「すべての学校のすべての生徒が、教育課程の一環としてコンピューターサイエンスを学ぶ機会を」というビジョンを掲げる、非営利団体のCode.org(本部:米シアトル)。オープンソース技術を使用して設計されているプログラミングコースは、67以上の言語で無料で提供され、180カ国以上で利用されている。

Microsoft、Amazon、Googleをはじめとする大手テック企業などが支援するCode.orgは、性別、人種、世帯の収入、地理的な違いといった格差をなくし、コンピューターサイエンス分野の公平性、多様性の向上を目指す。2013年にCode.orgを設立したCEOのHadi Partovi氏に、設立の経緯やミッションについて話を聞いた。

コンピューターサイエンスを学んだことが、キャリアの成功につながった

 1980年代のイラン・イラク戦争中にイランで育ったPartovi氏が、コーディングを学び始めたのは10歳の時だったという。学校ではコンピューターサイエンスの授業は無く、独学でコーディングを学んだ。米国に移住後、15歳の時にはテック企業でインターンとして働き始め、ハーバード大学ではコンピューターサイエンスを専攻した。卒業後は、Microsoftに就職し、1990年代のブラウザ戦争時の真っ只中、ウェブブラウザのInternet Explorer を開発するチームを率いた。

 Microsoft退職後は、スタートアップのTellme Networks、iLikeの創業に関わり、それぞれMicrosoft、Newscorpに売却。また、エンジェル投資家として、Facebook、Airbnb、Dropbox、Uber等様々なテック企業にもアドバイザーとして支援してきた。

Hadi Partovi
Code.org
Co-Founder & CEO
Harvard Universityでコンピューターサイエンスの学士号及び修士号を取得後、Microsoftに入社し、Internet Explorer チームを率いる。その後、Tellme Networks(Microsoftが買収)、iLike(Newscorpが買収)の2つのスタートアップを起業。その他、Facebook、Dropbox、airbnb、Uberなど、多くのテック企業での初期アドバイザーや投資家を務める。2013年に双子のAli PartoviとCode.orgを共同設立、CEOに就任。Axon社の取締役なども務める。

 自身が立ち上げたスタートアップの売却や、エンジェル投資家という経験から、世の中に還元できることは何かを考えるようになり、Code.orgが生まれたというPartovi氏。自分自身もコーディングとコンピューターサイエンスの教育を受けたことが、キャリアの成功につながったとし、性別、人種・民族的マイノリティー、世帯の収入等による格差をなくし、全ての子供たちが学校で平等にコンピューターサイエンスを学ぶ機会を持てるようにと、Code.orgの活動を始めた。

1時間で楽しく学べる「Hour of Code」から、4~18歳まで年齢別コースも

 Code.orgのコースは、幼稚園から高校生までの義務教育期間の生徒を対象としている。Code.orgで最も人気のコースは、1時間のアクティビティとチュートリアルで構成される「Hour of Code」(1時間プログラミング)だ。コーディングの面白さ、魅力を発見することができるコースとなっている。

 Hour of Codeには、子供たちに人気の「マインクラフト」や「アナと雪の女王」を使ったアクティビティがあるが、特に人気が高いアクティビティは、好きな曲を選んでダンスの振り付けをコーディングする「ダンスパーティー」だという。創造性と同時にコーディングの概念も学ぶことができる同アクティビティは、1億人近い子供たちによってこれまで利用されてきた。

Image:Code.org

 一方、初心者向けの20時間コースも人気が高い。4歳から18歳まで年齢別にコースが用意され、基本的なコーディングのループ、関数、変数等を学ぶことができる。あらゆるプログラミング言語においてコンピューターサイエンスの核となる概念を、20時間程度で教える。さらに、教員に対してはワークショップとオンラインサポートも提供する。

「代数学、生物学、化学等と同じようにコンピューターサイエンスが教育課程の一部として学校によって導入されるように、米国の州や地区の政策立案者に働きかけています」とPartovi氏が述べるように、Code.orgでは、コンピューターサイエンスのコースの作成とその無償提供、教師のトレーニングの場の提供、学区との提携、政府の政策変更支援、固定観念を打ち破るマーケティングなど、教育分野全般で総合的なアプローチを取っている。

オバマ元大統領や大手テック企業が賛同、支援する

 現在、Code.orgの最大の支援者はMicrosoftとAmazonだという。このほか、同社の資金源の大半は企業、特にテック関連企業からの寄付による。さらに、1年に10ドル、20ドルの寄付をする個人も多い。このようにCode.orgの取り組みが支持される理由をPartovi氏は以下のように語った。

「2013年の創業時、従業員がまだ5人だった頃の私たちの目標は、創業から6カ月後にコンピューターサイエンスを推進するキャンペーンを立ち上げ、Googleのトップページに載り、Apple、Microsoftの全店舗で紹介され、アメリカ大統領のスピーチに取り上げられ、1,000万人のユーザー(学生)を獲得することでした。私たちはこれを5カ月半で実現しました。設立から5カ月半で、Google、Apple、Microsoftそして、オバマ大統領(当時)が我々の活動に賛同し、パートナーとなっていました。これが私たちのスタートです」

 目標が実現した理由を、Partovi氏はこう語る。

「誰もが支持する良いアイデアだったからです。世の中にはいろいろなアイデアがありますが、そのほとんどに賛成派と反対派がいます。一方、子供たちにコンピューターサイエンスを教えるという考えには、誰もが賛成しています。ビジネスリーダー、保護者、生徒、教師、政治家、あらゆるグループの科学者が、あらゆるキャリアにとってコンピューターサイエンスが子供たちにチャンスを与えるために重要である、と考えているからです。また、私自身のこれまでの人脈、コネクション、技術面での実績も目標実現に一役を買いました」

 著名人によるキャンペーンPR動画、SNSを活用したコンピューターサイエンス教育の啓発、Code.orgのプログラミングコースが、67以上の言語で無料で提供されていることから、Code.orgは世界最大規模のコンピューターサイエンスコースの提供者という存在になっている。

米国から世界に広がる教育の必修化

 Code.orgの学校へのアプローチ、コースの普及は、パートナー組織及び企業との連携が鍵となる。米国では各地域に60のパートナーを有し、グローバル規模では、110のパートナーを有する。パートナーに対して、Code.orgは、プレイブック、IP、学習プラットフォームを提供している。

 Code.orgの日本における長年のパートナーに特定非営利活動法人「みんなのコード」がある。日本でのプログラミング教育を提唱し多くの活動を行う同団体は、日本におけるCode.orgの「Hour of Code」ムーブメントを率先して拡大したという。Code.orgによると、2021年には日本のHour of Code参加者数は、米国に次いで世界で2番目に多くなった。

 日本では、2020年度からプログラミング教育が小学校で必修化されるなど、コンピューターサイエンスの学習拡大が注力されているが、Partovi氏はCode.orgが提供するコースが、日本政府が授業で求めるものに合致しており、今後より広く展開することができると期待する。そのために、日本の企業、特にテック系の企業との提携を求めている。

「企業は変化を提唱し、学生をインスパイアすることができます。私たちはテック業界の偉大な人たちを取り上げた動画を多く公開していますが、そのほとんどはアメリカ人です。日本人のロールモデルや有名人を起用した動画を作ることも、日本企業の協力で実現できることです」

 Partovi氏は、今後10年の間に米国全土の高校での評価にコンピューターサイエンスが必須になるという目標を掲げる。現在、米国では5つの州でコンピューターサイエンスが卒業要件に必須となった。さらに、新たに5つの州で同じ動きが予定されているという。

「このペースでいくと、10年後までにはすべての州の高校でコンピューターサイエンスが必須になる目標に近づくことができるでしょう。また、米国がコンピューターサイエンスを高校の卒業要件にすることで、多くの国が同じように取り組むと思います。2030年には、20~30カ国がコンピューターサイエンスを卒業の必須科目にすると考えてもおかしくはありません」

 Partovi氏の目標には、「すべての学校のすべての学生が、教育課程の一環としてコンピューターサイエンスを学ぶ機会を提供する」だけでなく、コンピューターサイエンスの分野やテック企業などでこれまで過小評価されてきたマイノリティーグループ (女性、アフリカ系アメリカ人、ヒスパニック系など) が教育にアクセスできるようにすることも掲げる。

 Code.orgは、世界で6,700万人以上の学生によって利用されているが、そのうちの45%が女生徒、50%が人種・民族のマイノリティーグループからという。Code.orgの積極的な取り組みにより、コンピューターサイエンス分野での公平性、多様性は着実に向上している。



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