腸内細菌がグループを作って群生する様子を、花畑になぞらえて腸内フローラ(腸内細菌叢)と呼ぶが、腸内細菌叢は「もう1つの臓器」と言われるほど、健康と密接な関係があると言われている。この誰もが体の中に持つ"花畑"に着目し、カルビーが開発したのが「Body Granola(ボディグラノーラ)」。カルビーがスタートアップとの協業を通じて事業化に至った取り組みで、メタジェンとサイキンソーの2社がサービスの開発から運用まで密接に関わっている。発売から1年が経った手応えや今後のさらなる展望を、カルビー事業開発担当者の金子哲也氏に聞いた。

目次
そもそもボディグラノーラとは?
きっかけはスタートアップとの出会い
パーソナライズは「食と健康」の鍵

そもそもボディグラノーラとは?

―ボディグラノーラの発売から1年が経過しました。あらためて、ボディグラノーラとはどんなサービスかご説明いただけますか

 ボディグラノーラは腸内フローラを検査し、「あなたにぴったりのグラノーラ」をお届けする定期購買サービスです。実は腸内フローラは人それぞれ異なるため、自分の腸内細菌が好む食事をとることが大切だと言われています。腸内フローラ検査では、腸内細菌の種類や腸内フローラのタイプがわかります。検査結果を参考にグラノーラのトッピングを選ぶことで自分専用のグラノーラが完成します。腸内細菌が好む素材を毎日の生活に取り入れることができるサービスです。
 
 お召し上がり方で特徴的なのは、基本となる「ベースグラノーラ」に、お客様自身で選んだ「プレバイオティクストッピング」3種類を混ぜてから召し上がっていただく点です。このトッピングには腸内細菌が好む素材が含まれています。牛乳やヨーグルトをかけてもおいしいですし、中にはそのまま召し上がっていただいている方もいらっしゃいます。

腸内細菌が好む素材が含まれている(カルビー提供)

 腸内にはビフィズス菌や乳酸菌などおよそ1,000種類、40兆個の菌が存在しますが、腸内フローラ検査ではその中でも、健康に関する研究成果が報告されている「短鎖脂肪酸」をつくるメインプレーヤー6菌に着目し、その保有割合ををもとに腸内フローラのタイプを判定します。さらに、その他の主要14菌、腸内細菌の多様性、口腔常在菌、エクオール産生菌、やせ菌を確認することができます。

 このように、まず腸内フローラを検査しないとグラノーラを購入できない点が制約ではあるのですが、大きな特徴でもあります。

 今回のサービスを作る上で、検査に1万円近くかかる商品がどこまでお客様に受け入れられるかを、検証ポイントとして見ていましたが、その点は結構受け入れていただいたのではないかと思っています。自分の身体のメンテナンスをしなきゃいけないという意識をお持ちの方が多いと改めて思いましたね。

短鎖脂肪酸とは:
腸内細菌が食物繊維などのエサを食べることで作られる物質で、酢酸・プロピオン酸・酪酸などの種類がある。腸内細菌により作られた短鎖脂肪酸は基礎代謝の向上など、健康に関する様々な研究結果が論文で報告されている。(カルビーHPより引用)

「短鎖脂肪酸」をつくるメインプレーヤー6菌とその特徴(カルビー提供)

きっかけはスタートアップとの出会い

―近年、腸内フローラへの関心が高まっていますが、これをグラノーラ製品と掛け合わせようと考えた理由は。ボディグラノーラの開発の経緯を教えてください。

 新規事業として新たに「健康」に関する事業を模索していた中、コロナ禍の2020年夏ごろ、展示会で腸内環境研究で国内最先端をいくメタジェンさんと出会いました。その出会いを通じて、腸内環境が身体に及ぼすメカニズムの活用が進んできているという印象を受けたのがきっかけです。メタジェンのCEOで腸内環境研究の第一人者でもある福田真嗣先生からは、「腸内デザイン」という個人の腸内環境に合わせたアプローチに関するアドバイスなどをいただきました。

 もともとグラノーラは食物繊維が豊富で、腸内環境に良い影響を与え、便通に良いとも言われていました。ここに腸内デザインという考え方を組み合わせることで、一歩進んだ提案となり、弊社のシリアル事業を飛躍させ得るのではないかというビジョンを描きました。

 ルーティーン化しやすいという朝食の特性も踏まえ、朝食であれば、うまく毎日腸に良いものを摂り続けていただけるのではないか、継続率が高い事業ができるのではないか、と思いました。

 研究面と事業面の両方を考えてシリアルで腸内環境に着目するというのが面白そうだなと思い、共同研究など約2年半の開発期間を経て、2023年4月に正式にボディグラノーラとして販売されたという経緯です。

メタジェン
 2015年設立、本社は山形県鶴岡市。腸内デザイン学を専門とする福田 真嗣氏が設立し、代表取締役社長CEOを務める。腸内細菌の遺伝子解析(メタゲノミクス)と代謝物質解析(メタボロミクス)、そこで得られた膨大な情報の統合解析を行うバイオインフォマティクスを核とした、独自の腸内環境評価手法「メタボロゲノミクス」を確立し、”腸内環境の制御”までを念頭に置いた腸内環境評価を可能にした。

―今お話に挙がりましたが、ボディグラノーラはメタジェン、サイキンソーというスタートアップ2社との協業で生まれた製品ですね。2社の役割について教えてください。

 腸内フローラ検査は、検査実績が国内最大規模を誇るサイキンソー様に委託しています。日本全国の人に腸内フローラの検査を受けてもらう基盤を作るにはサイキンソー様の広範な基盤が不可欠です。サイキンソー様は既に10万人規模の検査実績があると聞いています。

 メタジェン様には、ボディグラノーラ全体の監修をしていただいています。お客様へのサービスの見せ方や、この商品は薬ではなくあくまでも食品なのでどのようにマーケティングしていくべきなのかといったことを相談させていただいています。

サイキンソー
 2014年設立、本社は東京都渋谷区。「細菌叢で人々を健康に」をミッションに掲げ、自宅でできる腸内フローラ検査サービス「マイキンソー」などを提供している。医療機関向けの検査「マイキンソープロ」や乳幼児や子ども向けの「マイキンソーキッズ」、腸内環境に合った花粉症セルフケアをレコメンドする「マイキンソーHana」など多様なサービスを展開している。

腸内フローラの検査キット(カルビー提供)

―2年半の開発期間を経ての製品ローンチとおっしゃっていましたが、開発ではどのような点に苦労しましたか。

 論文など研究面で「この菌には、この素材が良い」という事実が明らかにされている一方、それらをグラノーラに混ぜた時、お客様においしく召し上がっていただけるかという、2つの要素を両立させるのが開発チームが苦労したポイントです。開発段階では、特定の成分をグラノーラに混ぜることで、水っぽくなってしまったり、逆に固くなってしまったり、食感が損なわれる問題にも直面しましたね。

 味に関しては、例えば腸内に「バクテロイデス」という菌が多い場合は、水溶性食物繊維の一種である「イヌリン」が菌のエサになるのですが、このイヌリン入りのトッピングにはほうじ茶のフレーバーを入れています。6種類のトッピングそれぞれに異なるフレーバーを入れているので、さまざまなフレーバーの組み合わせになるわけですが、どの組み合わせでもおいしくなるよう全体の味のバランスを取ることは苦労した点でもあり、食品会社として強くこだわった点でもあります。

ベースグラノーラと6種類のトッピング(カルビー提供)

パーソナライズが「食と健康」の鍵

―発売から1年が経過しましたが、購買層は想定通りでしたか。

 もともと、20代から40代の女性で腸活を実践している方、例えば、ヨガなどに通っていて、美容にも関心があるようなペルソナを想定していました。ふたを開けてみると、もちろんそういった方たちも実際に買っていただいていることが分かっていますが、40~50代の女性から支持を受けている傾向にあることが分かりました。美容や健康に関心があるのはもちろん、少し身体の調子も悪くなってきて、自分の身体に課題感や見直したいという気持ちのある方が買っていただいているのではないかと思います。

―腸内フローラや身体で抱える悩みは人それぞれということで、「パーソナライズ」は重要なキーワードになりそうですね。最後に、今後の展望を教えてください。

 まず、今後はボディグラノーラの会員数をさらに増やしていくことが目標です。現在、1万人の会員を獲得していますが、5年間で10万人を目指しています。ターゲット層に理解を深めていただくため、腸内フローラの重要性や検査の意義を広める活動を続ける予定です。

 パーソナライズは「食と健康」の鍵を握っていると思っています。世の中、健康食品はすごく増えているのに生活習慣病などの患者さんはあまり減っていない、むしろ増えているという状況があります。その理由が何かを考えた時、やはり、まずは自分に合った食事を知らないからではないかと。それを知らないまま日々の生活で食事を続けてしまっているということが問題としてあるのではないかと考えています。

 また、今年4月にはボディグラノーラ会員向けに「パーソナルオンライン食事コーチングサービス」を立ち上げました。医師監修の下、管理栄養士とマンツーマンでの食事のコーチングが行えるサービスです。商品の提供だけでなく、こうした取り組みを通じて消費者の健康を総合的にサポートする体制を整えていきたいです。

金子 哲也
グループ戦略統括本部 アグリ・食と健康事業推進本部
食と健康事業推進部 事業開発課 課長



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