インターネットにアクセスできない地域のために
――まずはAstranisを設立した経緯は何だったのでしょうか。
私は大学と大学院で、航空宇宙工学を専攻し、社会人になってからも宇宙産業における新しい技術、企業、ロケットや小型衛星など、業界内で起きている全てのことを見てきました。
そして、インターネットにアクセスできない40億人以上の人々がおり、インターネットサービスへの大きな需要に対応するサービスがないことに気づきました。GEO(静止軌道)に小型衛星を固定することで、地球上の特定地域にサービスを提供できます。世界中の人々をオンラインにつなぐ手助けをしたいと思い、Astranisを設立したんです。
衛星の小型化でコスト軽減
――御社は小型静止衛星によるブロードバンドサービスを提供しています。このサービスの特徴は何でしょうか。
多くの人が携帯電話を使い、どこにいてもオンラインになっていますし、そうなることを望んでいます。それを可能にするために、米国内にも多くのセルラー基地局が建てられ、光ファイバー網が敷設されていますが、これを全ての地形や地域で実現することは不可能なんです。そこで、衛星によるインターネットサービスの提供が選択肢に挙がります。
しかし、従来の衛星インターネットサービスは、2階建てバスと同じくらいの大きさで、製造に4〜5年必要で、3〜4億ドルの費用がかかり、打ち上げ費用もかなり高額です。そして、例えば、衛星1機で北米全域や南米全域の衛星テレビをカバーできるように設計されています。
当社の小型衛星は、新しい技術により、中小規模の国や地域に集中的にインターネットサービスを提供できるよう設計されています。製造および打ち上げコストも従来よりかからないんです。インターネットアクセスがない国や地域を対象に、従来の衛星より低コストで高速サービスを提供していること。これが、他社との違いであり当社の特徴です。
Image: Astranis Astranisの小型衛星
また、低軌道衛星を使ったコンステレーション(衛星のネットワーク化)の試みが活発に行われていますが、これは当社のアプローチとは違うんです。低軌道で衛星コンステレーションを構築し、どこでもオンラインになる通信環境を実現するためには、地球を完全に覆う数の衛星が必要になります。このアプローチには限界があるんです。
――最初はアラスカからスタートしたそうですね。
そうなんです。アラスカは、アメリカでは最後のフロンティアと呼ばれていて、多くの人がインターネットにつながっていない地域です。そういう意味で、私たちがこのプロジェクトを始めるぴったりの場所でした。
アラスカを皮切りに、世界中でプロジェクトが進行中
――御社のビジネスモデルを教えてもらえますか。
顧客は通信事業者です。彼らは遠隔地でもサービスを提供したいと考えています。私たちは衛星を設置して、彼らに長期契約でデータ容量を販売しています。
あまり詳しくは言えませんが、アラスカ州の通信プロバイダーであるPacific Dataportとの契約は、最低7年間アラスカ州でサービスを提供する内容で、数千万ドル以上の価値があります。
そして、このアラスカモデルは他の国や地域でも展開できます。今はまだ具体的な名前は出せませんが、ラテンアメリカ、中東、東南アジア、アフリカなど、世界中でプロジェクトが進んでいます。
――日本での事業展開は検討していますか?また、どういったパートナー企業を必要としていますか。
日本も他の国と同様にインターネット接続が必要ですし、まだインターネットにつながっていない地域があれば、当社のサービスがお役に立てると考えています。
Andreessen Horowitzがリードした投資ラウンドでは、伊藤忠商事も参加していました。伊藤忠商事は、非常に歴史がある総合商社です。彼らは、日本だけでなく、アジアにおける展開も支援できる基盤を持っています。パートナー企業に関しては、具体的なイメージはありませんが、様々な可能性があると思います。