Image: Art of Sport
Art of Sportは、テクノロジー分野で20年以上の経営経験がある創業者が作ったスキンケアブランドだ。若手アスリートの「声」に基づいた製品開発と、消費者のフィードバックを製品の改善に直結させた手法、そして徹底した効率化と経費削減により7ドルを超えない価格設定を全製品で実現し、多くのアスリートから人気を得ている。同社の創業には元NBAのスーパースターである故コービー・ブライアント氏もパートナーとして関わっていた。今回は、創業者でCEOのMatthias Metternichi氏に話を聞いた。

生まれた時から一生“身につける”肌を大切に

――まずはArt of Sport設立の経緯を教えてもらえますか?

 私は子どもの頃から、自分でアイデアを生み出し、それを形にすることが好きでした。9歳の時に、両親が買ってくれたコンピューターを使い、自分でビデオゲームを作るために独学でコーディングを学んだんです。

 どんなゲームを作るか考え、自分でストーリーを書き、自分でデザインした、オリジナルビデオゲームを作り、次第に販売するようになりました。そして、14歳の時にはコンピューターハードウェアを販売する会社を持って、他の学校に売っていましたね。

Matthias Metternich
Art of Sport
Co-Founder & CEO
ベルリン・フンボルト大学にて政治学(国際関係)と経済学を学ぶ。2004年にロサンゼルスにてデジタル製品およびサービスを提供するスタートアップを設立し、2009年に売却。2010年から2014年までの間に、ロンドンでソフトウェア会社、デザイン会社、クラウド型CRMおよび決済処理などをトータルに提供する会社3社を創業。2014年にロサンゼルスに戻り、2018年にArt of Sportを創業、CEOに就任。
 Art of Sportを創業するまでに、ソフトウェア会社、決済代行会社、クラウドコンピューティングの会社と、水着の会社も創業しました。今に至るまで、ほとんど全て独学で知識を得てきました。私は自分の創造力で、ワクワクするようなものをデザインし、それにテクノロジーを組み合わせて、プロダクトにすることに情熱を感じます。

 中でも、デザインは原点の1つです。社会に影響を与えるような、例えば、ナンバーワンヒット曲や素晴らしい映画も、デザインによって生み出されます。私は創造力やデザイン力を持ち、テクノロジーに精通した起業家として、業種に縛られることなく、社会に影響を与え続けたいと考えています。

 若い頃は、アスリートとしてNIKEなどのスポーツブランドを愛用していました。時代を超え社会に影響を与え続ける、スポーツブランドのメッセージに触れてきましたし、アパレルやフットウェアに関しては信頼できるブランドがありました。

 しかし、制汗剤やボディソープなど、スキンケアに関してはどうでしょう。時代を超えたメッセージ性のあるブランドがないと感じていたんです。

 アスリートの肌は、日光にさらされ、乾燥します。そして、清潔に体を保つために一日に何度もシャワーを浴びます。肌は人間が一生“身につけるもの”ですから、洋服より重要です。いち消費者としても、スキンケアは非常に大きな課題で、興味深い分野だと気づきました。そして、アスリートとして、起業家として、テクノロジースキルを持つ者として、この分野を追求しようと考えArt of Sportを創業したんです。

Image: Art of Sport Art of Sportのスキンケアブランド。

全製品が7ドル以下。アスリート向けのスキンケアブランド

――2018年、制汗剤、シャンプー、日焼け止めなどの独自スキンケアブランドを立ち上げました。成長した理由は何でしょうか。

 私たちは、ターゲットを「年齢」で決めるのではなく、「マインドセット」に基づいて決めています。例えば、NIKEの消費者にも、サッカーチームに入って初めてNIKE製品を買う8歳の子どももいれば、通勤で履くためにスニーカーを買うビジネスマンもいますが、年齢に分けたメッセージではなく、年代を超えて感動を与えるメッセージ、消費者に語りかけるブランディングを行っています。

 当社も、マインドセットに基づいたブランディングを行ったことが、ビジネスの大きな力になったと思っています。また、スキンケア分野には、消費者に向けてブランドメッセージを発する企業がなかったことや、近年、自分の外見を気にする人が増え、自分が何を買うか“選択”する消費者が増えました。このタイミングを捉え、幅広い世代から支持を受けられたんです。

Image: Art of Sport アスリートの声を聞きながら商品を開発。

 もう1つの理由は、私と共同創業者が2人ともテクノロジー分野で20年以上の経験があり、短期間でビジネスを拡大させる方法を知っていることです。Art of Sportはデジタル企業としてスタートし、オンライン販売から事業を始めました。

 当社の運営方法は平均的な小売業者と比較して、かなり先進的です。消費者とのコミュニティーを構築し、製品を購入する際に素晴らしいカスタマーエクスペリエンスを提供したことで、最初の4ヶ月でAmazonで5000件以上の5つ星評価を受けました。そして、その後オムニチャネルに移行しました。

 当社では、スタッフやパートナーも全員がアスリートですし、消費者もアスリートです。創造性と哲学を持ち、消費者と共感できるスタッフが、消費者の声に常に耳を傾け、迅速に製品にフィードバックしているんです。

――今後さらに成長に拍車がかかりそうですね。

 そうですね。大型量販店のTargetとのパートナーシップを結び、1600店舗で14の製品を販売しました。創業2年目のブランドとしては異例の取扱規模になりました。

Image: Art of Sport 大型量販店のTargetとパートナーシップを結び、大規模に販売。NBAのジェームズ・ハーデン選手が掲載。

 来年の商品の取り扱いは6倍に増えると見込んでいます。当社は、100万人近い若いアスリートたちと交流を持ち、新しい製品の開発に力を入れ、既存製品に関しても、改良を続けています。企業として規模拡大を目指しますが、製品の質を高め続けることや、購入しやすい環境を構築し続けることも同時に進めなければ意味がありません。

 製品は全て約6.99ドル以下で購入できます。一部の人しか買えないような、ブランドをデザインしても意味がありません。全てのアスリートに使ってもらえる価格帯で製品を提供することにこだわり、小規模チームによるシンプルで機敏な会社運営により、効率化や経費削減に成功し、低価格を実現しました。

 当社の製品には、業界で一般的に使われている化学物質の多くを使っていません。高品質な製品を、この価格帯で販売している企業は他にないと思います。

――順調に業績を伸ばしていますが、苦労したことなどがあれば教えてもらえますか?

 当社では、財務的に健全な状態を保ちつつ、可能な限り成長することを目指しています。このやり方を貫くためには、外部資本に頼らず会社を運営できるよう、収益性を重視しています。

 スタートアップにとっては、毎日が苦労の連続です。うまくいかないこともたくさんありますし、問題も深刻なものから、成長に伴う“痛み”である場合もあります。毎日違う新しいパズルに取り組んでいるようなものですね。

 しかし、アスリートが困難に立ち向かう時と同じように、ベストを尽くすしかありません。十分な準備をすることが大切で、時には負けることもありますが、それも含めてアスリートのジャーニーだと思っています。



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