目指すはシリコンバレー企業と日本企業のいいとこ取り。Box Japanが日本市場に馴染んだ理由

目指すはシリコンバレー企業と日本企業のいいとこ取り。Box Japanが日本市場に馴染んだ理由

Enterprise Software / IPO / Japanese Corporation / Startup / Box Japan
2020/06/03
シリコンバレーの代表的企業で、セキュリティの高いクラウドサービスを提供するBox。日本でも6000*社以上が導入し、日本企業のクラウド化をリードしている。Box Japanを立ち上げ、代表取締役社長を務める古市克典氏に、クラウドサービスの日本市場での難しさ、戦略を聞いた。またあわせて、働き方改革、新型コロナウイルス感染症への対応により急激に変化する日本企業の働き方、シリコンバレー企業との比較についても語ってもらった。 *インタビュー(2020年3月)時点での社数

データ保管サービスからコンテンツフル活用を追求するクラウド・コンテンツ・マネジメントへ

―「TECHBLITZ(旧The SV Startups 100)」が米国Box CEOのAaron Levie氏に取材してから5年ほど経ちました。この5年でBoxのサービスにはどのような変化があったのでしょうか。

 いま我々はCCM(Cloud Content Management/クラウド・コンテンツ・マネジメント)というブランドを掲げています。以前はクラウドストレージということで、データをクラウドで安全に保管するのがサービスの中心でした。しかし今は保管だけではなく、さらにそのコンテンツの活用にも移っています。コンテンツ管理、セキュリティ管理に加えて、ワークフロー、業務の自動化を進めています。またメタデータ、属性情報といったものも加えられます。画像、動画などは検索しづらいので、メタデータをそういったコンテンツから自動的にAIで読み取って付加できるようなAI連携もサービス提供しています。

 現在はデジタルトランスフォーメーションが進展し、多くのサービスやコンテンツがデジタル化しています。便利になる一方、ほとんどすべてのサービスがハッカーの標的になってきました。論理的には映画のようにハッキングによって大規模停電になったり、飛行機が墜落することも実際に起こりうるわけで、セキュリティ管理はより重要になります。Boxはセキュリティには大きな投資をしており、これからも機能を高め続けていきます。

古市 克典
Box Japan
代表取締役社長
2013年8月にBox Japanを設立し代表取締役社長に就任。前職は日本ベリサイン(現デジサート・ジャパン)の代表取締役社長。それ以前は、PRTM マネジメント・コンサルティング(現 PwC コンサルティング)のパートナー。新卒で入社したNTT ではシステムエンジニア、海外ビジネス開発、セールス、マーケティング、コーポレートプランニングなど、さまざまな役職を経験した。京都大学経済学部卒、ロンドン・ビジネス・スクールでMBA取得。
 

クラウドサービスでありながら部分カスタマイズを実現し日本市場へフィット

―古市さんがBoxの日本法人の法人登記から始められたということですが、日本での事業の展開において容易ではなかった点、壁は何でしたか。

 色々ありましたが、大きかったのはお客様の反応です。1つは情報管理をクラウドにシフトすることへのためらい。2つ目はカスタマイズ要望。何社かのお客様からは自社用のシステムを作ることを要望されました。

 クラウドシフトへのためらいは、今もまだ保守的な業界では残っています。そのようなお客様は、データの保管場所、セキュリティの問題、サーバーにアクセスするレスポンスタイムを理由に挙げることが多いです。

 また、心理的抵抗感もあるとも言います。理由が分かると対応は可能です。例えば保管場所の問題に対しては、データをすべて日本に置いておけるよう「Box Zones」というサービスを通じて国内のデータセンターを利用できるサービスを始めました。セキュリティに関しても、多くのグローバル認証を得ていることやセキュリティ事故が無いことなど実績の提示をします。レスポンスタイムに対しては、国内にBoxへのアクセスポイントを置いて改善を図っています。心理的抵抗感に関しては、抵抗感を上回る価値、業務の効率化を提示するようにしています。

―日本独自のサービスと日本企業との連携について教えてください。

 日本の開発パートナー、われわれはベストオブブリード(BoB)パートナーと呼んでいますが、彼らと一緒に、日本特有のニーズへのソリューションの開発を行っています。お客様からのカスタマイズ要望に対して、我々はフルカスタマイズはせずに、BoBパートナーと部分カスタマイズで対応しています。洋服のイージーオーダーみたいなものです。こういった対応により、早く安いというクラウドサービスのメリットを活かしながら、お客様のカスタマイズ要望を満たすようにしています。

 例えば、日本企業ではまだプリンターの需要が高いので、プリンターメーカー各社に、お客様社内のプリンターでスキャンするとそのままデータを自動的にBoxに送る仕組みを作ってもらいました。この仕組みはさらに進化し、今はコンビニエンスストアのプリンターからもBoxに送信できるようになっています。また、Boxからコンテンツをダウンロードした後もBoxで設定したアクセス制御を継続できるようにしています。さらに、Box上のコンテンツに電子署名を付けたり、印影を押せたりするサービスも提供しています。

―日本独自のサービスの実施についてアメリカ本社とはどのようにコミュニケーションを取っていますか。

 これまでにアメリカ本社から部分カスタマイズについてノーと言われたことはありません。Boxは多くの優れたAPI経由で日本のBoBパートナーと連携しソリューションを作っています。

 ただコア機能のカスタマイズは難しいです。あるお客様から「社員がBoxにアクセスできるのは会社からだけにして、自宅やカフェからアクセスできないようにしてほしい」という要望がありました。本社に交渉したら「いつでもどこからでも安全にコンテンツを活用できるのがBoxの価値。なぜ利用を制限するのか? お客様に正確にBoxの価値を理解してもらってくれ」と言われ、板挟みになりました(笑)。

 最終的には、お客様に選択肢を提供する意義を本社に理解してもらい、標準機能として組み込むのではなく、アクセス可能IPアドレスを制限する選択肢を設けることで解決しました。これによりお客様は利便性とセキュリティのバランスを独自に取れるようになりました。

―海外のスタートアップ企業が日本市場で成功するためには、どんなことが必要でしょうか。

 第一には強力で魅力的な製品・サービスです。そして、その製品が進化し続けること。今強力な製品でも、技術は日進月歩で変わっていきますから。

 2つ目は日本法人の当事者意識です。外資系日本法人はともすると本社からの指示待ちになりがちです。

 2つ目に関連しますが、日本法人と本社の信頼関係が3つ目です。製品力の強さにもよりますが、欧米で売れたからといって日本で売れるとは限りません。ダントツな製品力を持ちそのまま日本で売れるものはほんの一握りです。多くの製品は日本法人が責任を持ってビジネスを作っていく必要があります。我々の例で言うと、基本的には世界中に同じ機能を提供することで安く早くサービスを実現しています。標準機能をお客様が使いこなすことができるよう、我々は販売パートナーと一緒に顧客のユースケースを作り込み、拡げていっています。

働き方改革、生産性アップに貢献

―昨今の日本においては「働き方改革」が叫ばれ 、今年になり新型コロナウイルス感染症の影響もあって、会社員の働き方も大きく変化しています。この状況に対してBox Japanはどのようにサービスを提供していきますか。

 働き方改革はとても重要なことで、これは生産性アップに繋がります。日本の労働生産性はG7の中でダントツの最下位です。これまで日本は低い生産性を長い労働時間で補ってきましたが、それは長くは続かないでしょう。少子高齢化で人材は減り、育児、介護のため決まった時間に働けない人も増えています。さらに今回のように不測の事態が起こった時のBCP(Bussiness Continuity Planning/事業継続計画)もしっかり持たなくてはいけません。こういったことに対応するため、まずはリモートワークが増えると思います。これはBoxのオハコです。

 Boxが役立つのはリモートワーク環境の早期整備だけではありません。転職者や海外からの人材を取り入れ、早く戦力にすることが重要です。日本企業では各会社の独特な業務方法を習得しなければならず、人材の有効活用には時間が掛かります。一方、Boxのような世界標準的なサービスを利用することにより、独特の社内システムに慣れるための時間は減り、人材をすぐに戦力として活用できます。こういったところでもBoxは貢献できます。

日本企業とシリコンバレー企業のいいとこ取りで、最高の企業を作る

―Boxの日本でのビジョン、成長戦略を教えてください。

 一つは先ほどのCCMブランドで、ベストオブブリード(BoB)のパートナーの皆さんと一緒に日本企業に活力をもたらしたいということです。営業面では、現在国内で6000社以上の企業で使って頂いています。これらの顧客は業界のリーディングカンパニーが多く、そのサプライチェーンも幅広いです。お客さんは自社のBox環境にサプライヤーの方々を招待して情報を共有し、協業しています。まだ我々のお客様ではないサプライヤーの方々も、招待される形でBoxを使い、その便利さを実感して、導入されるケースが多いです。こういった効果は以前からありましたが、それをもっと加速していきます。

 分野別で言うと公共機関と金融業界、地域別で言うと関西と東海にBox導入の新しい波が来ています。公共機関はデジタル手続法ができ、クラウド・バイ・デフォルト原則の方針も示されたので、今年の後半からは加速していくでしょう。すでに広島県庁はBoxを大規模に活用してくださっています。データを国内に置くBox ZonesやBoBパートナーによるVPNサービスを提供し始めた結果、金融業界も大規模に導入し始めました。また、多くの関西や東海の企業もBoxを大規模に導入し始めており、ここから日本全体への波及を狙っています。

 マーケティングでは、今まで通り様々なセミナー、イベントをやりますが、それに加えてコミュニティ活動を増やしていきます。6000社超のお客様のユーザー会と、ユーザーでない方も巻き込んだコミュニティを作っています。昨年2月から始まってお客様同士が活発に情報交換しています。加えてマーケティングオートメーションで、データをフル活用してリードの生成を増やしています。

 新型コロナウイルスによる新しい生活様式は、それ以前から目指されていた働き方改革の延長線上にあります。それらを満たす職場環境を作るため、BoBパートナーとの連携をより強めていきます。最近ではSlack社やZoom社との連携を強めて、リモートワークをスムーズにできるようにしています。Boxのオフィス自体もショールーム化して、コロナ禍以前は1日に1、2社は見学して頂いていました。

 2つ目のビジョンは、日本企業とシリコンバレー企業のいいところ取りです。私はこれまで伝統的日本企業で10年以上、外資系企業で20年以上働いてきました。それぞれに長所、短所があります。Box Japanを両者の長所を備えた会社にします。これによりBox Japan社員が働きやすくなるだけでなく、見学に来られる日本企業の方々にとって参考になるような職場環境を作りたいと考えています。さらに他の外資系日本法人にとっても参考になれば最高です。

 ざっくり言うと、日本企業は現場社員の当事者意識や責任感が強く、継続的改善や高品質な運用が得意です。一方、シリコンバレー企業は立場に関係なく率直に議論する風土と合理的な意思決定のもと、創造的な製品開発や大胆かつ迅速な進化が得意です。両方の長所を持った企業が増えていくと、日本の社会全体がもっと元気になると思っています。

 シリコンバレー企業と伝統的日本企業、組織構造は似ていますが、運用実態や企業風土は大きく違います。それぞれの長所を抽出してブレンドしていく試みは、外資系日本法人だからできることであり、とてもやりがいがあります。この試みが、多くの日本企業や他の外資系日本法人にとっても参考になることを願っています。

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