド国内の消費者向けサービスです。インドには、携帯電話利用者が12億人弱おり、スマートフォン利用者も4.5億人います。現在は金融、メディア、教育、あらゆるものがスマホを使っての取引に関わってきます。
2つ目は「Built in India for Global Markets」と私たちは言っているのですが、インドで開発して世界へ販売していこうというスタートアップです。AI、BtoB向けソフトウェア、ビッグデータ、ロボティックス等がそれに該当します。
―どんな投資事例がありますか?
ヘルスケアの投資先で、健康管理を手伝ってくれるアプリの開発企業があります。あなたがこれから飲もうとしている飲み物のカロリー計算はもちろん、仮に出張が続いた時に、今夜の食事を何にしようとアプリに問いかけてもらうだけで、アプリがAIを使って、体調を気にしながらおススメの料理をアドバイスしてくれます。人間よりも親切です(笑)。このアプリは、インドで最もダウンロードされているヘルスアプリの1つです。
もう1つの事例としては、物流テックの投資先があります。クラウドとGPSの技術を使って、走行中のトラックを追跡する技術を開発しています。走行ドライバーのデータを取り続けることにより、AIを使って自動的に積み荷とドライバーのマッチングを手助けしてくれます。これはインドだけでなく、日本含めた世界でもセールスの機会はあると思います。
日本企業はインド企業とどう組めるのか
―他国のグローバル企業に比べて、日本企業のインドへの進出は遅れている感があります。
ヨーロッパ、アメリカの事例についていえば、彼らにとってインドは、バックオフィスや、ITのアウトソース拠点といった存在から始まりました。その後、IBMやCiscoなどはR&D拠点としてバンガロールに拠点をつくるように。そして次第に、彼らは投資においても積極的になり、投資したいカテゴリーやリストを事前に用意し、私たちに相談してくるようになりました。私たちの投資先に、朝食にミルクを配達するスタートアップがあるのですが、ユニリーバのCVCが私たちに連絡してきて、「投資したい」と接触してきたのです。
インド進出に力を入れる企業に共通しているのが、インドをアジアの重要市場と位置づけ、インドでの事業展開について真剣に勉強をしていることです。これに対して、残念ながら日本企業から相談を受けるケースはまだ少ないのが実情です。
―日本企業とインド企業では、資金面以外でどんなパートナーシップ関係を築けるでしょうか?
日本はハードウェアが伝統的に強い。一方でインドは、ソフトウェアが強い。IoT分野では良いパートナーシップ関係が築けると思います。ただ、パートナーシップをつくるには時間も必要です。私は現在、アメリカのDraper Venture Networkのインドアドバイザーを務めていますが、彼らは10年以上前からインドに来て、「10年後のインドをあなただったらどう予測しますか?」と聞いて回ったそうです。自分たちにとって、ベストなパートナーをその頃から探していたのです。私がそのパートナーに選ばれたのは光栄なことだと思っていますが、それくらい、パートナーシップを築くには時間と情熱が必要だということです。
―最後に日本企業へメッセージをお願いします。
私たちは、日本・インド・アメリカの3カ国の連携関係をつくっていきたいと思っています。大きな資金は必要ありません。どちらかというと、日本との関係性を強化していきたいのです。私の経験から、日本企業は短期的視点というよりも長期的視点で私たちを応援してくれ、かつ資金の提供だけでなく、投資先に対しても質の高いアドバイス、協力をしてくれます。日本企業の皆さんは、私たちのファンドに出資いただき、インドで小さい投資を少しずつ始めてください。その手助けをできるなら私たちとしてはうれしいです。