非英語圏の英語話者が感じる悩みを実感
――ELSAを開発したきっかけは何でしたか。
私はベトナムで生まれ育ち、大学卒業後はヨーロッパのデンマークにある海運・物流会社で数年間働きました。デンマークには3年間いて、その後渡米しスタンフォード大学で教育学の修士号とMBAを取得しました。そして数年間は経営コンサルティング会社で主に大企業の戦略コンサルティングを担当しました。
ESLAを始めたきっかけは、英語圏以外の国で育ち、英語を学んできた経験にあります。通常、英語の学習は教室で授業を受けたり、オンラインで本を読んだりして、多くの時間とお金がかかります。私が気づいたのは、そこで主に習得できるのは読み書きだということです。読み書きのテストを受けて非常に高いスコアを取れたとしても、スピーキングのスキルを身につけるのは容易ではありません。
Image: ELSA AI英語発音コーチ「ELSA」
デンマークでの仕事やアメリカで学習しているとき、他の人が私の話を理解するのが難しいようでした。私が話すと「ちょっと、今何て言ったの?」「もう一回言って」など繰り返し聞いて、時には特異な目で見られることもありました。そんなことがあると、人と話すときに緊張して恥ずかしくなりますよね。また自分が何度も言い直すのを待つ人たちの時間をも無駄にしたくないとも考えてしまいます。
周りの人は誰もが「英語を勉強したいなら、イギリスやアメリカの映画を見たり、YouTubeを見たりすればいいよ」と言っていて、私もそうしようとしました。しかし、それは非常に難しいことです。聴くことはできますが、同じように話すことは難しいです。スタンフォード大学にいたとき、その解決策として発音のコーチによるプライベートレッスンがあることを知りました。専門家がマンツーマンで発音をフィードバックしてくれるのですが、ただしこの欠点は、非常に高価なことです。1時間に100ドルから200ドルもかかります。
そこが私のモチベーションで、多くの英語学習者の悩みをテクノロジーで解決しようと、音声認識技術とAIを使ったプライベートコーチとしてELSAを作り、2015年に創業しました。
――ELSAの特徴は何でしょうか?
発音矯正において、単語でなくすべての音節に対して個別のフィードバックをできる、おそらく唯一のサービスです。ELSAでは間違えた発音の箇所を、緑(正しい)、黄色(まあまあ)、赤(間違い)で示します。間違えた箇所は、舌の位置や唇の形など、どのように発音すればいいかというフィードバックします。発音だけでなく、リズムやイントネーション、流暢さも評価しています。
ELSAのエンジンは当社のサイエンスチームによって作られており、他社の技術は使っていません。逆に他のサービスで利用できるようAPIを提供しています。
Image: ELSA
コロナ禍の巣篭もり需要やテレワークの増加を背景に急成長
――ELSAはすでに多くのユーザーがいます。また法人向けサービスも始めました。最近の業績はどうでしょうか。
2019年は前年比5倍、2020年は3倍、日本市場に限ると2020年に約7倍の成長を遂げています。個人でなく企業や学校向けのサービスは2020年から開始し、収益全体の10%を占めています。パンデミックによるロックダウンの影響で、皆家にいて、学習をするようになりました。またテレワークによって、時間と場所の制約もなくなっています。たとえベトナムやブラジルにいても英語圏の仕事ができます。2020年はラテンアメリカでのユーザーが急激に伸びました。
BtoBのサービスを開始したのも、企業が学校から多くの要望をいただいたからで、現在急成長しています。そこにもパンデミックの影響を見て取れます。なお、日本での急成長は、ホリエモン(堀江貴文氏)さんのYouTubeでのコラボが好意的に受け入れられたことも理由に挙げられます。
――2021年1月のシリーズBの資金調達おめでとうございます。GoogleのAI特化ファンドであるGradient Venturesなどから1400万ドルを資金調達しましたね。今回調達した資金の使途は何でしょうか。
私たちは最先端の技術とイノベーションに投資し続けるつもりです。人工知能や音声認識のテクノロジーは、継続的に投資することが重要です。
また、BtoBプラットフォームの構築も必要です。世界中の企業や学校に提供するためのソリューションを構築し、近い将来、BtoBの収益比率を20%まで上げたいと思っています。そして、国際市場への展開も促進します。日本やインドなどの既存市場へのさらなる投資や、ラテンアメリカなど新しい地域への拡大が含まれます。
――すでに日本にはチームがいますね。今後日本ではどのように展開していきますか?
今後は日本法人を設立し、メンバーを増やしていく予定です。より多くのユーザーや企業、学校に知ってもらうために、市場での認知度を高めなければなりません。マーケティング面だけでなく、セールスも重要です。これにはセールスパートナーと契約するか、ジョイントベンチャーという手法もあるでしょう。多くのスマートフォンユーザーを抱える通信事業者との提携も考えられます。
実は先日、京都大学と契約を締結し、とても興奮しています。このような知名度のある組織への導入を進めたいです。日本にはトヨタに代表されるような大企業があります。大きな企業の従業員トレーニングにELSAが採用されれば、BtoBを含めて市場の認知度が高まり、よい影響を与えると思っています。もちろん、ホリエモンさんのような強力なインフルエンサーがELSAを気に入って紹介してくれることも重要です。
――今後の事業全体の展望をお教えください。
2021年はBtoBソリューションを成功させ、年末までには昨年の2〜2.5倍の成長を達成したいと思っています。私たちのビジョンは、10億人の人々がより良い英語を話せるようにすることです。現在、ELSAのユーザーは1400万人ですのでまだまだです。10億人の方々が英語スキルを向上して自信を持ち、彼らの人生で臨むあらゆる可能性の機会の達成を後押しするのが私たちの使命であり、長期的な目標です。