Eコマースの拡大で、受注から集荷、梱包、配送に追われるフルフィルメントセンター。物流現場では深刻な人手不足を受け、より高度なロボットの活用が進んでいる。倉庫用ロボットの開発を展開するフランス発のスタートアップExotecは、欧米や日本でも製品を展開している。同社の「Skypodロボット」は倉庫内を前後、左右、上下に移動する3次元走行ロボットのピッキングシステムだ。創業の背景からパンデミック中のデプロイの裏側まで、共同創業者でCEOのRomain Moulin氏に話を聞いた。

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高さ12メートルを上る スーツケースサイズのロボット 導入もしやすく

――まずは、Exotec社について詳細を教えてください。

 Exotecは、倉庫用ロボットの開発を行っていて、中でもフルフィルメントセンター専門のシステムを提供しています。日本では、ユニクロを展開するファーストリテイリングの倉庫での導入事例があります。私たちのロボットはスーツケースほどのコンパクトなサイズで、前後左右、自由に動くことができながら、高さ12メートルの高さまで荷物を運ぶことができます。このような作業を人間がやるとなると、どれほど大変か分かりますよね。

 私たちのシステムを使うと、倉庫内の作業員は今までより早く作業をこなせるようになります。また、人間では手の届かないところまで在庫を収納することができ、倉庫の容量を増やすことができます。

Romain Moulin
Co-Founder & CEO
フランス内トゥールーズの国立航空宇宙学校で、ロボティクスを専攻。ロジスティクス企業であるBA Systèmes社や、旧Astrium社でエンジニアを担当し、のちにGE Healthcare社でロボティクスアーキテクトとして、医療用ロボットの設計に従事する。2015年にExotecを立ち上げ。

――どうして物流ロボットの会社を設立しようと思ったのですか。

 Exotecは、現在のCTOであるRenaud Heitzと2人で創業しました。私たちの前職はGE Healthcare社のエンジニアで、主に医療用ロボットの開発に携わっていました。ただ、倉庫用の自動フォークリフトの開発などキャリアの初期から既にロボティクスに従事していたので、いつかは初心に返り、似たようなマシンを開発したいという夢を持っていました。

 Amazonがロボティクスシステムの企業を買収し、その後名称も変更して自社内倉庫システムを発表したのを聞き、私たちはロボティクス業界で何かできないかと模索し始めました。そこで、よりよいソリューションを開発しようと決意し、アルゴリズムとソフトウェアの力を借りて、Amazonの利用するロボットに勝るシステムを開発しようと創業しました。

Image: Exotec

―ー御社のロボットは導入しやすく、柔軟性に優れているとのことですが、このような技術の開発にどれくらいかかったのでしょうか。

 2015年に創業を決意してから、2016年にフランスのEコマースブランドから最初の注文を受け、2017年に初期システムを導入しました。1年ほどで導入まで漕ぎ着けましたが、当初は導入のしやすさや、メンテナンスの容易さを達成するのに苦労しました。私たちの業界では、使い勝手の良さが好まれます。現場で導入して、ボタンを押せばすぐに動くようなものです。

 私たちの製品は、従来導入に1年半かかるものを6カ月で達成することができます。現場で大掛かりな機械を組み立てる必要もありません。

 また、フランスにいながら、導入先のシステムのデータを確認できるので、例えば神戸にあるユニクロの倉庫内の温度もしっかり把握することができます。初期バージョンの展開には1年かかりましたが、そこから今までの4年間はシステムの使い勝手の良さや、メンテナンスの容易さ、高い信頼性を実現するため改善を続けてきました。

高パフォーマンス、柔軟性も備える

――ロボットによる業務の自動化が進む中、業界のこれからについてどうお考えですか。

 Eコマースの台頭により、市場のニーズは右肩上がりです。オンラインショッピングは既に爆発的な人気を博していましたが、パンデミックがさらに追い風になりました。また、日本でもヨーロッパでも労働力不足が深刻です。倉庫内の業務は肉体労働ですから、そうそうやりたがる人もいませんし、すぐにやめてしまう場合も多いです。

 従って、企業側は、少ない労働力で、なるべくみんなが働きやすい環境を整えなくてはいけません。市場が目まぐるしく変わり続ける中で、設置した大掛かりな機械が10年後も必要になるかは誰も予想できません。だからこそ、パフォーマンスはもちろんですが、柔軟性も求められるのです。装置の設置や解体、他施設での再設置などが簡単にできなくてはいけません。当社のロボットは、市場が求めるハイパフォーマンスを実現しながら、高い柔軟性も備えています。

社員数を10倍以上に増やし 日本でも広く導入を進めたい

――2022年1月にシリーズDで3億3500万ドル(約420億円)の大型資金を調達しました。使途を教えてください。

 既に日本とドイツではサービスを展開しているので、今後も拡大させたいと思います。そのためには営業とマーケティングを加速させなくてはいけません。

 また、現在50名ほどの従業員がいますが、2022年末までに600人まで拡充する予定です。ほとんどの社員はフランス国外で採用しており、全てのオフィスが急速な成長を遂げています。ただ、600人規模の企業になると運営の仕方が異なってくるので、新たなチャレンジとして受け止めています。

 2021年には、既存のSkypodシステムに追加できる自動ピッキング機能も開発しました。さまざまな新機能をローンチし続け、将来的には倉庫用ロボット業界を牽引するリーダーとなりたいです。

――日本でも既に事業展開されていますが、参入の経緯を教えてください。

 日本市場に関しては、事前に参入が難しい市場であると聞いていました。ユニクロとは、ドイツの倉庫用自動化テクノロジーのエキスポで知り合ったのがきっかけです。私たちのシステムを気に入っていただき、最初はユニクロのオランダ内の倉庫で試用版を開発し、その後の交渉に至りました。

Image: Exotec

 2020年3月、私はファーストリテイリング社との交渉のために東京を訪れていたのですが、新型コロナウイルスの感染拡大で、フランスではロックダウンが発表されました。家族には一刻も早く帰国してほしいと言われていましたが、私は前向きに交渉が進むことを願っていました。幸いその時に契約を締結し、私は帰国しましたが、多くの国がロックダウンに入ったのに伴い、国境間を行き来するのが非常に難しくなりました。

 ただ、日本からはフランスに入国することができたので、日本のエンジニアや担当者にフランスまで来てもらい、日本との時差を考慮して研修や業務を行うなど工夫しながら、予定通り1年後の最終的な導入に漕ぎ着けました。ソフトウェアの状態はフランスにいながら確認することができたので、海外にいながらシステムの展開ができたのは柔軟なテクノロジーのおかげだと思っています。

 日本企業との協働に関しては、非常に相性も良く、働き方もそんなに変わらない印象を持ちました。コミットメントの重要性はもちろん、約束したことを予定通り実現することなどは、私たちの企業カルチャーとも合致していました。共に信頼を築くことができたので、今後の日本でのより大規模な展開に期待しています。

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