自動車内でAR(拡張現実)を映し出す技術を開発するCY Vision。自動運転車のフロントガラスなどに道路状況やレストラン、街のガイド、買い物などの情報を映し出せる技術を開発中。ドイツと日本の自動車メーカーとも実証実験を行っており、日本展開に向けたパートナーシップも模索中だ。今回は創業者でCEOのOrkun Oguz氏に話を聞いた。

トルコのイスタンブールで起業。欧州、日本市場がターゲット

――どのような経緯で起業をしたのでしょうか。

 私たちはコンピュータホログラフィの技術を、自動運転などの領域でのAR(拡張現実)のイメージ生成に適用しようとしています。

 起業のきっかけは、高校時代の同級生がイスタンブールでコンピュータホログラフィの研究をしていたことです。彼は欧州研究評議会から非常に大きな助成金を受けていました。彼の研究を実用化しようと、イスタンブールにオフィスを構えたのが起業の始まりでした。

Orkun Oguz
CY Vision
Co-Founder & CEO
1997年にUniversity of GeorgiaでMBA取得。コンサルティング会社、銀行を経て、2016年にCY Visionを設立しCEOに就任。
 その後、シリコンバレー拠点を作り、私自身は2016年から2020年の初めまでシリコンバレーにいました。今は欧州展開のためにイスタンブールに戻ってきていますが、実は私たちは日本を2番目のターゲットにしています。

自動運転車のフロントガラスにARで情報表示

――自動車に対してARをどのように使うのでしょうか。

 今は安全性を確保するためのARを作成していて、私たちはキャビンの中と外の両方でARイメージを作ることができる唯一の企業です。

 自動車は自動運転化される方向に向かっており、ARの役割は非常に重要です。次世代の車では、もっとエンターテインメントやトレーニングなどもできるようになる見通しで、そのときに私たちの技術はARを作るのに大変適しています。

 完全な自動運転車がいつできるか分かりませんが、いずれにせよ運転手が介在する時間というのは存在します。その前の数時間は運転していなかったとしても、ある瞬間に人間が何かをしないといけないことはあり得ます。そのときに、迅速かつ効率的に運転手にその状況を理解してもらう必要があります。

最寄りのカフェまでのナビ情報をフロントガラスに表示(CY Visionコンセプトムービーより)

 一方で、完全な自動運転車に近づくにつれ、自動車のフロントガラスはスマホの画面に代わる大画面ともなり得ます。自動車には大きなフロントガラスがあるのに、なぜスマホの小さな画面を見る必要があるのでしょうか?

 私たちの技術により、自動車のフロントガラスに道路状況や素敵なレストラン、今通り過ぎた街の歴史、あるいはショッピングの情報などを表示することができます。

ティア1の部品メーカーを通じて量産化へ

――どうして自動車に注目したのでしょうか。

 自動車業界が大きな変化を遂げようとしているからです。毎年9000万台以上の自動車が販売され、14億台近くの自動車が道路を走っている巨大産業です。これから自動運転車の登場など、非常に大きな変化が訪れ、私たちスタートアップにもチャンスがあると考えました。

 もうひとつ、自動車業界では悲しいことに毎年、数多くの人々が交通事故で亡くなっています。私たちの技術を活用することで、事故の状況や原因の分析に役立てたいと考えたのです。

歩行者を自動で認識し、フロントガラスにて注意喚起(CY Visionコンセプトムービーより)

――他社に比べた強みはどのような点にありますか。

 既存のヘッドアップディスプレイは2Dで、角度が5~8度しかなく視野が狭いのです。OEM企業はこれをどうにか広げられれば、利用者に全く違った顧客経験をしてもらえると考えています。

 私たちの技術では15~20度で非常に見える範囲が広く、さらに本物の3Dデータを作ることができます。ナビゲーションが必要であれば矢印が目の前に現れたり、トンネルの高さが表示されたり、多様な情報を提供することができます。

――顧客はどのような企業ですか。

 ドイツと日本のOEM企業、EVスタートアップが顧客です。

 今後はティア1の部品メーカーともパートナーシップを結びたいと考えています。ご存知の通り、自動車は品質や製品管理の面で非常に厳しい業界です。ですから、私たちはティア1の部品メーカーを通じて量産化を進めたいと考えています。すでにいくつかの企業とパートナーシップの話し合いをしています。

――どんなビジネスモデルを考えていますか。

 コラボレーションソフトウェアをOEMかティア1にライセンスする形です。そして、ティア1にハードウェアの部分を任せたいと考えています。 

――日本市場の参入には関心がありますか?

 ええ、日本のティア1と組むことに大変関心があります。まずはパートナーを得て、日本で拠点を構え、カスタマイズをするための技術者を確保したいと考えています。



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