Image: AdhereTech
たった一つのピルボトルが、薬を飲み続けるモチベーションをあげてくれたら、病気の治療に役立つのではないか。今回は、スマートピルボトルを使って患者と製薬会社を繋ぐサービスを提供するAdhereTechのCo-founder & CEOのJoshua Stein氏に話を聞いた。

薬の飲み忘れを防ぐIoTスマートピルボトル

―まずAdhereTech設立の経緯についてお聞かせください。

 2006年頃に大学を卒業した後、多くのテクノロジー企業で働きました。それから2010年にウォートンビジネススクールに入学し、2012年に卒業しました。AdhereTechは、ウォートンスクール在学中に設立した会社です。

 医療用語で、患者が薬を服用しないことをMedication Non-adherence(メディケーション・ノンアドヒアランス)と言いますが、これは健康管理において大きな問題の一つです。実際、この問題に対して、アメリカだけでも毎年かなりの費用をかけて、莫大な数の研究がなされています。それくらい大きな問題です。

 会社を設立した頃から、私たちはインターネットを使った対策はまだまだ初期段階なので、IoT技術を利用して、アドヒアランスを改善していこうと考えていました。ありがたいことに、早い段階で資金を集めることができたので、生物工学とデバイスを掛け合わせた開発を進め、今では私たちのスマートピルボトルは世界最大級の医療用デバイス製造会社で生産されるようになり、何万人もの患者に利用されています。

Joshua Stein
AdhereTech
Co-Founder & CEO
ウォートンビジネススクールに在学していた2011年、AdhereTechを設立、CEOに就任。
 

連携プレーが見せる、薬の効果とは

―具体的にどのようなサービスを提供されているのでしょうか。

 私たちのサービスは、スマートピルボトルを通して患者が参加するプログラム全体を指します。患者が持つピルボトルがAdhereTechにデータを送り、独自システムがピルボトルから得た情報を、薬局などから取得しているデータや、これまでやり取りのあったテキストメッセージや電話のデータなど、既に保持しているデータとあわせて分析します。その分析されたデータに基づいて、患者が薬を正しく飲めるよう自動的にサポートするのが私たちのサービスです。

 具体的には、患者に薬の服用を忘れないよう知らせたり、なぜ薬を飲み忘れたのか、再診を必要としているか、副作用はあるか、薬の追加は必要か、などの確認をします。相互コミュニケーションのプラットフォームを利用して全て人口知能を使って自動的に行っています。蓄積されたありとあらゆるデータを基に、患者の服用パターンや行動を分析し、どんな種類の薬をどれくらい服用しているのか、また、次に受診するタイミングなどを把握し、データに基づいて必要と判断された情報を特定の施設や介護者に送ったり、薬剤師にアラートを送ったりすることができるのです。

 このプログラムは、薬局の看護チームと連携を取っているため、ピルボトルを通して薬局にいる看護師にアラートを送ることで必要時には看護師の助けを借りることができます。ピルボトル自体は全体像の一部であり、薬局との連携も含めて私たちのサービスになります。

―なるほど。プログラムは、どのような仕組みで成り立っているのでしょう。

 AdhereTechは、患者を中心としたビジネスを提供しています。患者を楽にしてあげたいと考えた結果、患者に寄り添う医療機関と提携する形になりました。今日、医薬品は患者の助けになっています。AdhereTechのサービスでは、製薬会社にスポンサーとなってもらい、患者は無料でこのシステムを利用することができます。そのため、私たちの顧客は製薬会社であり、実際のユーザーが患者というわけです。

―強みや競合との差別化のポイントを教えてください。

 大きな違いの一つは、「ピルボトルを使ったシステムが全てを解決してくれること」です。もちろん患者の協力度合いにもよりますが、患者によってはお知らせしてあげることで、飲み忘れを解決することができます。このような通知などは全てデータに基づいていて、薬の服用パターンなど、全ての要因を考慮し判断していくことで、このシステムが患者にとって最も効果的な手段を提案します。

 私たちのところには、更なるサポートを必要とする患者に関する最新のデータが入ってくるので、むしろ情報を共有することで、治療自体の向上やより良い治療結果が出すことができると考えています。

―どのようなことがデータを通して見えてきたのでしょうか。

 現在、多数の企業と提携し、癌や多発性硬化症などの大変深刻な病気の薬にも向き合っています。薬というのは必ずしもいい効果をもたらすわけではなく、患者によっては強い副作用があらわれることもあります。ですから、患者が自己判断で薬を服用しなくなったりしてしまうことも少なくありません。

 また、副作用が強すぎて、薬が効いているにも関わらず、結果が出る前に薬を変えてしまうこともあります。情報を集めてきたことにより、ノンアドヒアランスにも理由があるというのは分かってきたのですが、その一方で、なぜ患者が服用しないのかを知るために情報を集めているようにも思えてきました。今まで誰もやったことがないからこそ、患者が薬の服用をやめてしまう原因を特定することで、患者をサポートし、最終的に治療効果を上げていきたいと考えています。

世界中の患者に届け。国際的な取り組み

―日本を含め、海外への展開はお考えですか。

 世界中に患者がいる中で、日本も大切な市場の一つです。AdhereTechは、世界中にあるたくさんの大手製薬会社、そしてたくさんの人と仕事をしています。提携先でも日本に進出している企業は多くありますし、なにより製薬業界における日本の存在は大きいものです。実は日系企業との提携はまだ実現しておらず、これから関係を構築していくところなので、もし同じ目的を持つ企業があれば、ぜひ一緒に成長していきたいですね。



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