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シリコンバレーはソフトウェアに強く、その強さを様々な産業へ展開
―まずAutotech Venturesについて教えてください。
Andreev:Autotech Venturesは自動車関連のスタートアップに特化したVCです。私たちはフィナンシャルリターンのみにフォーカスした投資を行いつつ、そこで得た知見をもとにコンサルティングサービスを提供しています。私たちのファンド規模は$120 Millionで、投資領域は次世代の陸上交通です。ステージを問わず、LyftやDeepScaleなど、すでに13社のスタートアップに投資をしています。
―自動車業界のスタートアップエコシステムの現状をどう見ていますか。
Andreev:まず自動車業界のスタートアップエコシステムはとても活発です。自動車業界では1000社以上ものスタートアップが毎年誕生しているということです。たくさんのイノベーションを生み出している領域だと言えるでしょう。
2つ目はシリコンバレーがソフトウェアと新規事業に強く、製造業には弱いということです。特に自動車製造業には強くありません。自動車系スタートアップは次世代のソフトウェア技術と新しいビジネスモデルの開発に取り組んでいるところが多いです。ソフトウェア技術の例では、自動運転関連のセンシングや物体認識、経路生成などがあります。新しいビジネスモデルなら、車のシェアリングは普及が進んでいる好例でしょう。
これらのテクノロジーは次世代の自動車に組み込まれる必要があります。ですから、いまシリコンバレーには世界的な自動車メーカーやティアワンサプライヤーが集まり、R&Dセンターを開いています。ホンダや日産もシリコンバレーにR&Dセンターがありますよね。
鈴木:世界的な自動車メーカーやティアワンサプライヤーは、自らがソフトウェアやアルゴリズムに弱いと気づいたということです。だから、いま彼らはスタートアップとの協業や買収を始めているのです。
「コラボレーション」が必須な自動車業界
―自動車業界の特徴を教えてください。
Andreev:まず、この業界では既存プレイヤーとのコラポレーションが必須だということです。それが自動車メーカーなのか、ティアワンサプライヤーなのか、レンタカー企業なのかはどんな領域をターゲットにしているかによります。しかし、誰かとコラボレーションすることが確実に必要になります。
次に、産業政策も重要です。自動車産業はインターネット産業とは大きく違い、法律によって強く規制されています。例えば特定の燃料効率と排気ガスの基準をクリアしなければならず、2015年のディーゼルゲートも大きな問題となりました。また、安全も不可欠な要素です。自動運転車で人身事故を起こすことは当然許されません。
そしてもう一つ特徴的なことは、もし何かを自動車に組み込む場合、採用されるまでに長い時間と検証が必要となることです。新しい技術が開発されてから、それが市場に投入されるまでに、5年以上の時間がかかることも珍しくありません。アプリ開発のように、次の日にローンチできるというわけではないのです。
鈴木:この業界にはいまだに多くのペインポイントがあります。自動車を運転していればどこかで人の命が失われています。いくつかの地域では大気汚染が深刻な問題となっています。シリコンバレーでは交通渋滞が悪化する一方です。テクノロジーによってこれらの問題を解決することが、より良い生活、良い社会をつくることに直結しています。
キーワードは「CASE」
―現在、自動車業界のスタートアップのトレンドは何でしょうか。
鈴木:自動車業界のトレンドは、CASE(ケース)と呼ばれる言葉で紹介されています。Connected、Autonomous、Shared、Electricの頭文字をとってCASEです。
Andreev:ユニークなものとしては、トランスポーテーションネットワーク企業が挙げられます。LyftやUberなどがその代表です。このようなトランスポーテーションネットワーク企業は相互に繋がり、都市での個人の車所有率を減らしています。もしサンフランシスコで車を所有するならば、その維持費用は1日あたり$75はかかるでしょう。ところが、UberやLyftであれば、その$75で何回でも利用することができます。もしこれが自動運転車になった場合、そのコストはさらに低くなるでしょう。ですから、都市部では自分で車を所有する経済的合理性がなくなってきているのです。そうすると、車のディーラーやレンタカー会社が大きな影響を受けることになるでしょう。またフリートマネジメント企業も影響を受ける企業の一つだと思います。
Andreev:Electric、これは駆動力の電動化を指します。社会へのインパクトという点では電動化よりも、自動車のシェアリングや自動運転車が大きな影響を与えていくと考えています。経済的見地で言えば、車という資産を十分に活用できていないという問題があるからです。自動車だけでなく、スクーターなどの車両をシェアする動きもありますね。
また、Connectivityはこれらのトレンドを推進する力となります。ConnectivityはElectricやAutonomous、Sharedの全てを可能にするものです。
お互いに「違う」ということを理解する
―スタートアップ、大企業はお互いに何を求めているのでしょうか。
鈴木:スタートアップには素晴らしいアイディアと新しいテクノロジー、つまり「脳」があります。大企業にはスタートアップにない、筋力と体、骨があります。人々は脳が体よりも重要であると思いがちですが、実際にはどちらもなければちゃんと身体は動きません。本当にユーザーにプロダクトを届けたいのであれば、この業界で何か大きな変化を起こしたいのであれば、自分に足りない部分を外から補うことが不可欠です。
スタートアップと大企業はお互いに「違う」ということを常に意識するべきです。バリューの観点から、ゴールへ向かうアプローチが違うのです。そしてそれは違っていていいのです。違いがあるからこそ、コラボレーションする意味があるのだと思います。
Andreev:スタートアップのアドバンテージは動きが速く、グレーゾーンでも動ける点です。スタートアップはより楽観的でリスクをとる傾向にあります。一方で、スタートアップには圧倒的にリソースが不足しています。
―大手企業とスタートアップの協業の成功事例などはありますか。
Andreev:協業の方法はたくさんあります。たとえば、GMは多くのスタートアップを買収しています。一方、HondaやBMWは多くのパートナー契約を結んでいますが、彼らは必ずしも活発に買収活動をしていません。ケースバイケースであり、どの方法が一番いいとは言えません。この業界ではまだ、それぞれの企業が自社にあった方法を模索している段階だと思います。
―日本企業とスタートアップの協業において、特徴的な課題はありますか。
鈴木:シリコンバレーでの一般的な話で言えば、まず言語や文化への適応の問題があります。そしてそれは日本企業がシリコンバレーで展開する上での足かせとなります。例えば、シリコンバレーでVC投資をしている日本人は中国系、インド系、韓国系など他のアジア諸国に比べてとても少ない印象です。
もう一つは、日本企業は3〜5年で人事異動があります。ですから駐在として当地に赴任される方の思考はどうしても、「いま何をするか」だけではなく、「帰任してから何をするか」に引っ張られますよね。日本企業はシリコンバレーで、人事(採用・評価・報酬)の面でも多くの課題に直面していますが、実際のところそれを変えるのは大変なことでしょう。
日本企業にお勧めできることがあるとすれば、積極的に情報交換し、過去の失敗事例から学ぶことでしょうか。たくさんの日本人がここでビジネスをして、成功している例も失敗している例もあるのですから、身近な事例から学べることは多いと思います。
自動車業界は今後どう変わっていくか?
―自動車業界が今後どうなっていくかについて考えを聞かせてください。
Andreev:自動車が普及途中の市場では、これまで通りの量的な拡大が続きます。一方で、ヨーロッパや日本、アメリカのように自動車が浸透しきった市場では質的に大きな変化が予想されます。そこでは様々なスタートアップが生まれると思います。またシェアリングや自動運転のような新しいテクノロジーが普及するにつれて都市部を中心に個人所有の自動車は減っていくことになるでしょう。
自動車メーカーは、今までと違った動きを始めています。具体的にいうと、車というハードウェアを作って売るだけのビジネスモデルから、その周辺のバリューチェーンを取り込み始めています。将来的には、保険やライフスタイルビジネスを始めるかもしれません。
さらに、異分野から新しく参入してくる企業も出てくるでしょう。Googleもその一つです。これから多くの企業がこの業界に参入するでしょう。
自動車業界はまだまだ成長し続ける業界です。スピード感のある変化が起き、業界の構造が変わり始めた今こそ、スタートアップにとって大きな機会であり、突き進むべき時なのです。
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