半導体に利用される微細加工技術を用いてシリコン基板上に発光素子などを集積するシリコンフォトニクス技術を使い、データセンターやエンタープライズ向けのソリューションを開発するDustPhotonics(本社・イスラエル)。CEOのRonnen Lovinger氏に、低電力、低コストながら高データレート、大量のスケーラビリティを実現する同社のソリューションの特徴や事業戦略を聞いた。

LiDARセンサーメーカーのCOOから「魅力」を感じ、DustPhotonicsに参画

――職業的背景や、DustPhotonicsにジョインした経緯を教えてください。

 私はTechnionと呼ばれるイスラエルの工科大学で、工学を学びました。その後、ネットワーク製品のサプライヤーであるMellanox Technologiesに18年勤務しました。同社はその後NVIDIAが買収しています。Mellanox Technologiesでは当初エンジニアリングを担当し、その後は製造オペレーションを担当しました。それからInnoviz TechnologiesというLiDARセンサーのメーカーのCOOを務めたのち、2020年にDustPhotonicsに参画しました。当初はPresidentとして業務の遂行、研究、開発を管理し、2021年からはCEOを務めています。

 DustPhotonicsは、光伝送技術を使った光トランシーバーのメーカーとして2017年に設立された企業です。主に、AWSやMicrosoft Azure、Googleなどの大規模データセンター事業者に提供する製品を開発・販売しています。2018年からはシリコンフォトニクス技術を使ったトランシーバー開発を始め、その技術を実現して現在に至っています。光トランシーバーから、シリコンフォトニクスコンポーネントの開発・設計にシフトしたのです。

 私はDustPhotonicsに入社する前から同社のシリコンフォトニクスの技術について知っていました。データセンターの市場が成長しており、シリコンフォトニクスの技術に魅力を感じていました。しかも優秀な人材がそろっていますので、ぜひ経営に関わりたいと思ったのです。

Ronnen Lovinger
CEO
1999年、Technion(イスラエル工科大学)で電気号学の理学学士を取得後、Mellanox Technologiesに入社し、オペレーション担当SVPとして、スタートアップから売上10億ドルの上場企業に成長させる。2017年にはInnoviz technologiesのCOOとして、自動車向けLiDARセンサー開発のオペレーション、エンジニアリング、品質向上に努める。2020年にDustPhotonicsのPresidentとなり、2021年10月から現職。

シリコンチップ製造とレーザーの技術によって最高のパフォーマンス発揮

――シリコンフォトニクスの技術とは、どのようなものでしょうか。

 シリコンフォトニクスとは、半導体の技術が電子機器に対して行われてきたことを通信のために行うものです。シリコンは安価ですので、より小さなサイズ、コストでより高い集積度を得ることができます。通信機器に対してその利点を得ようというアプローチです。

 シリコンフォトニクスでは、基本的に光コンポーネントをシリコン上に実装し、変調器、検出器、スプリッターなど、さまざまなコンポーネントを設計しています。DustPhotonicsでは過去5年の間、これらのコンポーネント開発を行なってきまました。

 最初に市場に投入した製品は、シリコンフォトニクスチップによる1チャンネルあたり100Gbpsを4チャンネル展開できる400Gbpsのトランシーバーです。このチップを2つ組み合わせて800Gbpsのトランシーバーにもできます。

 このトランシーバーは、チップ製造だけでなく、レーザー統合技術によって実現しています。シリコンフォトニクスを駆動するためのレーザーの使用量を減らせる技術で、1台のレーザーで4チャンネル、あるいは8チャンネルを駆動できるため、大幅にコストを削減できるのです。これは、市場で最も優れたパフォーマンスを発揮できる製品です。

 主な顧客はトランシーバーのメーカーです。中国や台湾、アメリカ、ヨーロッパなど上位15社すべてと取引があります。彼らは大規模なクラウド事業者に製品を提供しています。  
 

Image: DustPhotonics

独自の技術で「次世代通信のリーダー」となる

――事業の成長性についてお聞かせください。

 2023年は数百万ドルの売上を見込んでいて、2024年には約300%伸ばして2000万ドル前後とする計画です。2025年にはさらに2〜3倍になると考えています。なぜなら、400Gbpsおよび800Gbpsのトランシーバーに対する需要が増えているからです。市場全体では2027年までに25億個から75億個に成長すると思われます。

 シリコンフォトニクス製品を提供できる競合や、自社で製造できる競合と比較した優位性もあります。私たちにはシリコンフォトニクスの技術だけでなく、前述のような独自のレーザー技術があります。また、標準的なプロセスで製造できますので、スケーリングやコストの面でも優れています。ユニークな技術と標準的な製造プロセスによって競争力を得ているのです。

 現在の製品は1チャンネルあたり100Gbpsのパフォーマンスですが、次世代の製品は200Gbpsを実現したいと思っています。これは、シリコンフォトニクスの標準的なプロセスでは非常に難しいですが、すでにソリューションを開発してテスト中です。2023年には1チャンネル200Gbpsの製品を発表できるでしょう。これは非常に重要な技術であり、1.6Tbpを可能にします。これによって、次世代通信のリーダーになれると信じています。  
 

Image: DustPhotonics HP

――この技術の普及のため、日本企業と提携する予定はありますか?日本ではNTTが光電融合技術を使った次世代のネットワークとしてIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)の構想をしています。御社の技術と関係はありますか。

 トランシーバーの企業を通じてさまざまな国にビジネスを展開しています。日本企業にもコンタクトをとり始めましたが、まだこれからです。私たちが利用するレーザーは日本企業のものを使っていますので、その提携についてはこれからも続くでしょう。

 NTTのように、フォトニクスネットワークを展開する企業と私たちの技術は関係があるでしょう。もしかしたら私たちのコンポーネントを使用できるかもしれませんし、そのような企業と議論もしていきたいです。私たちの技術を使ってさまざまなアプリケーションを展開できる設計サービスも提供していますので、通信事業者とのコラボレーションすることがあるかもしれません。

 シリコンフォトニクスは、光学製品が小型化、低コスト化、スケールアップするための必須技術となりつつあります。光通信だけでなく、ヘルスケアやその他の製品など、より多くの市場にどんどん展開されていくでしょう。私はMellanox Technologies時代も含めて、20回以上日本を訪れたことがあります。東京、横浜、京都、長野など、いろいろなところに行き、日本が好きです。個人的にも、日本の人たちと一緒に仕事をしたいと思っています。



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