Image: Common Networks
2016年に設立されたCommon Networksは、通信会社の選択肢が少ない郊外の家庭をターゲットに、安価で高速のワイヤレス通信環境を提供するスタートアップ。今回はCo-founder & CEOのZach Brock氏にインタビューした。

Zach Brock
Common Networks
Co-founder & CEO
オーリン・カレッジ・オブ・エンジニアリングを卒業後、複数のスタートアップを経て決済大手のSquareでエンジニアリング・マネジャーを務める。2016年にCommon Networksを共同設立。CEOに就任。

近隣の家庭と接続し、地域のメッシュネットワークを形成

―まずは、御社の企業ミッションを教えてください。

 我々のミッションは「すべての人により良いインターネット環境を提供する」ことです。特に、郊外に住む方々に良質でスピーディ、そして信頼性の高いブロードバンドをお届けすることに注力しています。私たちは、ワイヤレスソフトウェアを基盤にしたブロードバンドネットワークを構築し、光ファイバー回線を家庭に取り込むよりもはるかに安価でありながら、光ファイバーと同等のスピードを実現します。

―どのようにインターネット環境を整備するのでしょうか?

 各家庭の屋根に小型アンテナ3、4個程度の装置を設置します。それを近隣の家庭と接続し、地域のメッシュネットワークを形成します。そこに、当社のソフトウェアを走らせ、高速で信頼性の高いインターネット環境を構築するのです。やり方としては、テレビアンテナを立てるのに似ていますね。ただ、テレビの場合、アンテナは空に向かって立てますが、当社のアンテナは近隣の家庭に向けて設置する、という違いがあります。そしてすべての家庭が一緒にネットワークに貢献し、コミュニティにより良いインターネットアクセス環境を提供します。

―他の電波や天候の影響を受けることもあるのでしょうか。

 ないですね。ネットワークを設計・構築する段階で、そういったことはしっかり考慮しています。私たちは基本設備をセットする際、近隣のアンテナ間の距離を最小限にしたうえで、雨などの悪天候にも対応できるよう、十分なバッファをとるよう注意しています。研究室ではうまくいくのに、現実世界ではダメだった、ということはよくあります。それを避けるためにはあらゆる条件にも負けないよう、スマートでダイナミック、そして適応力の高い製品を提供しています。

―収益モデルはどのようになっていますか?

 インストール費用はありませんし、有期契約の形もとっていません。利用料は月額50ドルで、追加料金はいっさいかかりません。お客様にとってわかりやすい、明朗なシステムです。

Image: Common Networks

一社独占市場によるサービス低下に警鐘、カンフル剤役を担う

―主に郊外に暮らす方を対象にしたビジネスとのことですが、いま郊外ではどのような問題を抱えているのでしょうか。

 まず、ブロードバンドのプロバイダの選択肢が限られ、独占市場になっているという問題があります。ひどいときは1社が地域を押さえていることもあります。地元のケーブルネットワーク会社であることが多いですが、彼らは概してカスタマーサービスが不十分で、高額な割に信頼性も不足していて、顧客満足度は国内でも最低ランクであることも少なくありません。もっと良い選択肢があって然るべきですよね。我々は、そういった市場に競争力の高いサービスを投入します。良質なパフォーマンスと正当な価格、充実したサポート体制を提供します。

―御社のサービスに変えたことで、実際に利用者の体験は向上したのでしょうか?

 もちろんです。当社のサービスを利用し、あらためて従来のケーブルプロバイダに対して、憤りを感じるという方もいます。我々は今や、インターネットなしで暮らすことはできません。水や電気のように、人々の生活に欠かせないものになっていますから、どんなにプロバイダのサービスが悪く、価格が高くても、それを利用する以外になかったのです。

―プロバイダは競合も多いと思いますが、他社にはない御社独自の強みを教えていただけますか?

 最大のポイントは、郊外の方を対象に高速かつ良質なブロードバンドサービスを提供する方法を生み出したのが我々だ、ということです。サンフランシスコにいれば、インターネット環境に満足いかなければ、別のプロバイダに変えれば済むことです。しかし、郊外の場合はそうはいきません。それが最も基本的な問題で、我々が解決したいと考えている点です。

 また、当社が他のワイヤレス通信会社と異なる点は、我々が回線容量の大きさにこだわっているところかもしれません。今は家庭で動画のストリーミングやゲーム、ビデオチャットなどを楽しむ時代で、ダウンロードだけでなくアップロードにも回線容量が重要です。防犯カメラやリモートワークにも同様ですね。当社では、通常のプロバイダと比べて、約10倍ものアップロード容量を提供しています。

Image: Common Networks

インターネットのユースケース拡大と技術の進歩を好機に、全国および世界へ

―次に、CEOの経歴や御社を立ち上げるまでの道のりをお聞かせください。

 学生時代は工学を学び、卒業後は複数のスタートアップで働きました。当初はエンジニアリングコンサルティングの仕事をして、多くの企業で問題のスキャンニングや機能開発に携わりました。それから、決済関連スタートアップのSquareで、グローバル戦略担当を務めました。同社の日本支社立ち上げを手がけたのも私たちです。私が入った時点では社員が20名だったのですが、それを5年間で1200名にまで育てあげたのです。

 そして4年前にSquareを退社しました。決済はビジネスを運営するうえで避けては通れないプロセスで、Square時代の私は、それを一から考える立場にいましたが、退社後は、家庭で暮らすうえで絶対必要なインターネットのテクノロジーを考える仕事を始めました。

 技術の進歩は目覚ましく、25年、30年前に作られたケーブルやDSLではすでに追いつかなくなっています。また、最近では無線技術が画期的に進化し、その価格も大幅に下落しました。これが我々にとって絶好の機会となったわけです。

―今後は海外展開も視野に入っているのでしょうか。

 現在はサンフランシスコベイエリアに拠点を置き、その郊外を中心に展開しています。今後は同じような条件下の地域をアメリカ国内で探すつもりです。ただ、海外にも価格や技術的な問題によってブロードバンドインフラが未熟な地域はたくさんあります。これはアメリカだけの問題ではありません。国内にも多くのビジネス機会はありますが、世界に目を向ければ、さらに大きくなるでしょう。

―日本企業と提携する、ということもありますか?

 そうですね。日本には世界最先端の電波およびチップ製造企業が数多くあります。世界最大級の通信会社も複数ありますね。そういった企業なら、当社のミッションやビジネスを一緒にやっていけると思います。また、我々は独自のアプローチでテクノロジーを扱っていますので、大手企業にも興味を持っていただけると自負しています。世界へと拡大していくうえで、パートナー企業は大いに歓迎します。

―日本での展開についても検討されていますか?

 東京の郊外でも、インターネットアクセスが不十分な地域もあると思います。我々はあらゆる国の、あらゆる地域でサービスを提供したいと思います。私は常々、市場に競争力を投じることが、顧客にとって有益なことだと考えていますので、我々の力が役に立てるでしょう。

―楽しみですね。では最後に、将来的な展望をお聞かせください。

 今後10年、20年はインターネットへの需要、さらに回線容量への需要は拡大していくと思われます。人々はさらにインターネット接続を求め、どんどん新しいユースケースも増えていくでしょう。そんな時、今のスケールで対応できるかどうかわかりません。きっと今よりスマートでイノベーティブな方法で家庭に容量を提供していかなければならないでしょう。私たちはこうした課題に取り組んでいきたいと思います。



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