※本記事は2024年5月に開催された「SusHi Tech Tokyo 2024 Global Startup Program」(東京都などで構成する実行委員会主催)の基調講演の内容を元に構成しました。
目次
・スシの「基盤」であるシャリ
・寿司の味わいを決める「職人の技」
・AIに寿司は作れるか?
・ドメイン特化型AIが伝統技術をサポートする
・AIの発展はローカルなデータや知識が鍵
スシの「基盤」であるシャリ
寿司はただの食べ物ではなく、技術と芸術の結晶です。見た目はシンプルに思えるかもしれませんが、その背後には熟練の職人技と深い歴史が息づいています。
寿司は、「ネタ」と「シャリ」という2つの要素で構成されています。まず、シャリについて考えてみましょう。シャリはただの酢飯ではなく、酢、砂糖、塩の絶妙なバランスで作られています。このバランスが寿司の基盤となり、異なる種類の酢、例えば赤酢を使うことで、味わいに深みが生まれます。これは職人のこだわりが如実に現れる部分です。
特に酢は重要で、寿司職人はオリジナルの酢を使用することもありますし、独自のシャリを作るために異なる種類の酢をミックスすることもあります。シャリは寿司のシグネチャーであり、その味わいは寿司職人の努力と情熱の象徴です。
シャリこそ寿司の基盤であり、生成AIに置き換えると基盤モデルに当たるわけです。
TECHBLITZ編集部撮影
寿司の味わいを決める「職人の技」
続いて、ネタである魚についてです。魚の新鮮さは寿司の命であり、特にマグロの「トロ」はその代表格です。しかし、寿司の真の魅力はトロだけではなく、マグロの脂の少ない部位や、それ以外の季節の魚もまた欠かせません。寿司職人が魚の最適な切り方を見極め、魚の特性に応じて切り分けることで、魚の味わいと食感が最大限に引き出されます。
ここで重要な点は、職人が使う包丁とその技術です。包丁は寿司の完成度に直結し、京都の伝統的な包丁メーカーでは何世紀にもわたる技術で製造されています。これにより、魚をスムーズに切り、寿司の繊細な味わいを保証します。包丁を使いこなすには長年の修練が必要であり、その技術は一朝一夕で身に付くものではありません。
AIに寿司は作れるか?
さて、ここで質問を投げかけたいと思います。AIは寿司を作れるでしょうか?
現在、AIの進化は私たちの生活に劇的な変化をもたらしています。OpenAIのChatGPTに代表されるAIの基盤モデルは、自然言語処理だけでなく、複雑なタスクをこなす能力を備えています。しかし、寿司作りのような繊細な作業は、一般的なAIではまだ十分ではありません。
そこで登場するのが、特定の分野に特化した「ドメイン特化型AI」です。これは、特定の業界やタスクに特化して訓練されており、医療、製造、さらには料理の分野においても応用が進んでいます。これこそ、まさに寿司で言うとこころのネタに当たる要素です。
TECHBLITZ編集部撮影
ドメイン特化型AIが伝統技術をサポートする
今の時代、先ほど述べたような職人技はAIの支援によってさらに進化する可能性があります。AI技術が急速に進化する中、特にドメイン特化型AIが寿司のような伝統的技術をサポートする時代が訪れてるのです。
例えば、寿司のシャリ作りにAIを活用することで、シャリの温度や湿度、酢の配分などを常に最適化できるようになるでしょう。さらに、魚の切り方についてもAIがデータをもとに学習し、魚の状態や種類に応じて最適な切り方をアシストすることが可能です。このように、AIは職人の技術を補完し、寿司作りの効率と品質を飛躍的に向上させることが期待されています。
また、寿司のネタの選別や鮮度管理においてもAIの役割は大きくなります。最新のAI技術を用いれば、魚の鮮度や質をリアルタイムでモニタリングし、最も良いタイミングで提供できるように管理することができます。こうした技術は、寿司業界にとって大きな革新となり得ます。特に、寿司の提供が高速かつ正確に行われるようになることで、顧客体験もさらに向上するでしょう。
AIが実際に寿司職人の役割を完全に取って代わることは難しいかもしれませんが、AIはその技術をサポートし、職人が持つ知識や経験を次世代へと継承する手助けをする存在となるでしょう。特に、AIが提供するデータに基づいて、若い寿司職人が効率的に学び、早い段階で高度な技術を習得できるようになることが期待されます。
この技術的進化は、ビジネスにおいても大きなチャンスを生み出します。寿司業界に特化したAIソリューションや、飲食業全体に向けたAI技術の応用は、今後の大きな市場となるでしょう。投資家にとっては、こうした分野に早期に参入することが大きなリターンをもたらす可能性があります。
AIの発展はローカルなデータや知識が鍵
寿司はローカルな知識と素材を組み合わせた料理です。AIにおいても同様で、ローカルなデータや知識が重要な役割を果たします。これからは、シリコンバレーだけでなく、世界中のさまざまな場所でAIによる革新が進んでいくでしょう。
特に東京は、アジアの他の地域と連携しながらAIの発展をリードする1つの拠点になる可能性を秘めていると言えるでしょう。