※本記事は2023年3月に開催した「ZET(Zero Emission Technology)New Japan Summit 2023 Kyoto」の講演「世界の脱炭素スタートアップトレンドと大企業との協業に向けて」の内容をもとに構成しました(役職名は開催時)。
Z世代が影響力を持つ、アメリカの脱炭素のトレンド
DNX Venturesは東京とシリコンバレーに拠点を持つアーリーステージのベンチャーキャピタルです。投資分野には、サイバーセキュリティやクラウドSaaS、ディープテック、フィンテック、リテールテックなどがあります。その中で今回のサミットにつながるのが、サステナビリティの領域であり、我々もこの分野に積極的な投資活動をしています。
日米それぞれにファンドを組成し、各々現地のスタートアップに投資をしているのですが、特にアメリカファンドは日本の名だたる大企業の皆様から支援をいただいてベンチャーキャピタルとしての活動をしています。ファイナンシャルリターンはもちろん、事業会社さまと海外スタートアップが協業する機会の創出、支援にも取り組んでいます。
では、世界のスタートアップの脱炭素のトレンドを見ていきましょう。サステナビリティ投資の背景において、日本と、特にアメリカでは大きな違いがあります。アメリカに住んでいる人の約3分の1が何らかの形で環境変化を体験しているという指摘もあり、私が住んでいるサンフランシスコも、数年前には山火事の影響などが起きています。
さらに、Z世代、若い人たちがソーシャルメディアを活用して環境について積極的に発信している点です。ここが大きく違うのは、アメリカではZ世代が全人口の中で最も多い世代であり、この世代の発信に対して企業もきちんと対応していかなければいけない、というのが大きな背景としてあると思います。規制が中心になってサステナビリティの動きがあるというよりも、実際の消費者たちが要求してサステナビリティに対する関心が高まっているというのが現状です。
Image:DNX Ventures
そういった中で皆さんもご存知のテスラが非常に販売を伸ばしています。シリコンバレーの2022年上半期の自動車販売台数の約30%が電気自動車でした。ちなみに全米平均は5%でした。シリコンバレーではあらゆる場所でテスラを見かけます。
翻って、日本の2021年の新車販売台数のうち電気自動車は全体の1%にも達していない状況です。電気自動車に対する関心、そして販売台数も、日米の差が大きく開いています。
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Appleのカーボンニュートラル 大企業の脱炭素の取り組み
さらに、大企業も真剣に環境保護の分野に取り組み、環境を前面に打ち出したビジネスを展開しています。Appleでは、既にオフィスや店舗、社員の出張などに関してのカーボンニュートラルを達成しています。達成するために、オフィスの省エネルギー化で電力消費を5分の1に削減したり、自社で再生エネルギーのプロジェクトを進め、カーボンクレジットの購入にも積極的に取り組むなどして、カーボンニュートラルを達成してます。
さらに、2030年にはサプライチェーンの100%カーボンニュートラル達成を約束しています。自社だけでなく、そこに関わってくるサプライヤーの人たちに対しても100%カーボンニュートラルを要求することで、Appleのエコシステム全体で環境保護、カーボンニュートラルを目指しています。
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ほかにも、ドイツのケミカル会社のBASFも積極的に環境保護、カーボンニュートラルの取り組みを進めています。同社の4万5,000点の全商品にCO2排出量を「見える化」し、顧客に提示するという取り組みをしています。
顧客側は自分の買ったプロダクトがどれだけCO2を排出して作られたかを把握できることで、カーボンクレジットを買うのか、それとも多少値段が高くてもCO2排出量の少ない商品に変えていくのかを選ぶことができます。
このように、大企業、そして個人レベルでも環境分野で積極的に動き、発信しているのがアメリカを中心にした世界の流れになっています。そういった中でベンチャーキャピタルでもClimate Techに対する投資は継続して伸ばしています。
成長続くClimate Tech領域のどこに注目すべきか?
2022年はベンチャーキャピタルの世界では厳しい年で、投資額は前年比約30%減でしたが、Climate Tech領域では80%以上増加しています。Climate Techに対する関心はさらに強まり、投資額も増えているというのが現状です。国別でみると、アメリカ、ヨーロッパ、それから中国が積極的に投資をしています。
Climate Techの投資領域は幅広く、再生エネルギーや資源、蓄電、生態系、農業プラス食料などがありますが、投資額が多いのはやはりストレージと呼ばれる電池、そしてモビリティと言われるEVを含む乗り物の分野です。それ以外では再生エネルギーにも投資が多く集まっています。
Image:DNX Ventures
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イノベーションのハイプカーブを見てみると、電池、EV、再生可能エネルギーが右側になっています。これは何を意味するかというと、技術的にはそれなりに成熟をしており、ここからマスプロダクションに入っていくという段階に来ている技術、ということになります。
こういった成熟してきた技術において、これを基に新しいビジネスを展開をするスタートアップもどんどん生まれてきています。例えば、EVの世界ではご存知のようにたくさんのスタートアップが生まれ、電気自動車を作っていますが、EVから派生した電池の技術を使ってより違う分野に広げ、新しいモビリティを提供する会社もどんどん出てきています。つまり、成熟した技術の出現によって、さらにその技術を活用した新しいスタートアップが生まれてくるという流れが起きています。
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我々のようなアーリーステージのベンチャーキャピタルにとって重要なのは、図のオレンジ色の技術分野で、約2〜5年かかってこの技術が成熟していくだろうと予想されているところです。このカーブを降りていく部分は期待が上がっていきながらもなかなかビジネスとして、技術として進歩しなかったところで、市場の期待値が下がって幻滅期になっているところに対して、その中でも光るスタートアップ、素晴らしい技術を持っている会社を見つけて投資をするという取り組みをやっています。
そういった中で、この図の右側にある再生可能エネルギーや蓄電といった分野は成熟した技術が確立されてきた分野、それ以外のバイオスフィアやアグリカルチャーフード、サーキュラーエコノミー、カーボンマーケットといった分野は今後成熟が期待される領域と捉えております。そういった中で当社もこういった分野での投資に積極的に取り組んでいます。
大企業とスタートアップは「別の生き物」と認識せよ
世界中に様々なスタートアップがありますが、大企業の方々とスタートアップの違いは、「哺乳類と昆虫」ぐらい大きく違うと思っています。それは何かと言うと「寿命」です。基本的に、スタートアップはものすごく短い寿命で、大体1年から2年ぐらいでお金が尽きてしまいます。その短い一生の中で、しっかりとスピードを持って開発をしていく必要があり、一番重要なのはやはりスピードです。
一方、大企業の方々にとって重要なのは、自分たちのブランドを守らないといけない、といった重要事項があります。そのため、動くスピード感はスタートアップと大企業によって大きく違います。
ですので、こういったスタートアップと大企業が協業する際に、まず最初にこのスピード感で大きな違いがある点にぜひ気づいていただきたいです。もう一つは、このスピード重視でスタートアップは活動しているために、製品の品質は雑になりがちです。それは彼らが好んで雑にしてるわけではなく、スピードが大切だからこそ、それを実現する上で製品が雑になりがちだということです。その点を大企業には、しっかりと見守っていただきながら、プロダクトとして価値を高め、クオリティを高めて、事業会社の皆さんと提携を進めていく点が大事になります。皆さんのあたたかい目でのサポートはすごく重要です。
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そして、可能性のある優秀なスタートアップには、世界中の事業会社がアプローチをしています。一緒に取り組もうと行動しています。ですので、スタートアップ側がパートナーを選ぶ、という点も考慮いただいた方がいいと思います。
大企業、事業会社は「選ばれる側」として、スタートアップに対して魅力的なセールスピッチをして、彼らと一緒にどのような未来を築けるかについて、積極的にぜひアプローチをする必要があります。
スタートアップ側から選ばれるためにやることが、大きく分けて2つあります。まず、スタートアップに対して、こういったイベントを通じて最新の技術、ビジネスモデル、競合などの情報を集め、市場について理解を深めることです。その上で、そのスタートアップと事業会社が協業したときに明るい未来があるのかということをきちんとプレゼンテーションできる準備をする必要があります。協業に向けたプランとイメージの共有が大事になりますので、その点に積極的に取り組んでいただければと思います。
もう1点が社内に対して、シリコンバレーをはじめ海外には日本とは違う世界がありますし、日本より半歩、一歩先を行っている部分もあると思います。ぜひ現地を直接訪れて、最新の動向に触れる機会を作っていただくことが大事です。加えて、事業部の仲間をつくって現地を一緒に訪ねたり、幹部の方をぜひシリコンバレーに連れてくることに、積極的に取り組んでいただければしていただければ、スタートアップに選ばれ協業を成功に導くきっかけになると思います。