Image: whiteMocca / Shutterstock
Canopyは、フィンテック企業のためのソフトウェアを提供する、BtoBに特化したスタートアップだ。銀行など金融機関の商品はどれも似たりよったりで、違いを比較することの方が難しい。これは、金融商品の開発には莫大なコストと時間がかかるため、差別化したくても、簡単には開発ができないという事情があったからだ。そうした金融業界のジレンマに応えるため、Canopyはスタートした。APIファーストのプラットフォームによって、次世代のクレジット、デビット、およびローン商品の開発するための柔軟なインフラを提供する。こうして小規模なフィンテックから大企業まで、他社にはない商品をスピーディに市場投入できるようになった。Canopyの共同創業者でCEOのMatt Bivons氏に、Canopyをおこした背景、サービスの内容について紹介してもらった。

金融機関が陥っている2つのジレンマ

 Bivons氏は、フィンテックのスタートアップGreenSkyや、Earnestで重要な役割を果たし、それぞれIPO、M&Aまで導いた経歴をもつ。情報通信技術やキャッシュレス化が進んだことによって、企業や消費者が求める金融サービスは急速に変化している。だが、こうしたニーズに応えるためには、大きな課題が2つあることに気づいたという。

Matt Bivons
Canopy
Co-founder & CEO
フィンテック系スタートアップGreenSky、Earnestを経て、2019年にCanopyを創業する。GreenSkyはナスダック上場、Earnestは学生ローンのNavientに買収された経験を持つ。プロダクト開発とマーケティング、分析、設計に11年以上のキャリアを持つ。2019年にCanopyを設立し、CEOに就任。

 1つは、基盤となるサービシングインフラが整備されていないため、ほとんどの銀行が旧態依然のまま、同じような商品を提供してしまっていることだ。

「どの銀行も同じようなサービスを提供しているはずです。それは、インフラ、サービシング・レイヤー、それらの商品を実際に作るルール・エンジンが同じだからです。それがこれらの組織のボトルネックになっています。銀行のサービスは50年以上の歴史を持つ企業の上に構築されており、非常に柔軟性に欠けるのです」(Bivons氏)

 つまり、フィンテックや銀行が、従来の画一的な商品から、多様な商品を展開するには、インフラ不足を解消する必要があった。

 また2つ目は、多くの金融機関がデビットカードから始めて、最終的にはローン市場へ参入を検討していることだ。こうした業務のため(サービシングという)には、エンドユーザーが支払った記録を残しておかなければならない。だが、社内でExcelなどのスプレッドシートを使って管理するのはとても現実的ではない。銀行が新しいサービスをはじめるためには、大規模なシステムを何百万ドルもの巨費と、1~2年という歳月をかけて構築する必要があった。

 そこでCanopyでは、あらゆる融資サービスをAPIベースで提供できるようにした。サービシング台帳、記録システム、ローンのルール(リボルビングクレジット、デビット、および固定金利、混合金利を含むすべてのタイプの分割払いローン)、ユーザーの支払いの会計処理、利息の計算、明細書の発行、顧客サービスツールの報告など、クレジットや金融商品を作るための構成要素を細分化して提供する。金融機関は、作りたい商品にあわせて必要なものをチョイスするだけでいい。自前で大規模システムを用意しなくても、容易に差別化できるようになり、競争力につながるようになった。

チョイスするだけで新しい商品をつくれるプラットフォーム

 このアプローチがマーケットにフィットし、2021年2〜5月には顧客数が4.5倍に増えるなど急成長している。その背景として、Bivons氏は自分たちが金融市場と消費者ニーズのギャップに焦点を当て、新しい市場を開拓しているからだと説明する。

「たとえばオンライン決済のStripeを見てみましょう。10年前にStripeが登場するまで、決済サービス業界はそれほど面白くありませんでしたが、より多くの人々がインターネット上でオンライン決済を行えるようにすることで、市場を開拓しました。インターネット上の商取引が増えれば増えるほど彼らが成長するように、Canopyは融資商品を提供する人が増えれば増えるほど、成長するビジネスモデルなのです」

Image: Canopy HP

 2021年8月、シリーズAラウンドでCanaan Partnersなどから1500万ドルを調達した。プロダクト第一主義を掲げ、資金はほぼ研究開発にあてる考え。現在、社員は30名おり、エンジニアチームを中心に2倍以上に増やしていく計画だ。

 海外進出も視野に入れているが、当面は北米のみで、具体的な計画はない。日本市場参入の可能性について問うと、まずは日本の決済業者や金融機関がどんな課題を抱えているか理解したいと述べた。国によって金融界のルールや事情は大きく異なるため、参入には慎重な姿勢だ。

テクノロジーで金融サービスの新しい市場を拓く

 今後、新しい技術開発の方向性について、「融資の透明性向上」と「パーソナライズ」「安全性」の3点を挙げた。返済状況に応じて金利が変動するローンの場合、ユーザーが現在の金利や今月必要な支払額を知りたいと思って金融機関に問い合わせても、有効な回答を得ることが難しい場合がある。そうしたストレスを解消できるように、リアルタイムに取引内容を確認できるものを目指す。

 もう1つは、コモディティ商品に満足できないユーザーのために、よりパーソナライズされた柔軟性を持たせること。そして最後は、API連携の安全性を保障するセキュリティとコンプライアンスを強化することだ。

 最後に、Bivons氏は長期ビジョンとして次のように述べた。

「私たちのミッションは、あらゆる金融機関が、パーソナライズされた、透明性と安全性の高い、革新的なクレジットおよび融資商品の立ち上げを支援することです。それが、最終的にユーザー一人ひとりの、より良い生活体験につながることを願っています」

 これまでになかった、より個人にフィットした金融サービス提供の支えとなるCanopyに期待したい。



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