Image: d.ee_angelo / Shutterstock
地球温暖化、気候変動への対応として、二酸化炭素(CO2)の排出削減や、電動化、蓄電、エネルギーの効率利用など、Climate Tech領域の世界的トレンドとスタートアップ投資はますます加速している。脱炭素社会の実現に向け、国内外の脱炭素テクノロジー(ZET:Zero Emission Technology)関連スタートアップとの協業などをテーマに、3月に開催した「ZET New Japan Summit 2023 Kyoto」には、国内・海外のスタートアップ40社が登壇した。各社の事業概要を紹介する。日本スタートアップ第1回は、マイクロ波化学、イーセップ、エレファンテック、FLOSFIAの4社。

【マイクロ波化学】化学産業にマイクロ波技術でイノベーションを起こす

Image: マイクロ波化学 HP

設立年:2007年
URL:https://mwcc.jp/

 マイクロ波化学(本社:大阪府、英語表記:Microwave Chemical Co., Ltd.)は、マイクロ波化学技術プラットフォームを活用した研究開発からエンジニアリングまでのソリューションを提供する大阪大学発のスタートアップ企業。マイクロ波を活用した製品製造・化学反応プロセスの高度化・合理化や、従来技術では製造困難な新素材の開発、脱炭素において必須となる「電化」への貢献に取り組んでいる。

 マイクロ波とは、電場と磁場の変化を伝搬する波である電磁波の一種。電磁波は、X線、紫外線、可視光線、赤外線、電波などに周波数(波長)の違いにより分類され、電波の中でも周波数300MHzから300GHz(波長にすると1mから1mm)の電磁波がマイクロ波と呼ばれている。

 マイクロ波を用いて誘電体に直接エネルギーを伝えることで、加熱対象自体が従来加熱における熱源のように振る舞うことになる。つまり、従来加熱と違い、加熱対象より高い温度の熱源は不要なため、省エネ・ものづくり技術革新への貢献が期待できるという。

 温度差に依存しないエネルギー伝達手段を用いることで、エネルギー消費量や加熱時間を抑えるなどの製造プロセスの改善、新素材開発における製造コストの低減、再生エネルギーと電化を組み合わせることによるCO2排出量削減のメリット、などが期待できる。

 マイクロ波化学は、独自のマイクロ波化学技術プラットフォームを活用して国内外の化学メーカーを中心としたものづくり企業と提携し、ラボ及びベンチ・パイロット機の研究開発から実機の設計・導入・立ち上げに至るエンジニアリングまで、ワンストップでソリューションを提供している。

【イーセップ】「簡易、エコかつ高効率な分離」のための膜分離技術の開発と製品提供

Image: イーセップ HP

設立年:2013年
URL:https://esep.kyoto/

 イーセップ(本社:京都府、英語表記:eSep Inc.)は、耐熱性・対薬品性に優れたナノ細孔径を制御したセラミック膜(ナノセラミック分離膜)技術の開発およびその関連機器・システム等を提供する企業だ。化学・エネルギー産業の省エネイノベーションやカーボンニュートラル社会実現への貢献を目指している。

 膜分離技術は、将来の化学・石油産業のプロセスを簡略化し、エネルギー消費を劇的に削減するための有望な技術の一つとされている。イーセップは「簡易、エコかつ高効率な分離」のための膜分離技術の開発と提供に取り組んでいる。基幹材料となるセラミック製の機能性分離膜の製造と、それを活用した省エネ機器に焦点を置き、セラミック分離膜事業の世界シェアNo.1を目指している。

 同社が開発するセラミック分離膜は「高精密に細孔径が制御された分離膜層を高水準の再現性で製造可能」という特長がある。従来の分離膜にはない分子レベルの分離が可能で、さらに石油化学産業用途において、幅広く利用可能な高い耐久性も併せ持つ。

 ゼオライト膜やシリカ膜を中心とした1nm以下の細孔を精密制御したセラミック製の機能性分離膜、および各種機能性分離膜を製造するためのナノ多孔質基盤(ナノセラミック分離膜)の製造ノウハウを持つ。

 イーセップは現在、「化学溶剤のリサイクル」「e-fuelの高効率合成」「水素キャリアの利活用」の3テーマを中心に、その実現に向けて取り組んでいる。「e-fuelの高効率合成」では、独自技術の分離膜と触媒を組み合わせたメンブレンリアクターを利用して、CO2からの合成燃料製造の事業化を目指している。小型でオンサイトで稼働できるリアクターへのニーズに対応していく。

【エレファンテック】環境に優しい金属インクジェット印刷による電子回路基板の量産化

Image: エレファンテック HP

設立年:2014年
URL:https://www.elephantech.co.jp

 エレファンテック(本社:東京都、英語表記:Elephantech Inc.)は、環境に優しい金属インクジェット印刷による電子回路基板の量産化に取り組んでいるスタートアップだ。「新しいものづくりの力で、持続可能な世界を作る」というミッションの下、プリンテッド・エレクトロニクス製造技術開発事業として、環境負荷が少ない製法で作成可能なフレキシブル基板「P-Flex®」の製造および販売を手掛けている。

 同社のエレファンテック製法(ピュアアディティブ®️法)とは、金属をナノ化してインク状態にし、必要な部分にのみインクジェットで基材に印刷した後に、無電解銅めっきにて金属を成長させて回路を形成する工法だ。新しいエレクトロニクスにおいて、「不要な部分を溶かす」プロセスから「必要な部分に印刷する」プロセスへの転換に取り組んでいる。

 既存の製法より製造工程が少なく、環境負荷の大幅削減・製造コスト・リードタイムの削減を実現する。試作や量産にも柔軟に対応している。同社によると、この製法によって、原材料は従来の製造方法の1/3に、廃液量は1/10に削減することができ、環境負荷を大きく減らすことができる。

 同社の「印刷による低環境負荷の回路基板製造技術の大規模量産技術開発」は、環境省の令和5年度「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に採択されている。

 令和5年度から令和7年度を対象とした事業で最大7.5億円の補助金が交付される。エレファンテックは、この事業を活用し、必要となる金属材料を70%削減し、CO2排出量を75%削減するという、低環境負荷の回路基板量産体制の構築に取り組む。

【FLOSFIA】GaO®パワー半導体で目指す究極の「半導体エコロジー®」

Image: FLOSFIA HP

設立年:2011年
URL:https://flosfia.com/

 FLOSFIA(フロスフィア、本社:京都府、英語表記:FLOSFIA INC.)は、グリーンかつクリーンな技術を用いてイノベーションを誘発して社会に貢献する製品の開発を目指し、「水」から「半導体」を作るイノベーションに取り組む、京都大学発のスタートアップだ。

 ミストドライ®成膜技術を基礎技術に、「パワーデバイス事業」と「成膜ソリューション事業」を展開。具体的には(1)次世代半導体「酸化ガリウム」を用いたGaO®デバイスの開発・製造、(2)成膜合成技術プラットフォームである「ミストドライ®法」による新たな電子産業材料の開発・製造―を主力事業としている。

 ミストドライ®法は、ミスト(霧)を活用して薄膜を原子層レベルで積層していく独自技術。金属酸化膜や金属膜、有機膜などさまざまな薄膜が成膜できる。この方法を用いて、電力変換用に用いられるパワー半導体として圧倒的な材料ポテンシャルを有する最先端半導体材料「コランダム構造酸化ガリウム(α-Ga2O3)」を用いた半導体デバイスの事業化に取り組んでいる。

 サファイアと似た結晶構造を持ち、自然界には存在しないGaO®は、従来のシリコンに比べ、超低損失・低コストで製造できる可能性を持つ。半導体デバイスや電子デバイスの高品質化・高機能化と社会実装に向け、エネルギー・動力・電源領域における問題解決の切り札として期待されている。

 同社は、GaO®のパワーデバイス応用で、電源・車載・動力領域でのイノベーションの実現を目指している。京都大学桂キャンパス近郊(京都市西京区)にマザー工場・開発拠点を整備し、GaO®パワー半導体シリーズとしてダイオードのサンプル出荷を開始している。



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