データサイエンスを活用し、薬の効果や安全性を検証
――まずAetionのプラットフォームについて詳しく教えてください。
私たちは、日常の医療データや臨床データを、疫学調査や薬効調査に適応可能なReal-World Data (RWD)として出力するデータ管理プラットフォームを提供しています。
データサイエンスに基づいたテクノロジーを使うことで、クライアントは臨床実験にデータを活用したり、薬の効果や安全性を検証することができるようになります。あらゆる人々がどの薬が自分に合うのかを知り、適正な価格で購入できるようになることが私たちの目標です。
Image: Aetion
――どうしてこのようなプラットフォームを作ろうと思い立ったのですか。
Aetionはもともとハーバード大学医学大学院で、2人の薬剤疫学士によって創業されました。創業者の1人目、Sebastian Schneeweiss博士自身は医師でもありデータ科学の専門家でもあります。2人目の創業者であるJeremy Rassenは、ハーバード大学でコンピュータ科学を勉強したのちシリコンバレーでビッグデータに関する業務に携わりました。その後、ハーバードに戻り医学大学院へと進みます。Schneeweiss氏は、Rassen氏の論文指導担当でした。
2人は共に、薬の効能を検証するテクノロジーのコードを書いていましたが、そのアプローチが拡張不可能で、エラーも発生しやすいことに気づきました。しかもそのプロセスに直接関わっていない限り、どのような仮説をもとに分析が行われているのか把握することも困難を極めました。例えば、ある薬を長期的に服用したら症状が悪化するのかそれとも改善するのかなど、製薬の過程では異なる薬同士で効能を比較する必要もあります。
そこで、創設者の2人は、薬効を拡張的に検証できるAetionエビデンスプラットフォームを設計しました。数百万人の患者の医療データを検証し、どの人にどの薬がいつ一番効くのか等を透明性のあるプラットフォームで提供することで、ステークホルダーからの信頼につながっています。
――プラットフォーム立ち上げにあたり、どのような点が課題でしたか。
現状存在する質の高いデータを、分析可能で信頼できる分かりやすいデータに変換することです。例えば、ある患者が今日薬を服用し、次の日具合が悪くなったとしたら、それは薬のせいだと思いますか? それともそんなにすぐ効果は出ないものでしょうか? このように、不明確な点が多いデータは分析に使うことはできません。従って、一番大きな目標は、医療従事者や科学者が正確で信頼できる有用なデータを用いてエビデンスの検証を行うことです。
Image: Aetion
私たちは多くの場合、薬を飲み始めても処方された分を全て飲み切ることはありません。効果がないと思ってやめてしまったり、他の薬に切り替えてしまいます。あるいは副作用に苦しんでいる患者を見て、「薬を飲まない」と決めてしまうこともあります。そうすると、患者は飲みもしない薬に無駄な費用を使うことになるのです。また、異なる年齢の患者同士で持病がある場合、そのつど臨床実験を行って薬の開発を行わなければいけません。
私たちは、この問題を解決しようとしているのです。臨床データを扱う人々が、どの薬に効果があるのかをより効率的に分析できれば、適切な摂取タイミングや、摂取人口を決定することができます。
2020年は新型コロナウイルスデータの管理に注力
――2020年の新型コロナウイルスによるパンデミックをどのように乗り越えましたか。
2020年は多くの点で先が見えませんでした。初心を忘れず企業として一丸となって目先のことにしっかり取り組むことが重要でした。本来、2020年は企業をより大きくさせるという目標がありましたが、新型コロナウイルスのクライシスが世界規模のものであるということが現実味を帯び始めたとき、私たちは自分たちの原点に戻り、新型コロナウイルスデータの管理に専念することにしました。
その結果、FDA(アメリカ食品医薬品局)とも提携を行い、ICER(臨床経済的評価研究所)にも私たちのプラットフォームを使ってもらえたのです。最終的には、予想以上の速度で会社が成長したので現存のクライアントに加えて新規のクライアントも増えました。
また、企業が成長する過程で、社員もストレス下におかれていました。私たちは社員の健康にも気を配り、みんながお互いを支援できるような環境づくりにも努めました。
――2021年5月にシリーズCラウンドで110億ドルを調達しました。資金調達の目的を教えてください。
1つ目の目的は、プラットフォームの改善をたえまなく行うことで現在のクライアントとより関係を深めることです。例えば、新進気鋭のバイオ医薬品業界等では、まだ私たちにできることがたくさんあると感じます。
2つ目は、国際展開および、ジャンルの違う医療デバイス・医療診断の現場でも活用のチャンスを模索することです。
――最後に日本の読者にメッセージをお願いします。
日本では既に複数の企業や機関と事業提携し、共に業務を行っています。また、日本にオフィスのある製薬企業のベーリンガーインゲルハイムとも組んでいます。日本でより大きな存在として展開できたら非常に嬉しく思います。
公共機関だけでなく、民間・教育機関とも提携の余地があるので、RWD、RWEに関心のある団体と関係を構築できるといいですね。データのスタンダードを設けたり、データをエビデンスに変換することは大きなポテンシャルを秘めています。多くの機関とつながるほど、より大きなネットワークを構築でき、データをエビデンスに変換しやすくなりますから。